社外取締役「3分の1以上」だけでは効果がない?株価が示す市場評価の厳しい現実

昨年7月に開かれた東芝の定時株主総会の運営を巡る調査報告書が波紋を広げています。東芝が経済産業省と結託し、アクティビストに対して圧力をかけ、株主提案権や議決権の行使を事実上妨げようと画策したというのです。これが事実なら大変な事件です。

コーポレートガバナンス・コードが掲げる基本原則の第1は「株主の権利の確保」です。「上場会社は、株主の権利の重要性を踏まえ、その権利行使を事実上妨げることのないよう配慮すべきである」(補充原則1-1③)と明確に謳っています。いわばコーポレートガバナンスの1丁目1番地の原則さえ、おろそかにしていることになります。

近年、日本企業のコーポレートガバナンスに対する意識は向上しつつあると国内外の投資家からの評価が高まっていましたが、このニュースは日本のコーポレートガバナンス改革に対する信認を一気に砕いてしまうかもしれません。

この報告書が発表されたタイミングもまた間が悪いというほかありません。東証がコーポレートガバナンス・コードの改訂と施行を発表したのは、東芝がこの報告書を発表した翌日だったのです。


独立社外取締役を3分の1以上選任が必要に

今回、3年ぶり2回目となるコーポレートガバナンス・コード改訂のポイントはいくつかありますが、真っ先に挙げられているのが取締役会の機能発揮という項目です。そこではプライム市場上場企業においては、独立社外取締役を3分の1以上選任することが求められます。これが皮肉なのは、東芝は取締役11名中、10人が社外取締役だということ。社外取締役の多さで測れば東芝はピカピカの「超優良企業」です。

社外取締役が多くてもガバナンスや経営が良くなるわけではありません。数字で確認してみましょう。資本効率を測る指標であるROEについて、「3分の1以上」の要件を満たす企業と、それを満たさない企業とで比べてみたところ、まったく差がありません。社外取締役の多さは経営や資本の効率を高めることにつながっているエビデンスはいまのところ見当たりません。

前回のコーポレートガバナンス・コードの改訂では社外取締役を2人以上置くことが求められたこともあり、社外取締役を置く企業数は増えています。2020年時点で「3分の1以上」の要件を満たすのは東証1部企業の6割ほどですが、逆に言えば4割の企業は要件を満たしていないわけです。

要件を満たしていない企業の多くは、今後プライム市場への切符をかけて社外取締役の人数を増やそうとするでしょう。厳密に言えば、「3分の1以上」はコーポレートガバナンス・コードの要請であって、東証のプライム市場上場基準ではありませんが、プライム市場を目指す企業にとっては同じことでしょう。

しかし、単純な「数合わせ」は意味がありません。株式市場で社外取締役比率の高い企業がどのようなパフォーマンスだったか検証してみます。

社外取締役を3分の1以上にするだけでは市場で評価されない

取締役会に占める社外取締役の比率で4分位ポートフォリオを作り過去5年間のバックテストを行いました。結果はTOPIXを明確にアウトパフォームするのは最上位ポートフォリオだけでした。最上位の社外取締役比率は50%を超えています。第2分位ポートフォリオはTOPIX並みのパフォーマンスで、第3、第4分位はアンダーパフォーマーでした。

つまり、社外取締役を入れるなら過半にするなどドラスティックな取締役会の改革こそが市場にアピールするのであって、「3分の1以上」という単なる「数合わせ」は市場で評価されないということです。

ここでもうひとつの疑問があります。社外取締役比率の最も高い分位のポートフォリオは明確にTOPIXをアウトパフォームしましたが、それは投資家が社外取締役比率の高い企業を評価しているということになります。ただ、前段で述べた通り、ROEなど資本効率の指標は変わらず、社外取締役が多くてもガバナンスや経営が良くなるわけではないのに、なぜこのような結果になったのか、という点です。果たしてこれは正しい評価か?ミスジャッジではないのか?という疑問です。

これは筆者の推測ですが、投資家も社外取締役の数ではなく質が大事なのは理解しているが、まずは形式を整えよ、いうメッセージなのかもしれません。社外取締役は十分条件ではないが必要条件 ― じゅうぶんな「数」を集められないようでは、「質」は伴わない ― したがって社外取締役比率の最も高い分位のアウトパフォーマンスは、「数」が足りない企業を振るい落とした、消去法の結果なのかもしれません。

<文:チーフ・ストラテジスト 広木隆>

© 株式会社マネーフォワード