中国の台湾軍事侵攻を抑止せよ  元米国防副次官補が日本に求める「能力」とは

 米国と中国の対立が深まり、台湾海峡の緊張が懸念される中、トランプ前米政権で国防副次官補として対中戦略の策定に加わったエルブリッジ・コルビー氏がオンラインでインタビューに応じた。中国による台湾軍事侵攻が来年起きても不思議ではないとの見解を示し、抑止するため在日米軍基地への地上配備型ミサイル導入が必要だと強調。日本に安全保障に対する認識の転換を求め、防衛費を倍増させるべきだと訴えた。対中包囲網の構築を進めるバイデン政権の方針を一定程度評価しながら、インド太平洋地域における米軍態勢強化の取り組みは「不十分だ」と指摘した。(共同通信=田中光也)

共同で訓練する海自イージス艦「こんごう」(手前)と米空母「セオドア・ルーズベルト」(奥)=2021年1月、沖縄・沖大東島周辺(海上幕僚監部提供)

 ▽抜本的な変革を

 ―中国を「着実に迫る脅威」と位置付けるバイデン政権の対中戦略をどう見るか。

 トランプ前政権からの継続性が見られ、評価すべき点もある。ただ、中国が「着実に迫る脅威」であるのは明白であり、そのように位置付けただけでは喜べない。中国が劇的に軍事費を増大させているのに対し、バイデン政権の国防予算の要求額は不十分だ。米軍のインド太平洋における態勢強化の取り組みも遅い。抜本的な変革が必要だが、それが見られない。

エルブリッジ・コルビー氏(本人提供、共同)

 ―今年3月、米インド太平洋軍司令官(当時)は中国が6年以内に台湾に侵攻する可能性があると指摘した。

 来年でもおかしくない。台湾の人々が反発する中、中国が統一を実現するには軍事侵攻しかない。中国は1996年の台湾海峡危機以降、経済発展で得た富を軍事力に転換しており、軍事バランスは中国優位に傾いている。軍事侵攻が成功すれば、米国の対中抑止力が無力であると示すことになり、フィリピンやベトナム、日本にも大きな圧力をかけられる。超大国は自国の利益のためなら、軍事力を行使する。台湾に近い日本の防衛に直結する問題だ。

演習を行う中国軍の兵士=2020年7月(新華社=共同)

 ▽地上配備型ミサイルが必要

 ―抑止するために日米はどう対応すべきか。

 中国が台湾を数週間で軍事支配してしまうことを阻止しなければならない。沖縄からフィリピンにかけた第1列島線内に、中国の攻撃に耐えうる攻撃力の高い戦力の展開が必要だ。ハワイや米西海岸からの米艦船派遣は時間がかかり、長距離爆撃機や原子力潜水艦の数も限られる。沖縄や米領グアムの米軍基地は脆弱(ぜいじゃく)だ。インド太平洋地域で米軍の戦力を分散させ、同盟国との訓練を増強、ミサイル防衛(MD)を強化するのに国防費を振り向ける必要がある。

 ―在日米軍に必要な戦力は。

 地上配備型ミサイルが必要だ。中国の攻撃により滑走路などは破壊され、機能しなくなる恐れがある。ミサイルを配備すれば、中国が標的にしなければならない対象が増え、中国の攻撃に対する耐久性が増す。配備するのは、対艦ミサイルや台湾海峡が射程圏の短距離ミサイルが想定される。中国の首都北京や核兵器が配備されている中国本土の奥深くまで届く射程は必要ない。

米軍との実動訓練を行う陸自の水陸機動団=2020年2月、沖縄県金武町の米軍ブルービーチ訓練場

 ▽日本の防衛費、倍増を

 ―日本に何を求める。

 日本の防衛費を国内総生産(GDP)比の1%以内とする憲法規定はない。倍増させるべきだ。中国が台湾を占領すれば、10倍の防衛費が必要となる。日本は戦後、米国に防衛を任せてきた。それは正しい戦略で賢かったのかもしれない。米国の戦力が圧倒的で、誰も挑戦してくる者がいなかったからだ。だが、今は違う。日本は安全保障と防衛に対する認識を根本的に変える必要がある。

 ―日本のどのような能力の向上が必要か。

 防衛に特化して向上させるべきだが、その対象範囲には台湾も含むべきだと思う。台湾の防衛は日本の防衛と大きく関係しているためだ。対艦、対空、対潜水艦、サイバー、宇宙などの分野での能力向上が求められる。日本では、敵基地攻撃能力を保有するべきだとの議論も出ているようだが、個人的にはあまり効果はないと思う。かなり大規模な数を保有しなければ意味がないためだ。巡航ミサイル数発を中国の航空基地に撃ったとしても、迎撃されるか、航空機を1~2機破壊できるぐらいだ。中国の攻撃能力を奪うための攻撃は米軍が担えばよい。

 ―米国と中国の戦争をシミュレーションすると、米国が劣勢になっているとの結果も報じられている。

 あまり良い傾向にはなく、懸念を持っている。米軍が負ける結果も出ている一方で、将来的な戦力整備を反映させたシミュレーションでは米軍が勝利する結果も出ている。問題なのは、米軍の態勢強化が間に合わないかもしれないという点だ。時間が差し迫っている。日本の果たす役割は大きい。日米は在韓米軍と韓国軍のように連合司令部のような関係になるのが望ましい。日本が戦争になって、米軍が参戦しない状況は想定できない。日米の統合運用能力を強化しなければならない。

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 エルブリッジ・コルビー氏 米ハーバード大卒、エール大法科大学院修了。米シンクタンク、新アメリカ安全保障センターの研究員などを経て、トランプ政権下の2017~18年、国防副次官補(戦略・戦力開発担当)。中国を「戦略上の競争相手」と位置付けた18年の国家防衛戦略をまとめた。政策提言団体マラソン・イニシアチブ代表。

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