ショッキングな映画「SNS―少女たちの10日間―」は何を訴える? 「12歳」を演じた女優に起きた出来事

映画「SNS-少女たちの10日間-」の一場面

 「SNS―少女たちの10日間―」はチェコのドキュメンタリー映画です。童顔の女優が12歳の少女のふりをして会員制交流サイト(SNS)で顔写真を含めて投稿をし、群がる2458人の成人男性とのやりとりを記録したものです。

 本稿執筆のために、研究室に出入りする大学生男女に映画を視聴してもらい、感想を聞かせてもらいました。彼らは、子どものネット問題改善のために有志で活動している学生たちですが、成人男性が動画アプリで性器を見せたり、卑猥(ひわい)な言葉で誘ったりする過激な内容は、そんな彼らでさえ受け止められないほどショッキングな映画でした。(兵庫県立大准教授=竹内和雄)

 ▽わいせつな要求

 遠いどこかで起きている問題ではありません。グラフ(1)は警察庁のデータから、「SNS起因の被害児童数」と、だまされたり、脅されたりして、自分の裸の画像などを撮影させられたうえ、メールなどで送らされる「自画撮り被害」をまとめたものです。これは警察に被害届が出された数字で、氷山の一角です。重要なのは増え続けていることです。

グラフ(1)ネット上の被害児童数の推移(警察庁のデータより)

 映画で、成人男性は「12歳役の女優」を「裸の写真をネットで公開するぞ」と脅し、自分のわいせつな要求を認めさせようとします。日本でも児童ポルノ事犯の典型的な手口で、警察が対策のための「自画撮り被害」という新しい用語を作ったほどです。

 この映画では、「12歳役の女優」と成人男性は、欧州の子どもたちに一般的なフェイスブックで知り合いますが、日本でのSNS起因の児童被害はツイッターが35・3%を占めています(2020年、警察庁)。これまで日本では、中学生まではLINE(ライン)中心で、ツイッターやインスタグラムは高校生からが一般的でしたが、コロナで休校になったころから中学生がツイッターなどを使い始めています。この変化は要注意です。LINEのやりとりは友達登録した人とだけですが、ツイッターやインスタグラムは知らない人ともやりとりが容易です。中学生はそこで「共通に趣味」を持つ人や「友達の友達」とやりとりします。最近は小学生まで使い出しています。フィルタリング設定時はもちろん、企業の規約でも小学生は使えないことになっていますが、日本社会は事実上、黙認しています。大問題です。

竹内和雄さん

 ▽映画からの問題提起

 映画で、チェコの性研究の専門家が「12歳役の女優」に「成人男性が『みんな君と性行為したがっている』と書き込みをしてきたとき、12歳のあなたなら返事すると思うか」という趣旨の質問をします。

 「12歳役の女優」は、「12歳の時の私なら好奇心から返信すると思うわ。怖いもの見たさでどうなるか気になるのよ。裸の写真までは送らないけど、少し挑発するかもしれない」と答えました。

 チェコの児童保護センター所長はこの発言を踏まえて、「自発的な行動に見えても彼女たちは10代です。自らの行動が招く危険性について推測する力がありません」「(性的な写真を自分から送る理由は)相手と連絡を取り続けるため。親と衝突する機会が増え、不満を抱える思春期の女の子は満たしてくれる相手を求めるからです」と語ります。チェコ特有のことなのか、日本でも同じなのか気になって、前述の大学生に聞いてみました。

 彼らは「日本でも興味本位で返事してしまう中学生もいると思う」「かまってほしい気持ちや寂しさがあればなおさら」「中学生のころは年上のあこがれがあるかもしれない」と答えてくれました。ある程度気づいていましたが、日本の大学生からそういう言葉を聞いて今更ながらショックでした。

 彼らのうちの何人かは、兵庫県警と協力してツイッターパトロールをしています。「パパ活」「ママ活」などの書き込みをしている子どもたちを見つけて注意するものですが、「寂しい気持ちを抱えた子どもが、『人肌が恋しくて』とネットでのつながりを求める場合がある」と言います。

 そういう子どもがいるなら、私たち大人ができることは多いです。楽しい学校、安心できる家庭、安全な地域を作り上げていくことは、子どもたちにとって幸せなことです。さらに悲しい事件に巻き込まれる子どもを少しでも減らせるかもしれません。スマホ・ネット時代だからこそ、アナログなつながり、活動が必要です。

 私は愛知県警などと協力して、ネット上で知り合った異性から性被害を受けた子どもたちを対象にワークショップを行っています。初めての実施時、子どもたちに「ネットで知り合った異性に会いに行った理由」を質問すると、「寂しかったから」「自分のことをわかってくれた」「やさしかったから」などの言葉が多かったです。「金品目的」などがまず出てくるだろうと警察の方と勝手に想定していたので、彼らの回答に戸惑いました。

 もちろん、子どもたちがネットでやりとりしたり、トラブルに巻き込まれたりするのには他にもさまざまな理由や要因があります。脅されたり、だまされたりした場合も多いですが、私たちが、いかに子どもたちのことがわかっていないか、しっかり聞こうとしてこなかったか、強く思い知らされました。彼らの言葉に、彼らの心の声にまずはしっかり耳を傾ける必要があると痛感しました。

 ▽日本の子どもたち

 グラフ(2)と(3)は2020年、小学4~6年生1万4270人、高校生4261人を私と大阪府が共同調査した結果をグラフ化したものです。「全体」は「調査全体での割合」で、「ネット」は「普段ネットに接続をしている人の中での割合」、「3h~」は「ネットに1日3時間以上接続している人の中での割合」です。「3h~」の子どもに注目してみましょう。

グラフ(2)面識のない人とネットでやりとりをした経験がある人の割合。「全体」は「調査全体での割合」で、「ネット」は「普段ネットに接続をしている人の中での割合」、「3h~」は「ネットに1日3時間以上接続している人の中での割合」を示している(大阪府と筆者の共同調査)

 グラフ(2)の「面識のない人とのやりとり」の「3h~」に注目すると、小学4~6年生の52・5%、高校生の70・8%が経験ありと答えています。

 グラフ(3)「ネットで知り合い実際に会った」でも「3h~」に注目すると、小学4~6年生の6・1%、高校生の21・8%が経験がありと答えています。56歳の私は強い危機感を覚えます。「友達の友達」や「共通の趣味を持つ人とのやりとり」も多いですが、そういう繰り返しで警戒心や恐怖心が薄れる可能性もあります。

グラフ(3)ネットで知り合い、実際に会ったことのある人の割合(大阪府と筆者の共同調査)

 こういう現状なのに、日本の大人は牧歌的です…。2年ほど前、ある中学校での生徒講演の打ち合わせで、「出会い系サイト」などについて話す旨伝えると、校長先生に「うちの生徒たちには刺激が強すぎる」と再検討を促されました。その学校の生徒は、学生たちとの事前調査で、交流サイトなどに実名で写真を添えて投稿していて、出会い目的のサイトにも投稿していることがわかっていました。

 私は注意喚起が急務だと思っていましたが、校長先生は「寝た子を起こすことになる」とまでおっしゃいます。折衷案で、表現をマイルドにして警告しましたが、生徒に実例を交えて話すと最後まで真剣に話を聞いてくれました。

 講演終了後、何人かの生徒が「ありがとう」とわざわざ言ってくれました。その後、生徒の書き込みはピタッとなくなりました。場所を変えただけかもしれませんが、少なくとも当面の危険は回避できました。

 ポイントとして、「法整備と仕組み」「試行錯誤」「男女問わない問題」を挙げます。

 まず、映画でのチェコの成人男性の行為の多くは日本でも許されません。未成年に性的な画像や動画を要求する、「会わなければ裸の写真をばらまく」と脅す、しつこく会おうと迫るなど、多くは道徳的に許されないばかりか犯罪行為です。

 しかし、日本の子どもたちは「実際そういう被害にあっても、声をあげにくい」と言います。「大人はどうせ知らない」「危険なサイトへのアクセスや、成人男性とのやりとりを責められそう」と感じています。さらに成人男性の行為が違法と知りません。大人が自信を持って子どもたちが対応できるような法整備と知識、さらに子どもを守る仕組みを作る必要があります。

 これまで私たちの社会は、法律や条例を作ってきました。私もそのいくつかに関わってきましたが、まだ「試行錯誤」の途中です。

 例えば「出会い系サイト規制法」が2008年に改正されました。その後、出会い系サイトは、18歳未満は入会できなくなったり、入会時に身分証明書の提示が必要になったりと厳しい制限を加えられました。以後、出会い系サイトでの被害は激減しました。

 しかし、出会い系サイトの定義には「異性との出会い目的」があるので、相手に同性も選べる場合は、定義上、出会い系サイトではありません。そのため実質「出会い系サイト」として機能しているにもかかわらず、18歳以下も何の制限なく使えてしまっている場合もあります。失敗を責めているのではありません。私たちの社会は試行錯誤を始めたばかりです。

 また、性被害と聞くと女性だけをイメージしがちですが、実際男性でも同じような被害が起きています。アンテナを高く、広く持つことが必要です。

 ▽ネット時代を生きる

 内閣府の20年度の調査によると、インターネット利用率は、3歳児60・2%、6歳児71・2%、9歳児87・2%です。中高生でほぼ100%に達し、さらにGIGAスクール構想で、小中学生は自分専用の情報端末を学校で使います。これまで学校では「ネットを使うな」「スマホを所持するな」など、禁止や制限を前面に出してきましたが、もう限界です。「正しく怖がらせること」は必要ですが、そのうえで「賢く使う」方法を社会全体で教えていくことが急務です。

映画の一場面

 「怖がらせる」一つとして、映画のようなリスクを日本の子どもたちにどう伝えるか、早急に考えなければならないでしょう。チェコでは議論が進み、この映画の表現をマイルドにして、教育で使うべきだという声まで出ています。私たちも対岸の火事と思わず、自分たちの社会の問題として考えていく必要があります。試されているのは私たち大人です。

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