国内のワクチン接種回数が急伸、4~6月期GDPはマイナス成長になるとは限らない理由

1~3月期実質GDPは、米国では順調に3四半期連続のプラス成長となりましたが、日本では2度目の緊急事態宣言下であったため、3四半期ぶりにマイナス成長になってしまいました。

4~6月期も米国はしっかりしたプラス成長が予測されますが、日本は一部にマイナス成長を予測する声があるように、3度目の緊急事態宣言発出で飲食、サービスなど対面型の業種が大きく落ち込んでいます。

日米のGDPの差は、日本が米国に大きく後れをとった、これまでのコロナ・ワクチン接種状況の違いによるところがあるようです。日本でも、5月下旬あたりからワクチン接種のペースが加速し始めたことで、先行きの景況感に改善の兆しが見え始めました。


日本はマイナス成長だが、景気の基調はしっかり

1~3月期実質GDPは、米国が前期比年率+6.4%のプラス成長になったのに対し、日本は前期比年率▲3.9%のマイナス成長になりました。米国では新型コロナウイルスワクチンの普及、政府の大規模な財政出動が成長を後押ししました。

最大の需要項目である個人消費は、米国では前期比年率+11.3%の増加だったのに対し、日本では2度目の緊急事態宣言発令の影響で個人消費支出が前期比年率▲5.8%の減少と逆方向の動きになりました。ただし、日本の1~3月期・実質雇用者報酬は前期比+2.3%と3四半期連続増加になったことは、コロナが収束すれば消費が戻る可能性が大きいことを示唆しています。

輸出、生産は堅調です。鉱工業生産指数(2015年=100)では、底堅さが維持されていることがわかります。4月分確報値は速報値から0.4ポイント上方修正され100.0になりました、新型コロナウイルス感染拡大前の2020年1月(99.1)を上回り、2019年9月(102.4)以来の水準に戻りました。

景気動向指数による景気判断は3月分・4月分と2カ月連続で、景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」になっています。QUICK短観6月の製造業・業況判断DIは+26で、景気の山だった2018年10月以来2年8カ月ぶりの高水準になりました。コロナが収束しさえすれば、景気はしっかりする可能性が大きそうです。

新型コロナワクチンの接種回数は直近20日間で2.4倍に加速

NHKのHPに掲載されている日本の新型コロナウイルスのワクチン接種回数(100人あたり)は、5月6日に取得したデータでは、2.76回にすぎず、米国の74.08回に比べかなり少ない状況でした。

「景気ウォッチャー調査」の先行き判断で「ワクチン」に言及した人は2020年12月・113人、1月・226人、2月・379人と月を追うごとに増加していましたが、3月では230人に、4月では306人にとどまりました。

「ワクチン」関連先行き判断DIは12月43.4から上昇し1月では50.1と僅かだが分岐点の50超になった後、2月で61.2まで上昇しました。しかし、3月は57.0、4月には47.0に低下しました。期待が大きかった「ワクチン」の接種進捗の遅れなどが意識され、やや失望感が出ていることを示唆する数字になりました。

5月24日から、自衛隊による新型コロナ・ワクチンの大規模接種が、東京と大阪の会場で始まりました。接種加速の動きが出てきたことは明るい材料です。それを受けてでしょうか、5月25日~31日が調査期間の5月の景気ウォッチャー調査では「ワクチン」関連先行き判断DIが持ち直しました。先行き判断で「ワクチン」についてコメントする景気ウォッチャーが506人と初めて500人を超え、「ワクチン」関連先行き判断DIは56.2と再び50超になりました。

NHKのHPより6月15日に取得したデータでは、100人あたりのワクチン接種回数で日本は18.73回、米国は92.47回です。5月26日では、日本は7.49回、米国は85.78回です。5月6日から5月26日までの20日間で日本は4.73回、米国は11.70回、各々増加しました。5月26日から6月15日までの直近の20日間で日本は11.24回、米国は6.69回、各々増加しました。日本で接種が約2.4倍に加速していることがわかります。

さらに、6月13日の全日空を皮切りに職域接種が始まりました。医療従事者や高齢者だけでなく、幅広い年齢層にワクチン接種が広がる局面に入りました。国民一人一人の感染対策の実施、変異株に対するしっかりした水際対策などに加え、他国と比べ遅れていた日本のコロナ・ワクチン接種ペースの改善で、何とか新型コロナウイルスの感染拡大が収束していくことを期待したい状況です。

4~6月期GDP は必ずしもマイナス成長になるとは限らない

3度目の緊急事態宣言が発出されたことを受けて、GDPの過半数を占める個人消費が落ち込み4~6月期はマイナス成長が継続するという見方も多いようです。しかし、家計調査など需要サイドの4月のデータは底堅く、4~6月期GDP はもたつくものの必ずしもマイナス成長になるとは限らないことを示唆する結果となりました。

家計調査と同時に発表された総務省の総消費動向指数は、個人消費の97%に当たる家計最終消費支出の推移を様々な月次データによる時系列回帰モデルによって求めたものです。実質総消費動向指数4月の前月比は▲0.1%の微減にとどまりました。4月の対1~3月平均比は+1.3%の増加です。5月の落ち込みを考慮しても4~6月期は大幅なマイナスにはなりにくいと思われます。

また、財とサービスに関する各種の販売・供給統計から算出している日銀の実質消費活動指数(旅行収支調整済)は4月の対1~3月平均比は+0.4%とプラスの伸び率になっています。

ESPフォーキャスト調査6月調査によると、8月16日に公表される4~6月期実質GDP成長率見通しは37人の平均で前期比年率+0.17%、高位8人の平均は+1.85%、低位8人の平均は▲2.15%となりました。実質個人消費の平均は前期比▲0.34%のマイナスにとどまっています。エコノミストにより見方に幅があるものの、GDPは若干のプラス成長というのがコンセンサスです。

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