ワクチン接種 「打てない・打たない」人の声 副反応懸念、偏見、不信感…

大規模接種や職場接種で使われている米モデルナ製ワクチンの瓶

 新型コロナウイルスワクチンの大規模接種に続き、大学・職場接種が21日から長崎県内でも始まり、感染や重症化のリスクを抑え込む集団免疫の獲得に期待が集まっている。その一方で、持病や副反応の懸念、政府への不信感などから「打てない」「打たない」人もいる。こうした非接種者に対する差別や偏見が広がり、接種を強制する同調圧力も生んでいる。専門家はコロナ禍の不安が背景にあると指摘し、日弁連も人権侵害問題として注視する。
 県内の高齢者施設で働く50代女性は、優先接種を受ける同僚らと違って、打ちたくても打てない事情がある。幼い頃から体が弱く、今も基礎疾患がある。薬のアレルギー反応が出ることもしばしば。かかりつけ医からは「重い副反応が出ても責任は取れない」と告げられた。
 「日ごろ接するお年寄りのことを考えると接種すべきだし、自分が感染したときも重症化を防げる」とも考えたが、副反応が怖い。解雇も覚悟し上司に相談すると、驚かれたが、事情を分かってくれた。「ほっとした」と同時に「これからも人一倍感染予防をする」と気を引き締めた。
 「どうしても東京五輪を開催したい政府が、私たちに無理強いしている」と抵抗感を示すのは佐世保市の主婦(38)。いつも会員制交流サイト(SNS)でワクチンに関する慎重な意見を含め多様な情報をチェックし、夫も「打たない」派。だが親は進んで接種した。「政府から一方的に流れてくる情報をうのみにして『打てば安心』となってしまっている」。主婦はため息をつき、こう続ける。「『みんなが接種するから』ではなく、正確で客観的な情報を基に自分で選択したい」
 雲仙市で農業を営む60代男性も政府やマスコミに不信感を抱き、「接種しない」と家族に断言している。「テレビや新聞は推進派の話ばかり報じるが、インターネットで調べると危険性を指摘する専門家の意見もある」。広く判断材料を提供しようと、自身のSNSに反ワクチン論をたびたび書き込んでいる。「接種は義務ではなく任意。つまり責任は個人が取らされる。だからこそリスクの部分も知った上で、決定できるようにすべきだ」と訴える。
 日弁連がワクチンに関して5月に実施した「人権・差別問題ホットライン」には、職場や大学での強制や不利益的な扱い、同調圧力や差別への不安の声が多く寄せられた。「打たなければクビ」「実習を受けさせない」と言われたり、医療現場でチェック表が張り出され、拒否しづらくなったりする相談事例があった。こうした状況を踏まえ日弁連は11日、「感染防止の名の下で人権侵害を招来することのないように注視」し対応すると宣言した。
 長崎国際大(佐世保市)や鎮西学院大(諫早市)の学内調査では、接種を望む学生は約6割にとどまり、慎重意見が一定あることをうかがわせた。行政や実施機関には丁寧な情報提供や説明が求められている。

◎コミュニケーションが必要 丸山仁美長崎純心大准教授(臨床心理学)

 同調行動や同調圧力は不安な時に多く表れる。不安を打ち消すために自分と同じ人を多くしようとする心理が同調圧力になる。非接種者を警戒する人に「圧力をかけるな」と言うのは簡単だが、実際にやめさせるのは難しい。だから、「ワクチンは本当に大丈夫か」と不安に思う人とコミュニケーションを取ることが現実的な改善策だろう。「相手が何を考えているか分からない」ことが、お互いの不満につながる。ささいな雑談でもしていれば「この人はこういう考え」と理解し、ワクチンを希望しない人に対する不安は少なくなるのではないか。


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