小惑星リュウグウのかけら、いよいよ本格的な分析へ

小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウのサンプルが、いよいよ本格的な分析に入ります。現在「フェーズ2」2チームと「初期分析」6チーム、計8チーム体制で調査が進められていますが、そのうちフェーズ2高知チームが、大型放射光施設SPring-8(兵庫県佐用郡佐用町)での分析開始に当たっての報道公開と説明を行いました。説明に当たったのは、チームを率いる海洋研究開発機構の伊藤元雄氏と立命館大学の土`山明教授(つちの字は土の右上に点がある字体)でした。

【▲ 記者説明を行う土’山氏(右)と伊藤氏(左)(撮影:金木利憲/東京とびもの学会)】
【▲ SPring-8全景(画像:国立研究開発法人理化学研究所)】
【▲ 分析装置の説明を行う土`山明教授(土は土の右上に`がある字)(撮影:金木利憲/東京とびもの学会)】
【▲ サンプルの固定イメージ(撮影:金木利憲/東京とびもの学会)】

フェーズ2とは何を行うのか

JAXAはフェーズ2の内容を「初期・詳細記載、カタログ作成、保管・分配等の技術・研究開発」としています。フェーズ1は、持ち帰ったサンプルのざっくりとした記録と次段階へ渡すためのより分けを行いました。フェーズ2は更に細かい記録を付ける作業と、今後のために保管や分配に必要な技術や手法の研究開発を担っています。例えば、JAXA宇宙科学研究所(神奈川県相模原市)からSPring-8への輸送時に使われた試料ホルダは、リュウグウサンプルのために行われた技術開発の成果です。専用品ではなく、現在進行中のアメリカの小惑星サンプルリターン計画「オシリス・レックス」や、今後計画されている日本のフォボスサンプルリターン計画「MMX」のサンプルもこれで取り扱うことができます。開発に当たった高輝度光科学研究センターの上杉健太朗氏は「必要とする人にはメーカから購入できるようにもした。素材なども公開しているのでぜひ使って欲しい」と述べていました。

【▲ 今回開発されたユニバーサル試料ホルダ(撮影:金木利憲/東京とびもの学会)】
【▲ 試料ホルダに収められ、グローブボックス内で分析を待つリュウグウのサンプル(撮影:金木利憲/東京とびもの学会)】
【▲ 試料ホルダに収められたリュウグウサンプル(中央の黒い石)(撮影:金木利憲/東京とびもの学会)】

まずはCTスキャン

SPring-8が地球外の物質を分析するのは今回が初めてではありません。アメリカの彗星探査機「スターダスト」が持ち帰った宇宙塵の分析や、初代「はやぶさ」が持ち帰った小惑星「イトカワ」の微粒子の分析も行っています。
今回は、リュウグウサンプルの受け入れに先立って隕石の分析を行い、取り扱い方法や分析手順などを確認したとのこと。

土`山教授は「これまでに取り扱った地球外の物質は、全て微粒子レベルだった。これだと鉱物単体やその結晶は分かるが、それが組み合わさってどんな岩石になっているかを知ることができない。リュウグウのサンプルは目で見て触れるほど大きく、やっと地球外の岩石の分析を行うことができる。それが楽しみ」と語っていました。

分析の最初に、チームに分配された8個のサンプル全ての三次元CTを取ります。X線によってくまなく走査することで、内部まで分かる3Dモデルを作るのです。その結果を見ながら気になる結晶構造や鉱物がないか検討し、その場所が見えるように切断します。
切断の際は、3Dモデルを元にした治具を3Dプリンタで製作し、そこにはめ込んで固定した上でワイヤーソーでカットすることになります。

【▲ 切断に使うワイヤーソー。刃の太さは100マイクロメートルとのこと。(撮影:金木利憲/東京とびもの学会)】
【▲ こんな遊び心も。(撮影:金木利憲/東京とびもの学会)】

切断後のサンプルは、フェーズ2高知チームに参加する海洋研究開発機構(JAMSTEC)、極地研究所(NIPR)、分子科学研究所(UVSOR)などの研究者に速やかに分配され、それぞれが所有する分析機器や専門分野によった研究が始まります。

内容はそれぞれ異なりますが、1年後、2022年の初夏を期限として、他のフェーズ2チームと初期分析チームでも分析が始まっています。惑星物理の研究者にとって、サンプルを実際に扱っての研究は待ちに待った時間です。「はやぶさ2」の場合は、どんなサンプルが欲しいか提案してから目の前に届くまで10年以上かかりました。説明に当たった伊藤氏・土`山教授ともに「我々としても速く分析したいし他のメンバーにも届けたい」ということを述べていました。

Image Credit: 金木利憲/東京とびもの学会、国立研究開発法人理化学研究所
文/金木利憲

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