今年の平和宣言は

 長崎市長が8月9日の平和祈念式典で読み上げる平和宣言文の起草委員会が始まった。毎年この時期に市は被爆者や有識者らでつくる起草委に原案を諮り、3回ほどの会合を経てまとめる▲宣言は、被爆地長崎が発信する平和と核兵器廃絶のメッセージ。注目度は高く、起草委員長を務めた故土山秀夫さんは、日本政府にとどまらず米政府も毎回関心を寄せているとよく話していた▲以前、宣言の変遷を調べたことがある。内容が深化したのは本島等市長の時代で、戦時中の日本の加害責任なども指摘。続く伊藤一長市長は本島氏の流れをある程度引き継ぎながら、より国際社会を意識したものへと発展させた▲田上富久市長に変わっても、原案をたたき台に起草委で磨くスタイルを継続。福島第1原発事故後のころは議論が紛糾し小委員会を設置したこともあった▲起草委での論点が、宣言にどの程度反映されるかが焦点。世界的な新型コロナ禍の中、核廃絶への道のりは一層険しく、日本政府は核兵器禁止条約に背を向けている。前へ進めるメッセージを示せるか。また戦後75年を経て先の大戦や平和憲法にどう言及するかも注視したい▲今回の起草委で「世界の指導者に訴えるよりも、まずは被爆国のリーダーに訴えるべきでは」との意見があったという。同感だ。(貴)

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