【都議選2021】データと現場の声による 東京都議選の最終盤情勢と衆院選への影響(選挙コンサルタント・大濱崎卓真)

「自民党情勢調査」の数字に気をつけろ

自民党東京都連が実施したとされる情勢調査(以下、党調査)の数字が永田町や報道関係者を中心に出回っています。出回っているのは2パターンあり、最終的に獲得する議席数だけを数字にした「簡易版議席予測」と、全選挙区候補者の支持割合が記された「詳細版議席予測」です。議席については最大値〜中央値〜最小値とレンジになっているのも特徴です。

さて、いきなり厳しい見出しになってしまいましたが、この「党調査」の数字をそのまま鵜呑みにしたような報道が複数の媒体で既に出ています。筆者は「党調査」の癖や特徴から、実際の議席数とは乖離する可能性があり、このままこの数字が結果に直結するような伝聞報道するべきものではないと考えています。どのような癖や特徴があり、どのように注意して数字を見ていくべきなのか、考えていきましょう。

第一に、「党調査」の数字は一般的に自民党候補者にとってやや有利な数字が出ることが、これまでの衆院選・参院選でも指摘されています。衆院選であれば得票差5,000票差以内で負けた候補者陣営の多くは「調査では数ポイントリードしていた」という点で一致していました。もちろん誤差の範囲と一括りにすることもできますが、反対の事例(調査では数ポイント負けていたが、ギリギリ勝った)をほとんど聞かないこと、政党支持率がマスメディアの行う調査よりも高めに出ている傾向などから、「党調査」のひとつの特徴として割り引いて考える必要があるでしょう。実際に自民党都議候補者の中でも、「出回った数字は『2ポイント』は割り引いて考える必要がある」との声がありました。

第二に、この数字がなぜ出回ったのかです。前回の都議選でも似たような数字の噂はありましたが、「詳細版」として出回ってマスメディアの報道記者が皆入手するような状況ではさすがにありませんでした。ところが今回は、この「党調査」の数字が前広に拡散されている状況でもあります。「党調査」の詳細版をみればわかるとおり、必ずしも自民党東京都連の候補者は全員が当選確実というわけではなく、複数人擁立区を中心に最後の1議席を争う戦いとなっているところもあります。一方、都民ファーストの会各候補の数字が厳しく、野党の立憲民主党、日本共産党の議席が伸びそうだという予測も含めたメッセージにより、都民ファーストの会から自民党へ浮動票を寄せに来ている(死票を減らす動き)誘導とも考えられます。

都議会公明党は果たしてどうなるのか

第三に、公明党です。過去3回の東京都議選では、いずれも23議席を死守することに成功しましたが、今回は苦戦との噂もあります。党機関紙の公明新聞(5月25日・1面)では、「電話や会員制交流サイト(SNS)も積極的に活用」と書き、また友人知人に公明新聞電子版の記事を「シェアボタン」を活用して勧める記事(6月1日・3面)が出るなど、従来の集会型の選挙からの脱却を試みていますが、コロナの影響に加えて党員の高齢化、更に安保法制や都構想などにみられたまとまりの欠ける動きに、党は危機感を持っています。

では、なぜ友党公明党の危機をも書かれている数字を自民党は出回らせているのでしょうか。「党調査」では、中心値こそ16としつつも、最大値は「23」と現有議席保持の可能性にも触れています。40年前の東京都議選でも、国政選挙での厳しい結果を受けて公明党惨敗が予測されましたが、蓋を開けてみれば現有25議席を死守しました。この動きを再来させるためであり、また自民党にとっては都議会第一党になっても単独過半数は取れない以上、自公連立による過半数へ確実に持ち込むためにも、危機を煽る数字を出しているとの見方があります。

仮に公明党が現有議席を大幅に減らし、党調査の予測する議席数となった場合、共産党よりも議席を減らす可能性があります。場合によっては、立憲民主党を下回って都議会第4党となる可能性もあり、そうなればキャスティングボートを握ることもなく、党が一層厳しい状態となることは間違いありません。一般市民のワクチン接種が加速するなか、この都議選を乗り切れるかどうかが大きな鍵といえるでしょう。

野党(立憲民主・共産・国民民主・れいわ)はどうなるのか

一方、立憲民主党・生活者ネットは現有8から少なく見積もっても倍との数字が出ています。5月末から6月にかけての国会論戦や内閣不信任案という一連の動きもあり、野党第一党の支持が比較的伸びやすい時期だったことも功を奏して、定数2の選挙区を中心に安定した戦いを見せそうです。

共産党の躍進も伝えられています。現在のところ、立憲民主党・生活者ネットと共産党が都議会第2党を争うのではないかとの見方もあり、「党調査」も同様の傾向を示しています。ただ、これは注意が必要で、特に電話情勢調査はその手法(サンプルの取り方、時間帯など)によって共産党支持が多めに出る傾向が知られています。議席減ということはないでしょうが、議席の伸びは立憲民主党・生活者ネットの方が強いでしょう。この都議選に向けていち早く運動を開始していたのも、コロナ禍における対応の変化が早かったのも共産党だったことを踏まえれば、この点が強みになってくることは間違いなさそうです。

国民民主党は、厳しい戦いになるでしょう。そもそも立候補者が1桁というなかの戦いに加えて、山尾志桜里氏の衆院選(比例東京ブロック)辞退と政界引退宣言もあり、地上戦・空中戦ともに苦しい戦いとなっています。この状況では、確かに衆院選東京ブロックも厳しい戦いになることでしょう。

れいわ新選組も同様に厳しい戦いになることは間違いありません。2019年の参院選直後には、次期衆院選での東京ブロック1議席獲得が確実視されていましたが、ここ最近はコロナ禍で存在感が出せず、当初言われていた衆院選3議席(比例東京、比例南関東、比例近畿)の確保を見直す予測も出てきています。党勢を巻き返すための活動として、どの程度集票ができるかに注目です。

 

候補者によって差が大きい都民ファーストの会

都民ファーストの会の動向を、筆者(大濱崎)が「選挙ドットコム」に書くのは少々気が引けるのですが、まず言えることは候補者ごとの差が本当に激しいということです。地域性を完全に否定するわけではありませんが、従来型の選挙を知っている候補者をはじめ、4年間の任期中に地元に一定程度の定着ができた候補者とそうでない候補者との差が、情勢に現れています。軒並み人手不足といわれているのも都民ファーストの会で、ボランティアの募集などを含め選挙戦をどのように戦うのか見えない候補者も少なからずいます。

ただ、やはり小池旋風で当選した東京都議会議員の面々ですから、ここはやはり「小池旋風」が再び台風のようにやってくるのではないか、との観測もあります。筆者は先日も某番組で「小池百合子都知事が『蜘蛛の糸』のように、助けたい都議に糸を垂らすのではないか。多くの候補者がこの糸によじ登り、下から登ってくる他の候補者を蹴落とすようなことがあれば、小説通りになりかねない」と述べたところですが、いわゆる「百合子降臨」があってもなくても、平時の活動量運動量が如実に票や議席に表れてくることでしょう。

 

このほか、東京都議選には数多くの諸派・無所属候補者が立候補するのも特徴です。区議選の近い葛飾区や、定数8の世田谷区には複数の諸派・無所属候補者が立候補予定です。ぜひお住まいやご関心のある選挙区について、ひとりひとりの候補者情報がよくまとまっている選挙ドットコム内の特設サイトで見比べてみてください。

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