【客論】 大和総研主席コンサルタント 林正浩

問題の根っこに迫り解決を

 「貧困をなくそう」(目標1)はSDGsの目標のうちの一つだ。ではここで問題。貧困に苦しむある国の子どもたちに食糧支援をしました。さて、貧困は本当になくなるのでしょうか。答えは×。なぜでしょう。それは「貧困」の根本要因にアプローチしようとしていないから。

 貧困はなぜ起こるかと言うと、多くの場合「質の高い教育をみんなに」(目標4)が無視されているから、その「教育」が満たされない根っこには「ジェンダー平等を実現しよう」(目標5)や「人や国の不平等をなくそう」(目標10)に皆が真剣ではないから。そうとも言えます。

 別方向で眺めてみると、そもそも食糧生産ができないのは「陸の豊かさも守ろう」(目標15)がスルーされているからなのかもしれない。深く考えずに寄付や支援を続ければ、逆に不平等が拡大し、貧困から脱却するために大切な食糧生産を誰もしなくなる、できなくなる。食糧支援が間違いとまでは言わないけれど、根っこの問題解決にはつながらない。

 貧困を撲滅するために学校を建てること、女性の社会進出のための法整備を手伝うこと、そして耕作放棄地をよみがえらせるために一緒に耕すこと。そんなことが大事なのです。SDGsにsがついているのは目標の数が17個と複数だからなのではなく、今まで話したような「数珠つなぎ状態」だから。そう覚えておいてください。システム思考とも言いますが難しいことはいいでしょう。

 この「SDGs数珠つなぎ」ついでに、もう一つ問題。電気自動車(EV)が普及することは二酸化炭素の排出を抑制するから「気候変動に具体的な対策を」(目標13)に貢献する。どうでしょう。間違いではないのですが、環境にやさしいEVをつくる過程にも目を配らなくてはいけません。例えば、たくさんのレアメタル(希少金属)を使う場合、その採掘に子どもが関わっていたら? 児童労働の犠牲の上に成りたつ環境保護は望ましくありませんね。一筋縄ではいかない難しい側面があります。

 あとこんな珍しい問い掛け。「17の目標でどれが一番好きですか?」。訳知り顔の大人はこんな質問はしません。質問の主は小学3年生。最近は小学生も中学生もSDGsを「ちゃんと」学んでいるので子どもは手ごわい(笑)。この質問、私なら「パートナーシップで目標を達成しよう」(目標17)と答えます。

 この「目標17」は全てに関連する大事な目標。一人でできることには限りがある、何でも協力して取り組もう。素晴らしいですね。子どもにはパートナーシップではなく「仲間がいるよ!」と漫画ワンピースのルフィの言葉で伝えると一発で理解してもらえます。

 さて、前回と今回でSDGsの本質についてお話してきました。こんなざっくりで良いのかと専門家の先生からお叱りを受けそうですが、SDGsは実践・実行こそ大切。ですので、お勉強はここまでとします。次回以降、日本各地の具体的な取り組みを皆さんとともに見ていきます。

 はやし・まさひろ 1969年、新潟市生まれ。「笑顔の連鎖反応をつくる」をモットーに経営人材育成、中小企業支援などに携わる。東京都。

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