歴史的EVツーリングカー初戦はクプラ勢が席巻。ヒュンダイのベルネイも辛勝/ETCR開幕戦

 この2021年にシリーズ初年度開催を迎えた、TCR規定採用の電動ツーリングカー選手権『PURE ETCR(ピュアETCR)』開幕戦がイタリア、バレルンガで開催され、独創的フォーマットの週末をクプラ・レーシング勢が席巻した。

 参戦全12台がそれぞれプールA、プールBと別枠に分割され、ゼングー・モータースポーツXクプラとして参戦するミケル・アズコナ(セアト・クプラe-Racer)がA組を、マティアス・エクストローム(セアト・クプラe-Racer)がB組を制する幕開けに。

 最終日のスーパーファイナルB組のみ、ヒュンダイ・ヴェロスターN ETCRをドライブするジャン-カール・ベルネイが制したものの、戦力ではクプラ勢が一歩抜け出す印象を与える開幕戦となった。

 プロジェクト発足から数年の刻を経て、いよいよ6月18~20日に開幕のときを迎えたEVツーリングカー選手権は、ハンガリーのM1RAを実働部隊に迎えたアルファロメオ陣営のロメオ・フェラーリと、ファクトリーチームであるヒュンダイ・モータースポーツN、そしてプロジェクト創世記から基軸マニュファクチャラーとしてETCR発足を推進してきたクプラ・レーsングの3メーカーが集った。

 最大500kW(約680PS)を発生する電動後輪駆動車両たちは、シリーズ最初の週末から独自のフォーマットで戦うことになり、12名のドライバーたちは公式練習を経て金曜夜の“The Draw(ザ・ドロー)”で、プールAとプールBの計6名ずつに組み分けされる。

 明けた土曜には別組に分かれたドライバーたちが各マシンをシェアし、3台ずつで争うラウンド1に挑むと、常用300kW(約408PS)設定のマシンに、2番手以降で利用可能な500kWブーストを活用して勝負を繰り広げた。

 続いてその順位ごとに2台のデュエル方式によるラウンド2を戦い、午後に向けては“PURE ETCR Energy Station”での充電を経て、同様の方法でプールBも順位が争われる。

 そして日曜午前のラウンド3で、最大500kWを使用した1台ずつのタイムトライアルを実施し、各プールの6名が参加する午後のスーパーファイナルに向けたグリッド順が確定する流れとなる。

 このザ・ドローで、各組ともに有利なインサイドを押さえたのがクプラ陣営で、午前のプールAでは2018年TCRヨーロッパ王者のアズコナがラウンド1、ラウンド2を制すると、午後のプールBではエクストロームがその再現を演じるかのように、両方式の勝負を制圧。

 スウェーデン出身で、DTMドイツ・ツーリングカー選手権やWorldRX世界ラリー選手権王者の肩書きも持つ“ブランドアンバサダー”は、ラウンド1でアウグスト・ファーフス(ヒュンダイ・ヴェロスターN ETCR)とオリバー・ウェブ(アルファロメオ・ジュリアETCR)を撃破し、直接対決のラウンド2でルカ・フィリピ(アルファロメオ・ジュリアETCR)を降すなど、自らが開発を担ってきたセアト・クプラe-Racerの優位性を証明する結果を残した。

12名のドライバーたちは公式練習を経て、金曜夜の”The Draw(ザ・ドロー)”でプールAとプールBの計6名ずつに組分けされる
3台ずつのラウンド1は、常用300kW(約408PS)設定のマシンに、2番手以降で利用可能な500kWブーストを活用して勝負を繰り広げる
ラウンド1の順位ごとに、2台のデュエル方式によるラウンド2は、450kW(約612PS)の一定電力での勝負となる

■「僕らが歴史を作ることができて本当に光栄だ」と語ったアズコナ

 明けた日曜午前のタイムトライアルも、そのクプラ勢が席巻するものと予想されたが、プールAのアズコナ、プールBのエクストロームともに思わぬドラマに見舞われる。

 まずポールポジション奪取に挑んだアズコナは、最大500kWのパワーにワンメイク供給のグッドイヤーが音を上げたか、アタック中のバーストによるスピンを喫すると、別組で最速を刻んだエクストロームは、前夜のパルクフェルメ作業違反によりタイム抹消となり、ともにスーパーファイナルで最後尾からの挽回を強いられることとなった。

 レース直前にチームから「40秒間だけ使用可能な500kWのエクストラパワーの使い方について、有益なレクチャーを受けた」というアズコナは、オープニングラップでコースオフを喫したステファノ・コレッティ(アルファロメオ・ジュリアETCR)にも助けられると、続く周回でトム・チルトン(ヒュンダイ・ヴェロスターN ETCR)とのバトルに乗じ、僚友のジョルディ・ジェネ(セアト・クプラe-Racer)をパスすることに成功。

 その後、ワイドになったチルトンはパンクを喫してスローダウンし、首位を行く同じヒュンダイのファーフスも左リヤのパンクでピットインを余儀なくされ、わずか7周の短期決戦で首位に返り咲いたアズコナがジェネとのワン・ツー・フィニッシュを達成。週末77点を稼ぎ出して初代“King of the Weekend”の称号を獲得した。

 一方、アズコナ同様に最後尾発進となったプールBのエクストロームは、ジョン・フィリピ(ヒュンダイ・ヴェロスターN ETCR)とルカ・フィリピ(アルファロメオ・ジュリアETCR)を立て続けに仕留める見せ場を作ったものの、首位のヒュンダイにわずか0.781秒差で届かず2位フィニッシュ。勝者ベルネイが72点を獲得し、エクストロームはそれに次ぐ69点のランキング3番手でピュアETCR最初の週末を終えた。

「スーパーファイナルを最後尾からスタートするのは本当に大変だった。前の5台が速いことは間違いなかったからね」と語った“タグ・ホイヤー・モスト・バリュアブル・ドライバー・アワード”を獲得したアズコナ。

「日曜午前はリヤがパンクして本当に運がなかったけれど、このピュアETCRの最初の週末で僕らが歴史を作ることができて本当に光栄だ。クプラはレースウイークを通じて本当に速く、ここまでチームは素晴らしい仕事をしたと証明できた。チームメイトのペナルティは残念だったけど、最高のシーズンスタートが切れたね」

 ここバレルンガで度重なる事前テストを実施してきた甲斐もあり、初開催の1戦を成功理に終えたピュアETCRの初年度シーズン。続く第2戦は、3週間後の7月9~11日にスペインのモーターランド・アラゴンで争われる。

各マニュファクチャラーは2台のマシンを用意し、A/B各組の間に”PURE ETCR Energy Station”での充電を実施する
スーパーファイナルのB組を制したジャン-カール・ベルネイ「競合他社との戦力は把握できたし、次のアラゴンで何が出来るかを見てみよう」
「個人的に残念な週末にはなったが、ミケルを筆頭にチーム全体に賛辞を送りたい」とマティアス・エクストローム

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