降板直後に「紙に書き殴る」 “博学右腕”が試みる長文発信「本当はしたくない」

中日・福谷浩司【写真:荒川祐史】

「嫌だっていうのが本心」中日・福谷浩司が赤裸々に言葉で表現する思い

今季初黒星を喫した翌朝、ウェブ上に思いを吐き出した。「今まで野球のことを自ら発信したことはほとんどありません」との言葉に続き、降板直後に去来した感情を言葉で表現する。ひと言、ふた言ではない。「負けたのに書くのは、嫌だっていうのが本心ですよ」。“筆者”である中日の福谷浩司投手は、苦笑いしながら言う。【小西亮】

今季3度目の先発だった4月15日の巨人戦(東京ドーム)。初回に先頭打者本塁打を浴びたのを始め、3イニング連続で失点を喫した。「降板直後は頭の中がかなりモヤモヤしてて、少しイラついていたかもしれないです」と当時の心理状況を回顧。着替えた後、マネジャーに紙とペンを借りたという細かい行動まで紹介し「その紙に『今思ってること』をひたすら書き殴ります。紙はあっという間に字で埋まっていき、モヤモヤが減っていきます」と赤裸々に綴った。

文章や画像、動画などを投稿できるプラットフォーム「note」の活用を今季から始めた。文字数に制限を設けず、短文では伝えきれない“消化不良感”をなくすため。プロ入り後、新聞やテレビを通じて届けられる情報に、もどかしさを感じることもあった。

「正直、間違った印象を与えて損をした経験もあります。でも、その時は僕がメディアの方々の仕事を知らなかっただけでした。新聞には新聞の、テレビにはテレビのルールや見せ方があるんだなって」

家族が広島ファンから受けた心温かい対応も綴り、SNSで反響

だからこそ、拡散力を持ったメディア対応の重要さも認識する。その一方で、野球のことだけにとどまらないありのままの姿を届けるべく、新たなツールを持った。投稿の中には、感銘を受けた書籍の紹介も。さらに、今季開幕戦の応援に訪れた家族が広島ファンから心温かい対応を受けたエピソードも綴り、SNSで反響を呼んだ。

4月下旬から自身3連敗を喫した時も、欠かさず負けを振り返った。勝った時だけ投稿することだってできる。「本当はしたくない」。それでも、好奇心にも似た思いが執筆を促す。「“できるけどやりたくない事”ってどんなものなのか、というのか気になって」。曖昧な感情を文字に起こす事で気持ちが整理され、読者から「どんな思いで投げているのか知れてよかった」との声も届いた。

失敗からの学びは、誰かの役に立つことも少なくない。「自分のためだけで、人のためにならないことはやりたくないです」。今季はここまで4勝6敗、防御率3.86。負けが先行するが、淡々と文字に起こし、心と向き合う。慶大理工学部をトップクラスの成績で卒業した球界随一の“博学右腕”が示す、新たな選手像。尽きない向学心とともに、胸の内をさらけ出していく。(小西亮 / Ryo Konishi)

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