武田双雲の日本文化入門〜心楽し〜第3回 書道家デビューの頃

書道家・現代アーティスト 武田双雲とは?

武田双雲(たけだ そううん)さんは熊本県出身、1975年生まれの書道家で、現代アーティスト。企業勤めを経て2001年に書道家として独立。以後、多数のドラマや映画のタイトル文字の書を手掛けています。近年は、米国をはじめ世界各地で書道ワークショップや個展を開き、書道の素晴らしさを伝えています。

武田双雲さんの公式HPhttps://souun.net/

本連載では、双雲さんに、書道を通じて日本文化の真髄を語っていただきます。

【連載第3回】「双雲」として書道家デビュー

大企業を辞めて書道家として活動をしていくことを決意。半年間、熊本の実家で書道の師匠でもある母に弟子入りして、技術を再度学び直しました。

実家には母のダイナミックな書作品が家の中の至るところに飾ってあり、あらためて「美しいな」と深い感動を覚えました。僕も師匠のようなダイナミックでかっこいい書が書けるようになりたいと必死で練習を重ねました。

一から出直す気持ちで、書道道具のことや歴史など基本から学び直しました。書道の歴史や道具のこと、技術を学ぶごとに感動は増え、ワクワク感が大きくなってきました。

そして半年後、師匠から認められて雅号(※1)をいただきました。幼い頃から雲をボーッと眺めるのが好きで、部活中や授業中も雲を眺めていて怒られることもしばしば。それで師匠の名前「双葉(そうよう)」の「双」に大好きな「雲」を合わせて、「双雲」という雅号となったのです。

この時、新しく生まれ変わったような気持ちになりました。

書道家として活動開始

そして2001年1月から、神奈川県の湘南にある築100年の古民家で活動開始。

書道教室の生徒募集をかけても生徒さんは1人も集まりませんでした。時間だけはたっぷりあったので、夜になると前回お話したストリート書道をやるために近所の駅近くで書道道具を広げて、人が立ち止まるのを待っていました。

最初の頃は、誰も足を止めてくれなかったのですが、私自身が歩く人々に興味を持ち始めたら、少しずつ足を止める人が現れました。

でも最初は緊張して力んでしまい、手も震えてうまく書けず、コミュニケーションもカチコチでした。ちゃんと書こう、ちゃんと話そうと思うほどに失敗します。だから、ある時、逆に相手の話を聞いて楽しんで会話する、楽しんで書くことにチャレンジをしようと決めました。

すると、若い女性2人が「何か書いてください」と声を掛けてくれました。「今日はどんなことがありましたか?」と聞いたら「実はさっき彼氏にふられちゃって……」と10分ほどいろんな話をしてくれて、その後にふと頭に浮かんだ「愛」という字を優しいイメージで書きました。

すると彼女は号泣しながら感謝を伝えてくれました。置いてあった瓶に、当時の僕にとっては大きな額のお金を入れてくれました。そこから僕は、「楽しむ」ということを念頭に置いてストリート書道をやることにしました。

楽しんで路上で書道をやっていると足を止める人が増えてきました。その後もコミュニケーションを楽しんでいると、書いてほしいという依頼が増えるようになりました。

そこから僕は、「自分の心の中身と起こる現実の関係性」に興味を持ち、研究を始めたのです。

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