“辛口”添削で大人気! 俳人・夏井いつき先生の「おいしい」対談とは?

人気番組「プレバト!!」の俳句コーナーでもお馴染み、俳人・夏井いつき先生。
歯に衣着せぬトークで視聴者の心を鷲掴みにする先生は、コロナ禍でも変わらず、パワフル!
zoomによって実現した、妹であるローゼン千津さん(ときどき、夫の兼光さん)との「食卓」にまつわる姉妹トークは、まるで、胃袋から元気になれそうな、なんとも「おいしい」内容となったようで――!?

ここでは、お二人の新刊『食卓で読む一句、二句。 お腹がぐぅ〜と鳴る、17音の物語』より、読むほどにお腹がすく「おいしい」対談の一部を特別にご紹介します。
さあ、夏井姉妹の幸せな食卓を、ご賞味あれ♪

(イラスト/山口洋祐)

※本記事は、夏井いつき/ローゼン千津・著『食卓で読む一句、二句。お腹がぐぅ〜と鳴る、17音の物語』(ワニブックス刊)より、一部を抜粋編集したものです。

蒜をみぢんに打つて梅雨一家

鳥居美智子(とりいみちこ)

(イラスト/山口洋祐)

作者紹介

1932年、東京生まれ。戦争のための学童疎開や夫の転勤による度々の引越を重ねる。現在は東京在住。夫は『俳句ろんど』を創刊した鳥居おさむ。句集に『桜の洲』『夢疲れ』『すみれ角力』『自注鳥居美智子集』。

季語 梅雨/夏・天文

暦の上では6月11日頃の入梅の日から30日間を言う。実際の気象上の梅雨は一定していない。最盛期は、近畿・関東では6月末。梅雨明けには時に雷を伴い、からりと晴れる。

いつき・兼光夫婦の食卓①

夏井:アタシら夫婦の食卓といえば、ニンニク。

ローゼン:そら、ニンニクでしょー。ほら、『寝る前に読む一句、二句。※1』の中でも、「死ぬ前に食べたい物はニンニク。兼光さんの炒めるニンニクを嗅ぎたい~※2」って。あの気持ちは変わらず?

※1 寝る前に読む一句、二句。……姉妹の俳句ケーハツ本第一弾。2017年刊。 ※2 ニンニクの香り……『寝る前に読む一句、二句。』P187。

夏井:変わらんね。あ、そうそう。今日収録したYouTube※3でもね。たまたま冒頭のところで、正人※4が、「皆さんには見えないでしょうけど、今この空間にはとんでもなく香ばしいニンニクの香りが立ちこめてます! 今日はペペロンチーノかなあ?」って、叫ぶところから始まった。

※3 YouTube……『夏井いつき俳句チャンネル』。姉夏井が長男正人と俳句の楽しさを伝える公式番組。 ※4 正人……姉夏井の長男。句会ライブ、ラジオ、YouTubeで母のアシスタントを務める。

ローゼン:わあお! グッタイミング(夫の兼光さんが、両手にニンニクの大袋をぶら下げて登場)!
ニンニクのストックが、そんなにあるんですか!?

兼光:いつき組の組員さんに頂いたニンニク※5。こっちが剥いて冷凍した袋で、こっちは軒にぶら下げる網の袋。

※5 頂いたニンニク……組員さんの手作り野菜や米など、夫婦でいつも感謝して食べている。

ローゼン:1年分!?

兼光:いやいや。1回に4片、まあ半個くらいは使うから、結構早く無くなるよ。

ローゼン:「にんにく叩きつぶし小正月のパスタ※6 夏井いつき」という句が浮かびます。
叩きつぶしてオリーブ油で炒めてペペロンチーノとか、アヒージョ、ラタトゥイユ※7、みたいなイタリアン系が主流ですか? 麻婆豆腐とか中華系?

※6 にんにく叩きつぶし小正月のパスタ……季語「小正月」〈新年・時候〉 ※7 ラタトゥイユ……姉夏井は兼光さんと結婚して初めてこれを食べ、美味しさに驚いた。

兼光:たまたまね、家にある材料で作ったらそんなもんになってしまう。

夏井:家に必ずある物は、ニンニク(笑)。

ローゼン:乾麺もある。ペペロンチーノ最強! アヒージョは元々、刻んだニンニクって意味のスペイン語だそうですね。

夏井:アヒージョも、兼光さんと結婚して覚えた味。世の中にこんな美味しいもんがあるのかと思った。

ローゼン:表題句のニンニク料理は?

夏井:「梅雨一家」だから、餃子でしょ。季語は「梅雨」。みぢんに打つて、がいい。湿気た家の中に、ぷんと立つニンニクの香。母も子も一緒に野菜をみじん切りに、まな板をとんとん打って、それを父が肉と共に捏ね、みんなで皮に具を包む。小さな白い餃子が大皿一杯になったら、母はビールを開けて座り、父はホットプレートの前に立ち、子どもは箸を握って待つ、と。

ローゼン:母がビール係で、父は焼き係?!

夏井:昔、我が家のご馳走といえば、「夏井家特製肉餃子」。

ローゼン:神戸牛のぎゅうぎゅう詰まった高級餃子?

夏井:安い豚挽き肉をぎっしりと、ぎゅうぎゅう詰め込んで、ぱんぱんにはち切れそうな、ハンバーグ風餃子。肉汁がジュワーっと。ちまちまと手間をかけて作っても、あっという間になくなる(笑)。

ローゼン:おおお! 正人君が大喜びしそう。ふみちゃん※8は涙目で、「美味しいですぅ」って言いそう。「鳥帰りたる夜の數の餃子かな※9 岡井省二」という句も好き。餃子にも羽があって、飛んで行きそう。

※8 ふみちゃん……姉夏井の長女。夏井&カンパニーの編集スタッフ。夏井いつきの歳時記シリーズ、季刊誌『伊月庵通信』、伊月庵パンフレット他、出版物のデザイン・写真担当から、オフィスの整理整頓までこなす夏カン・オフィスの縁の下の力持ち。2児の良き母。 ※9 鳥帰りたる夜の數この餃子かな……季語「鳥帰る」〈春・動物〉

夏井:「鳥帰る」と「餃子」が、絶妙の社会的距離(笑)。「數の」もいい。ニンニクでもう一品といえば、兼光さんが丸ごと揚げてくれて、皮剥いて、ほくほく食べるのも美味しい。

ローゼン:えっえー? まるごと? 臭くないの?

兼光:かえって臭くないよ、丸揚げするとね。

(中略)

ローゼン:コロナ自粛が始まる前、私とニックが道後の社員寮に居た時、兼光さんが、「明日は収録※14があるので、ニンニクをやめときますか?」と聞いたら、お姉さんが、「いえ、ほんの少しお願いします」って、慎ましげに答えてた。その後で、兼光さんが、密かにツッコミ入れてたら笑う。「食うんかい?!」って。

※14 収録……TBS系『プレバト!!』出演などの収録。コロナ感染予防自粛中もリモート収録に切り替えるなどして、番組人気は長く続いている。

前作『寝る前に読む一句、二句。 クスリを笑える、17音の物語』に続く、待望の第2弾『食卓で読む一句、二句。お腹がぐぅ〜と鳴る、17音の物語』には、肉ダネがぱんぱんに詰まった「夏井家特製肉餃子」に始まり、松山の絶品「おでん」、スイスの五つ星ホテルがサーブする「完璧な果物」、そして夏井家のおふくろの味から、晩年の父と食した思い出の「ニシン蕎麦」まで、読むほどにお腹がすく、笑って泣けるエピソードが満載!

もちろん、「俳句はさっぱり……」というあなたでも大丈夫。
この夏、胃袋から元気になれる、とっておきの一冊はいかが?

夏井いつき(姉)

昭和32年生まれ。松山市在住。8年間の中学校国語教諭の後、俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。創作活動に加え、俳句の授業、「俳句甲子園」の創設にも携わるなど幅広く活動中。TBS系「プレバト!!」俳句コーナー出演などテレビラジオでも活躍。句集「伊月集 龍」、「超辛口先生の赤ペン俳句教室」(朝日出版社)など著書も多数。

class> ### ローゼン千津(妹)
大阪芸術大学舞台芸術学科卒業。いつき組俳人。ニューヨークで10年余り育児を楽しみ、平成23年帰国後、姉いつきの紹介で“俳句を作りながら俳都松山を歩く”ガイドになる。55歳の誕生日に、英語と日本語の句集「55」を上梓。現在、アメリカ人チェリストの夫と山中湖村在住、演奏旅行の付人として世界を回っている。

俳句引用元
*蒜をみぢんに打つて梅雨一家 鳥居美智子
鳥居美智子『自註現代俳句シリーズ六期 50鳥居美智子集』(俳人協会、1991年)
◯ 鳥帰りたる夜の數の餃子かな 岡井省二 岡井省二『句集 大日』(本阿弥書店、2000年)

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