【宝塚記念】「あれは化け物でしょ」衝撃から1年 進化を続けるクロノに死角なし

グランプリの“絶対女王”クロノジェネシスの行く手を阻む者はいない

専門紙時代からのトラックマン歴は優に30年を超える石川吉行記者にとっても、昨年の6・28グランプリ決戦は未知の衝撃が走ったという。そう、クロノジェネシスが見せた6馬身差の圧勝劇――。そこからさらに進化を止めない女傑にとっては、初の海外遠征明け、主戦ジョッキーの離脱も致命傷にはなり得ない。もちろん、石川記者渾身リポートの結論も、第62回宝塚記念(27日=阪神芝内2200メートル)での連覇、そしてグランプリ3連勝へ向け、ノープロブレムだ。

勝敗の明暗がはっきりと分かれるレース直後の検量室。勝者には最大限の賛辞が贈られる一方で、多くの敗者たちはリプレーでレースを振り返り、その反省点について話し込むシーンが多く見られる。次走へと向けた戦いはすでに始まっていると思える時間。しかし、時には敗者たちが半ばあきれ顔でレースを振り返るシーンに出くわすこともある。

「あれは化け物でしょ」

敗れた陣営が白旗を掲げる完璧な強さ。新馬戦や条件戦ではしばしば見られる光景だが、最高峰レベルの馬たちが目一杯の勝負を仕掛けてくるGⅠ、とりわけグランプリで、そういったシーンを目の当たりにするとは正直、想像さえしていなかった。それが現実のものとなったのが昨年の宝塚記念だ。

タフな馬場をものともせず、1頭だけ違う手応えで一気に前をのみこみ、そのまま2着キセキに6馬身差――。これほどの圧勝劇を戦前に誰が予想し得ただろうか。

「どうやったって、あの馬にはかなわなかった」

歴戦の猛者たちを擁する陣営が口々にその圧倒的な強さをたたえ、潔く敗戦を認める光景を目の当たりにした時、単に道悪巧者の見せた一世一代のパフォーマンスとするにはあまりにそぐわないと思えた。改めて振り返るべきは昨年のグランプリを前にした時点でのトレーナーの自信に満ちあふれたコメントである。

「これまで休み明けでもしっかりと結果を残してくれたことで、この馬の調整パターンがつかめてきました。古馬となって馬体が充実してきたことで調整がやりやすくなった部分もあり、こちらが思った以上の成長を見せてくれています」

相手強化を危惧する以上に、斉藤崇調教師はクロノジェネシス自身の充実ぶりに手応えを感じ、普段の調教からトレーナーと話し合いを続けてきた北村友ジョッキーが、その強さを自信満々に体現してみせたレースこそが昨年の宝塚記念だったのではないだろうか。

3歳の春ごろは430キロ台で競馬をしていた馬が、この時点では464キロと充実。もともと前進気勢が強く、気持ちを乗せ過ぎて馬体を減らさないように、それでいてしっかりと負荷をかける調整を試行錯誤してきた苦労がようやく実を結んだわけである。

ひとつの壁を乗り越えたクロノジェネシスは、秋初戦の天皇賞で0秒1差3着の大熱戦を演じて、課題とされた高速決着にも対応できることを証明。レース間隔が詰まることでの消耗を危惧された有馬記念でも、474キロと馬体増での出走で調整法が確立されたことを示したうえで、堂々のグランプリ連勝。さらに歩みを止めない女傑は、今年初戦にドバイシーマクラシックに挑戦し、直線で他馬とぶつかり合うシーンがありながらも、クビ差2着とさらなる進化を示してみせた。

グランプリ3連勝のかかる今年の宝塚記念に向けての課題は、海外遠征後の消耗をいかに取り除き、自身の実力を発揮できるか。

テッポー巧者とはいえ、初の海外遠征明けともなれば、調整過程に多少の狂いが生じる恐れも否定できない。さらに言えば、これまで全てのレースで手綱を取り続けてきた北村友が落馬事故での骨折で長期の戦線離脱。調整法のノウハウを知り尽くしたパートナー不在の痛手は計り知れないものがあると推察されるが…。

ピンチヒッターとして指名されたルメールが騎乗した1週前追い切りでは、栗東ウッド6ハロン79・8―12・1秒の好時計をマークして、さすがの脚力を見せつけた。

「すごくいい感じの手応えで、コンディションもいいと感じました。いいポジションが取れて、そこから加速していく瞬発力があります。乗りやすい馬だと感じましたし、いい状態でレースにいけば勝てると思います」とルメールはあり余る手応えをつかんでいる。

舞台裏を記せば、我慢させることなく、併走相手を予定より早めに抜き去ってしまったことで、レースでの力みにつながってしまう可能性を心配する声もある。海外遠征後でいつも以上にスイッチが入りやすくなっているのだからなおさらだ。それでも…。今のクロノジェネシスなら、微妙なサジ加減の求められる最終追いできっちりと軌道に乗れると信じている。

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