福住初優勝に泣き崩れた担当の杉崎エンジニア。勝てない辛さを克服した二人三脚のアプローチ【第4戦決勝あと読み】

 これまで何度も驚異的な速さを見せながら、フルシーズン参戦3年目のスーパーフォーミュラ第4戦SUGOでようやく優勝を手にした福住仁嶺(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)。フィニッシュ後のパルクフェルメでは、初優勝の喜びに福住の目にも涙が見えたが、福住以上にチームのサインガードで涙と喜びを堪えきれなかったのが担当の杉崎公俊エンジニアだった。

 今季、TCS NAKAJIMA RACINGに移籍した山本尚貴に代わって、DOCOMO TEAM DANDELION RACINGの5号車に乗ることになった福住仁嶺。チームには2019年から在籍して6号車をドライブしていたが、今年から杉崎エンジニアと組むことになった。杉崎エンジニアもこれまでチームメイトとして福住と接していたが、今年担当になるに
当たって、ある方針を決めて福住と仕事を進めようと決めていた。

「速さに関しては心配していないので、今年から担当になってレースで結果を残すために、ふたりでデータを見て、クルマを速く走らせるための考え方とかプロセスを話し合いながら進めようと決めていました」

「仁嶺はいろいろ考えすぎてしまうところがあるので、いろいろ話をしながらデータを整理して、こちらで引き出しをいくつか作ってその中からチョイスしてもらう作業の仕方をしてきました。情報がないままだと仁嶺は悩んでしまって、サーキットではその時間がもったいないですからね」

 杉崎エンジニアにとって、昨年担当していたチャンピオン、山本尚貴もセットアップをじっくりと考えて悩むタイプだった、だが、悩む内容が山本と福住では異なるという。

「尚貴も悩むタイプですけど、自分で選択肢がわかっていて、そのなかでどうしようかと悩むタイプ。仁嶺はまだその選択肢が整理しきれていない段間で悩んでいる状況でした」

 そのふたりのアプローチは、開幕戦から結果を見せ始め、第1戦富士で3位表彰台を獲得。第2戦鈴鹿では福住がスーパーフォーミュラで初のポールポジションを獲得するに至った。鈴鹿ではその結果以上に、フリー走行から2番手以下を寄せ付けない圧倒的な速さが印象的で、決勝でも序盤から後続を引き離し、このまま独走かと思われた9周目にまさかのタイヤバーストでレースを終えてしまう。

 福住にとってはスーパーフォーミュラだけでなく、スーパーGTでも5月の第2戦富士でトップを走行中に黄旗中に追い越しをしてしまい、ほぼ手中に収めていた優勝を逃しており、去年から今年のシーズン序盤までは両カテゴリーで悔しいリザルトが続いていた。その福住の様子を杉崎エンジニアは間近で見続け、そして今年の変化も感じていた。

「去年もとなりで見ていましたけど、今年は強くなりましたね。自分から『こうしたい』『ああしたい』という要望が多く出るようになりました。去年も希望はあったと思うんですけど、強く言ってきてはいなかった。プライベートでも今年結婚して、自分に自信がついた感じがあります」

 レーシングドライバーとして、まさに今、急激にアップデート中の福住仁嶺。とは言え、この第4戦SUGOでの初優勝も決して楽な道のりではなかった。

 土曜日の雨の予選では5番手。福住も「グリップがない」とクルマに手応えを得られず、日曜決勝レース直前、グリッドに向かう前の8分間走行ではいくつかのトラブルが起きてしまった。杉崎エンジニアが振り返る。

「チームの段取りがうまくできていなくて牧野(任祐/チームメイト)と仁嶺がピットに入る順番を間違えてタイヤをスクラブするのにドタバタしてしまったり、5号車(福住車)の方で足回りにトラブルがあって、パーツを交換したりしていました。決勝レースに向けてはちょっと心配な部分、不安が残ったままグリッドに着きました」と杉崎エンジニア。

 それでもレースが始まってからは福住車にトラブルは見られず、レース中盤のピット作業も早く、5号車はレース終盤は2番手に6秒以上の差を付ける圧勝状態でトップフィニッシュ。福住の初優勝が決まったその瞬間、杉崎エンジニアは涙を抑え切れないだけでなく、サインガードでそのまま泣き崩れた。

「ちょっと目に汗をかいてしまっただけです(苦笑)」と、涙についてはぐらかす杉崎エンジニア。当然、心の中では福住と同じく、勝てない辛さを痛感していた。

「やっぱり、特に前々回の第2戦鈴鹿でトップを走りながらも(タイヤアクシデントで)レースが途中で終わっているし、去年もオートポリスやこのSUGOでピットのミスとかいろいろな不運が重なって勝たせられなかった。速さはあるけれど、やっぱり勝ちたいという焦りもあったし、どうしてもナーバスになってしまう。ここで勢いを付けて勝ってくれたので、うれしかったですね」

 パルクフェルメに向かった杉崎エンジニアは、涙を流したまま、福住と抱き合った。福住にとっても、杉崎エンジニアのその姿に胸を打たれた。

「いやもう、杉さん(杉崎エンジニアの愛称)のあの姿を見たときは僕が一番びっくりしました。僕も安心したのと、すごくうれしい気持ちで泣いてしまうような感情でしたけど、それより杉さんの涙を見て、本当に同じ思いでレースをしていたんだなと思いました」

初優勝を果たした福住とパルクフェルメで喜ぶ杉崎エンジニア。

「レース前野8分間(走行)のときもちょっとチームがあたふたして、僕がちょっと感情的になってしまったこともあったのですけど、そういう不安が積もり積もっての今回の優勝でした。最後の残り何周かは耐える時間でしたけど、ずっと『何も起こらないでほしい』という気持ちで走っていて、それは杉さんも同じ気持ちだったと思います。だからこそ、優勝したときにあれだけ感情的になってくれて、あの涙は本当に僕にとって最高に嬉しいことですし、チームにとっても本当によかったです」と、喜びとともに杉崎エンジニア、チームへの感謝を述べる福住。

 それでも「それまで僕はうるっと来ていましたけど、杉さんの涙を見て、逆に少し落ち着きましたね(笑)」と、いろいろな意味で杉崎エンジニアの存在は福住を落ち着かせるようだ。

 この第4戦SUGOの結果、福住はランキング3位となった。数字上はランキングトップの野尻智紀(TEAM MUGEN)とは19ポイントの差があるが、7戦中5戦有効ポイント制の今季のチャンピオン争いを考えると、福住は十分タイトルを狙える立場にある。

 この第4戦SUGOでそれまでの速さに加え、レースでも結果を残せる強さを示した福住。次の第5戦、そして第6戦、福住が得意とするもてぎの連戦となる。今回の初優勝を経て、福住はどのようなパフォーマンスを見せるのか。いわずもがな、福住に限らず、次からのもてぎ2連戦がタイトル争いの最初の天王山となる。

初優勝を果たしたDOCOMO TEAM DANDELION RACINGの福住仁嶺と杉崎公俊エンジニア、濱田哲彌プレジデント

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