「私はストリップの仕事が好き」 公然わいせつ容疑で劇場摘発、踊り子たちの思い

劇場内で輝く「シアター上野」のネオンライト=2021年5月9日(撮影・武隈周防)

 近年、ストリップはエンターテインメント性を高めた表現がカルチャーとして再評価の動きがある。一方で建物の老朽化や娯楽の多様化など時代の波を受け、劇場数は全国的に減少、今は最盛期の1割以下だ。さらに昨年からの新型コロナウイルス禍で、多くは慢性的な経営難に陥っている。それだけではない。4月には東京・上野の劇場の経営者や踊り子らが公然わいせつ容疑で逮捕された。警視庁として実に7年ぶりの摘発だった。関係者によると略式起訴となり、罰金刑を受けた。劇場には6月11日から8カ月間営業停止の行政処分が下った。
 東京五輪開催を控え、警察は違法風俗店の取り締まりを強化している。劇場関係者や有識者に取材し、令和のストリップとわいせつについて考えてみた。(2回続き、共同通信=武隈周防)

 ▽「悪いことなのかな…
 「警察だ」。4月14日、午後0時半ごろ。繁華街の地下にある「シアター上野」の客席から一人の男性が立ち上がると、ステージ上の踊り子に警察手帳を見せながら声を張り上げた。警視庁の捜査員だった。
 ステージでは「オープンショー」と呼ばれるアンコールが行われており、アップテンポの音楽に合わせて踊り子が下半身を露出させた状態で踊っている最中だった。
 摘発の瞬間、ステージに立っていた踊り子のさくらさんが取材に応じた。その日の出演は1番目。正午の開演とともに舞台に上がり、穏やかな音楽に合わせて少しずつ衣装を脱ぎながら舞った。着衣がほぼない状態で、片脚に手を添えゆっくり高く掲げると客席から拍手が起こったという。
 20分ほどのステージの後は、希望する客が劇場指定のカメラを使って1枚500円で踊り子の写真を撮影した。「あのとき撮影してくれたのは5、6人かな。お客さんのリクエストに応じて、全裸で開脚するポーズも取ったと思います」。撮影が終わるとアンコールが始まった。冒頭の場面はその直後の様子だ。

東京・上野の繁華街にある「シアター上野」の入り口=2021年6月13日(撮影・金子卓渡)

 事件を報じた共同通信の配信記事などによると、警視庁は局部をことさらに露出する公演をしたとして、経営者や踊り子ら男女計6人を現行犯逮捕した。さくらさんもその1人だった。劇場が公演前に無修正のわいせつ動画を会場で流し、ダンサーの局部を有料で写真撮影できるサービスも、悪質性が高いと判断。経営者は「(踊り子が脚を広げて露出する行為をしていたのは)間違いない。取り締まりを受ける覚悟で営業していた。売り上げを増やすためだった」と供述した。

 劇場には三十数席あり、普段は1日4公演。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、3公演に減らしていた。

 「最初はお金のために始めて、3年くらいで辞めようと思ってた」とさくらさん。「でも10年以上も続けてこられたのはやっぱりこの仕事が好きだから。裸でステージに立てる身体を維持しながら毎日踊るのは、好きじゃないと続けられないですよ。劇場はお客さんに癒やしや元気を届ける場所。拍手や温かい言葉をもらうと、やってきてよかったなと思う」

 お客さんも踊り子も楽しんでいる場だから「悪いことをしているつもりはなかったけれど、捕まったということはやっぱり悪いことなのかな…」。さくらさんの声が次第に小さくなっていった。

 ▽調書のニュアンスに「違う…」

 踊り子の永瀬ゆらさんは、舞台袖のカーテンの奥で出番を待っていた。さくらさんのアンコールで流れていた音楽が不意に止まると、突然目の前に現れた捜査員の指示で楽屋に戻った。「ここには戻れませんから、荷物をまとめてください」と言われるままにメーク道具や衣装などをかばんに詰め込んだ。

 ゆらさんによると、任意同行先の警察署で、調書を取る警察官は立て続けに質問した。「あなたの前の出番の踊り子は、ステージで裸になり局部を強調するようなことをしていた。あなたは、本当はそんなことしたくないでしょう?局部を強調することとか写真撮影とか、やらなくていいのであれば、やりたくないですよね?」

 ゆらさんの頭の中では、こんな思いが渦巻いた。

 「脱ぐことは嫌じゃない。むしろ裸になるからこそできる表現があると思う。でも、取調室でそれを言っても無駄だろう」「ショーの合間に行われる写真撮影は、お客さんと会話を交わす貴重な時間で楽しみでもあるけれど、ステージで舞っていた余韻を断ち切られるように感じることもあり、できればないほうがいいなと思うこともあったな」

 質問の一部に「はい」と答えたつもりだったが、調書には〝仕方なくストリップをやっている〟というニュアンスの言葉が記されていくのが見えた。

 「違う…」。まるで踏み絵でも踏まされたような感覚に陥っていた。今まで携わってきた世界を自分でおとしめたようで、胸が苦しくなった。本当はこう言いたかった。「私はストリップが好きで、踊り子をやってます」

 ストリッパーという職業は、格好良いと思って始めた。裸になることで、一番純粋に人間の素材が見える。踊り子一人一人の身体に、その人生が投影されるから、お客さんは感動するのだと思えた。ステージから客席に向かって伸びる花道を静かに進み、お客さんが息をのむのが分かる。劇場が一つになっていると思えて、うれしくなる。劇場はお客さんの憩いの場であり、私にとって表現の場―。

 ゆらさんは解放された。だが、心の痛みが残った。

  ▽やり場のない思い

 「シアター上野」は5月1日から営業を再開した。記者が訪れると、座席は半分ほど埋まっていた。客の多くは男性だが、女性も2割ほどいる印象だ。

 色とりどりの照明がめまぐるしく変わるステージでは、踊り子が少しずつ素肌をあらわにしながらしなやかに舞う。最後の1枚は脱がないが、客席からは惜しみない拍手が送られた。

 「客はお金を払って見に来てるんだから、誰も被害者じゃないよ」。ストリップファン歴20年余りという男性(65)がつぶやいた。高齢の父親と2人暮らしをしていたが、4年前に死別したという。「今は仕事もしてないから、ぼーっとして一日が終わっちゃう。だから劇場に行って、なじみの客や踊り子さんと話すのが生きがい」と打ち明けてくれた。劇場では、常連客でも互いの名前や素性は聞かないらしい。「社長もヒラ社員も、肩書なんてものは関係ないから。70~80代のじいさんと若者が一緒にニコニコしながら手拍子を打ってる場所なんて他にないよ」

 取材に応じた劇場関係者は緊急事態宣言発令中の再開に「この1年、コロナ対策で臨時休館や営業時間短縮をして厳しい経営状況が続いている。劇場の家賃も払わないといけない。(今回の事件で)遠からず、営業停止の行政処分を受けるだろうから、せめてそれまでは感染防止策を講じた上で開けておきたい」と苦しい胸の内を明かしていた。

シアター上野」のステージ=2021年5月9日(撮影・武隈周防)

 各地の劇場を取材し、ストリップについての著書もある漫画家たなかときみさん(38)は、「今回の摘発について“局部に照明を当てた”演出がひっかかったとする報道もあったけど、とりわけ局部だけを強調するライトは見たことがないですよ」と指摘する。たなかさんによると、ストリップ劇場で使われている照明は「神秘的で宇宙のような雰囲気を作り上げながら、踊り子さんの体をきれいに見せる」ためのものだ。こうした演出は近年、女性の支持を増やすことにつながっている。たなかさんのもとには、女性から「劇場を案内してほしい」といった依頼もよくあるそうだ。「芸術だと主張するつもりはないけれども、現代のストリップは“女の裸だぞ、エロいだろ!?”というだけのものではないのです」。たなかさんはそう強調した。

ステージで舞う相田樹音さん=2021年3月(撮影・武隈周防)

 事件後、ベテランのストリッパー、相田樹音さんは「あなたにとってシアター上野とは?」とメールで呼び掛けた。踊り子仲間やファンからはたくさんの返信が寄せられた。

 「感動と力をくれる場所」「大好きな職場」「寂しい誰かにとっての心のよりどころ」「心に栄養と癒やしをもらえる場所」「『生の肯定』を感じる場所」…。樹音さんと旧知の作家で、湿原に建つラブホテルで織りなされる男女の物語を描いた小説「ホテルローヤル」で直木賞を受けた桜木紫乃さんからも届いた。「ストリップ小屋の片隅で、熟練の踊り子の芸に泣いたり笑ったりするのが好きです。シアター上野の水色の座席を見ると、肩から力が抜けてほっとするんですよ。不思議ですね」

 事件後に踊り子としてデビューした女性もいる。大手企業の契約社員だった海乃雪妃さんは5月上旬、樹音さんのステージを見て「雷に打たれたような衝撃」を受けた。涙が止まらなくなったといい、その場で弟子入りを申し出た。会社を退職し、3日後には初ステージに。「ストリップは、足並みそろえることが求められる社会とは正反対の世界で、〝みんな違って、みんないい〟が魅力。この文化の火を消さないように、少しでも力になりたい」

「シアター上野」で舞う海乃雪妃さん=2021年5月9日(撮影・武隈周防)

 さまざまな人の思いが渦巻く中、「シアター上野」は来年2月までの営業停止期間に入った。

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