myeahns - ポップ含有率の高いロックンロールを打ち鳴らすトラベリン・バンドが選りすぐった新たな象徴的楽曲たち

ロックンロールにポップさをいかに落とし込めるか

──前作『Masterpiece』は捨て曲皆無の文字通り“傑作”だったので、それを超える作品を作ることにプレッシャーはありませんでしたか。

逸見:『Masterpiece』を聴いた人がAmazonのレビューでも同じようなことを書いてくれてたんですよ。「こんなに捨て曲なしのファーストアルバムを作ったら、それ以上のものは出せないんじゃないか」って。それを読んで曲作りにしてもサウンドにしてもさらに燃えたっていうか。『Masterpiece』を必ず超えなきゃいけないと思ったし。

──それはバンド全体の目標だった?

茂木:プレッシャーは全然意識してないよね。自分たちは曲を作ってないし。

逸見:“いいものを作ろう”っていうのはあるんでしょうけどね。

齊藤:うん、それは思う。

──曲作りはまず逸見さんが他のメンバーの前で弾き語りをしてプレゼンするんですよね。

逸見:そうです。曲をみんなに聴かせるときが一番緊張しますね。ほぼ100%の確率で「最高だね!」とみんな言ってくれるけど。

齊藤:まず亮太君が俺に曲を送ってくれるので、ギターはこんな感じかなと自分なりに考えるじゃないですか。ここはちょっと変えてこうしてああして…みたいなことはあったりもします。

Quatch:各々の意見はアレンジの段階で出していく感じですね。

逸見:1番だけできた段階でスタジオに持っていくのがイヤなんですよ。2番ができて雰囲気が変わったりもするので、弾き語りとはいえしっかりまとまった構成にしてから持っていくようにしてます。

──myeahnsらしい楽曲というものがメンバー間の共通意識としてあるものなんでしょうか。そこからズレると不採用になるみたいな。

齊藤:そういうのはないんじゃないかなあ…。

茂木:今回も「まっくろ娘」みたいに今までにない曲ができたし、亮太君の弾き語りを聴いたときからいいなと思ったし。

逸見:myeahnsらしさをあえて言うなら、ロックンロールにポップさをいかに落とし込めるか、ですかね。

──今回の『symbol faces』も前作同様、アルバム全体のコンセプトを固めるよりも1曲ごとのポップ含有率と精度を上げることに力を注いだ感じですか。それがむしろアルバムのコンセプトだったというか。

逸見:コンセプトは特になかったけど、理想のロックンロールバンドのセカンドアルバムというのは勢いがあってなんぼだと思ったので、ファーストアルバムに負けないくらい勢いのあるアルバムにはしたかったです。メンバーにもこういうアルバムにしたいんだと伝えて共有するようにしました。

──その結果、“symbol faces”=バンドを象徴する顔ぶれの曲たちが集まったと。

逸見:いい曲ばかり揃ったし、どれもこれからのmyeahnsの顔になる曲じゃないかと思って、メンバーと話し合いながらタイトルを付けました。

──ロックバンドのセカンドアルバムはファーストアルバム以上のインパクトを与えるのが難しいのは古今東西のロックバンドを見渡してみてもよく分かりますよね。

逸見:だからこそ絶対に『Masterpiece』を超えなきゃいけないと思ったんです。でも実際にセカンドを作って感じたのは、今のmyeahnsの状態がすごくいいのを実感できる作品になったということですね。

──理想的なロックバンドのセカンドアルバムとして目標に掲げた作品はありました?

逸見:ブルーハーツのセカンド『Young And Pretty』とクラッシュのセカンド『動乱(獣を野に放て)/ Give 'Em Enough Rope』とかですかね。どちらもファーストに劣らない勢いが変わらずあるので。ファーストを超えるくらいの勢いで突っ走る感じ。

──収録曲について聞かせてください。まず去年の4月に先行配信されていた「オレンジ」は、元の構成からだいぶ変化を遂げたそうですね。

逸見:最初はイントロも違って、大サビもなかったんです。あるライブで、もうこれでいこうという形で「オレンジ」を披露したらレーベルの人がシブい顔をしたんです。でもライブのMCで言ってるんですよ。「次のシングル、『オレンジ』」って。で、俺もこれをシングルにしたかったのでイントロを変えて大サビを付け加えたんです。結果的にいい形になったので良かったですけどね。

緊急事態宣言下、真夜中の渋谷でゲリラ撮影を敢行

──せっかくメンバー勢揃いなので、ポップでキャッチーなmyeahnsの楽曲がどのように完成するものなのか、この「オレンジ」を例に伺いたいのですが。アレンジの第一歩となるギターリフを齊藤さんが考えるところから始まるんですか?

齊藤:「オレンジ」のリフは亮太君が最初から考えてあったよね?

逸見:イントロのリフは最終的に俺が考えたけど、一番初めはなかった。

齊藤:めちゃめちゃ短い曲だったよね。最初は1分台だった気がする。メロディがすごくいいので、それを邪魔せずアレンジしたというか…「オレンジ」はそれくらいしか覚えてないな。

逸見:俺が「オレンジ」で覚えてるのは、コード進行も理解してみんなで初めて音合わせをしたときに茂木君が8ビートを叩いたことです。別にそう指示したわけじゃなくて、俺の弾き語りを聴いたときから茂木君の中で8ビートが鳴ってたと思うんですけど、「やっぱりこういう8ビートがやってて気持ちいいね」と茂木君が言ってたのは覚えてます。myeahnsの曲で8ビートって意外と少ないんですよ。作りたいとは思っていてもなかなか出来なかったりで。

コンノ:ベースはだいたいドラムと一緒に大まかなフレーズが決まりますね。細かいニュアンスとかは途中で変わりますけど。亮太君の弾き語りや唄い回しを聴いた茂木君が適当に叩いてるのに合わせて弾いていく感じです。

逸見:茂木君が何となくビートを叩いてるのを聴いて、茂木君がそう叩くんだったらハル君はこう弾こうかなっていうのがあるんだよね?

コンノ:そうだね。

逸見:そこである程度リズムが決まります。

Quatch:キーボードが入るのは基本的に最後の最後ですね。ほとんどのフレーズは亮太と一緒に作っていきます。

──分数の短い曲が多いのもあると思いますが、どの曲も簡にして要を得たアレンジが施されていますよね。一見ラフなようでいて実は緻密な作りが前作以上に徹底されているように感じたのですが。

Quatch:余計なフレーズやムダが箇所があればなるべく削ることにしてますからね。「今のとこ要らなくね?」みたいな。

逸見:疑問に思う箇所があったら削ります。「これってなくていいよね?」という箇所があれば削ってしまいがちかもしれないです。

──冗長なギターソロもあまり入れないように意識していますか。

齊藤:入れないですね、いいのがない限りは。

逸見:ギターソロに関しては「何周する?」って話しかしてないです。それで雄介が「2週かなあ」ってなったら2週になる。

齊藤:長々と弾くのが好きじゃないんですよね。曲の中でちょっと弾いて、いいメロディに寄り添うものになればいいので。

──どのパートも逸見さんの歌やメロディを引き立たせるために余計なことはしないのが窺えますね。

齊藤:それは絶対そうですね。

──「オレンジ」と同じく先行シングルになった「ビビ」については、武田梨奈さん主演・アベラヒデノブ監督によるミュージックビデオについて触れないわけにいきませんが、真夜中の渋谷を舞台に1カット映像で撮影を敢行したのが画期的ですよね。

Quatch:完全にゲリラ撮影でした(笑)。

茂木:めっちゃバタバタで大変だったよね。急いでドラムセットを組まなきゃいけなかったし(笑)。

逸見:渋谷に集合したのが終電とかの時間、それから打ち合わせをして街に繰り出してリハーサルをしたのが2時くらいだったのかな。1時間半ほどリハを重ねた後に本番を1カメで撮りました。

──1カメのアイディアはアベラ監督の発案だったんですか。

逸見:そうです。基本的にこちらから監督に要望することはなくて、曲を聴いてもらって監督に撮りたい画を撮ってもらうだけで。アベラ監督がmyeahnsをこの曲で撮るなら、渋谷のセンター街のど真ん中で1カメで撮りたいってことだったんです。

──撮影したのはいつ頃?

逸見:1月の後半です。緊急事態宣言中で人がかなり少なくて、いつもと違う異様なセンター街の雰囲気はありましたね。

──武田さんが空手の型をキメている背後で逸見さんがのこのこ出てきてハーモニカを吹く画が妙におかしいんですよね(笑)。

逸見:あれは図々しくも俺のアイディアで、リハーサルの映像を見て思いついたんです。ちょうどハーモニカが入るところが武田さんが型をキメるシーンだったので、アベラさんに「ここで俺が後ろから入るのはどうですか?」と聞いたら「ああ、いいですね。そうしましょう」って。あの後、大急ぎでぐるっと回ってバンドセットのほうまで戻って大団円を迎えるっていう。

3分くらいの曲ができるとみんな妙に納得する

──「オレンジ」にしろ「ビビ」にしろ、この曲をシングルにしたいという意向は5人一致しているものなんですか。

齊藤:だいたいは俺と亮太君で決めます。2人でずっとLINEして話して。茂木君には「どう思う?」と聞くことはあるけど。

逸見:茂木君はけっこう的確な意見をくれるから。

齊藤:俺と茂木君に意見のズレはほとんどないんです。茂木君に「こうだよね?」と聞くと「絶対そっちのほうがいい」ってなるけど、亮太君が違ったり。それで俺と茂木君が説得したり。俺と茂木君の意見が合えば亮太君も反対しないし、「じゃあそっちでいこうか」ってなる。

──そのやり取りのあいだ、Quatchさんとコンノさんは?

Quatch:僕は雄介君のセンスを10,000%信じてるので、全く反対しません。いつもそうです。

コンノ:俺も基本はお任せですね。

──高水準の楽曲が立ち並ぶアルバムの中で切るシングルの基準とはどんなところなんでしょう?

逸見:そこはレーベルとの話し合いもあります。これはシングルっぽい、シングルっぽくないって。「ビビ」に関しては雄介が異様に好きだったのもありますね。

──「白昼のヒットメーカー」はアンプラグド仕様でライブがやれそうな新機軸の曲だなと思いましたが。

逸見:嬉しいですね。

茂木:カホンとかが入ってるからね。

逸見:サウンドに関してはジャグバンドっぽい、いい雰囲気を出したかったんです。

──その一方でmyeahnsならではの魅力なのは、やはり偉大なるロックの先人たちへのリスペクトを込めた楽曲があることだと思うんです。「(Love Is Like a) Heat Wave」のベースラインを意識した「くたびれ天国」、「Paint It, Black」を換骨奪胎した「まっくろ娘」といった曲を聴くと、掘れば掘るほど楽しく深いロックンロールの魅力を再認識するというか。

逸見:「くたびれ天国」のモータウン感や「まっくろ娘」のストーンズ感は、曲を書いた時点で俺が何を言いたいのか、何をしたいのかをメンバーが勝手に解釈してくれたんだと思います。

Quatch:そういう感じはもともと染みついてるものだよね。

──「まっくろ娘」のドツ! ドツ! ドツ! ドツ!…という武骨なドラムの連打を聴いただけでキタ! コレ! となる感じが確かにありますね。

逸見:うん、カッコいい。

Quatch:スタジオであのドラムを初めて聴いた瞬間、みんな「カッケー!」って言ってましたからね。

茂木:亮太君に弾き語りを聴かせてもらって、俺はこれだけやっとけばいいんだなと思って(笑)。

──「Paint It, Black」へのオマージュだから「まっくろ娘」なんですよね?

逸見:まあそんなところです。ヒントとして“まっくろ”ですかね。

──「まっくろ娘」は物語性に富んだ歌詞もいいですね。まっくろ娘という第三者を主人公にした作風はポール・マッカートニー的でもあるし。

逸見:それはすごくいい褒め言葉ですね(笑)。

──かと思えば「マネーガネー」のように溌剌として軽快なロックンロールあり、「メーデー」や「アメイジング・グレイス」のようにパンキッシュでライブ映えする曲もあり、曲調はバラエティに富むにも程があるほど多彩ですね。

逸見:良かったです。入れなかった曲もあるんですけど、曲調のバランスは雄介と事前にいろいろ話したし、スタジオでもメンバーと「これを入れるならあっちの曲はなしかな」という会話をしました。

コンノ:「アメイジング・グレイス」とかはレコーディングのときに最初の形と変わったんです。最初はもっとだらだらした感じで長かった。

齊藤:やっぱり短いほうがしっくりくるっていうか。

逸見:みんな共通して短い曲が好きだよね。

Quatch:3分くらいの曲ができるとみんなヨシ! と妙に納得するしね(笑)。

──本作でも「Baby Blue」の3分29秒が最長ですもんね。前作には「ローズマリー」や「ざ・むーんいずまいん」といった4分超えの曲があったけど、今回4分台の曲はないですし。

逸見:だから曲によってなんでしょうね。「ローズマリー」や「ざ・むーんいずまいん」が長いなあ、とは思わないし。

Quatch:できるだけ無駄を省いていって、出来上がったら3分台になってたっていうのが多いよね。

メロディに寄り添い、反発しない歌詞がいい

──myeahnsにおける鍵盤の果たす役割は絶妙なスパイスのようでなくてはならないものだと思うんですけど、その匙加減もちゃんと推し測っているんですよね?

Quatch:最初に俺がだいぶ弾きすぎるので、後で削りつつ考えていきます。やっぱりメロディが大事だし、亮太にほとんど頼ってますね。メロディライン的なものを考えるのが亮太はすごく秀でてるので、彼にアイディアをいっぱいもらってます。音色も亮太と相談しながら決めてますし。

逸見:上物が過剰になりすぎないようにっていうのは雄介とQuatchが特に意識してるんじゃないですかね。2人で会話してるのをスタジオでよく見かけるし。

Quatch:あまりごちゃごちゃしてると気持ち悪く感じるのはみんな共通してると思うんですよ。それぞれいろんな音楽を聴いてきてジャンルもバラバラだけど、無意識のうちにシンプルでストレートなロックにベクトルが向いてる。そういう5人の嗜好が楽曲の幅にも広がってる気がします。

──メロディと分離しない平易な言葉が並ぶ歌詞もまたいいんですよね。説明的すぎず、それでいてイマジネーションを掻き立てられる理想的なロックンロールリリックとでも言うような。

逸見:歌詞に関しては茂木君がしっかり聴いてくれるんですよ(笑)。「歌詞見せて〜」って言ってくれるし。

茂木:どれもいい歌詞だけど、今回は「くたびれ天国」が一番好き。マジいい曲だよね。

コンノ:「くたびれ天国」はいいね。まあ全曲いいんだけど。

──逸見さんから真っ先に新曲を聴く齊藤さんはどうですか。

齊藤:メロディに寄り添うというか、メロディに反発してない歌詞ならわりと何でもいいんですよね。逆にメロディに合わないと、どれだけいい曲でもどれだけいいことを唄っててもイヤなんです。とはいえ今回そんな歌詞があったわけじゃないけど。

──「Summer of Love」の歌詞も詩的かつロマンティックで秀逸なラブソングですが、1967年の夏にアメリカで巻き起こった“サマー・オブ・ラブ”のことも念頭にあったんですよね?

逸見:うん、それも落とし込めたらと思って。あの時代への憧れもあったし。

──あと、音の録り方も前作と比べて変わりましたよね。従来の野性味が増幅されてはいるけど、繊細さや整然とした一面もまた際立った音作りになっている気がします。あまり情報量を詰め込みすぎていないというか、ボリュームを上げても耳心地の良い音の鳴りがしますよね。

齊藤:それは個人的にすごく気に留めました。余計なこともしたくなかったし、前回のレコーディングの反省点を活かしたところはあります。

逸見:音の面に関してはスタジオでメンバーがよく話をしてくれたし、ファーストよりも良くなったんじゃないかな。

齊藤:ファーストのときはQuatchが入る前の曲もいっぱいあったし、そこはQuatchが大変だったと思うんですよ。俺も上物が2人いるからどうやっていいか分からなかったし。でも今回は最初からQuatchがいる状態で作った曲がほとんどだったので、その面ではやりやすかったですね。

──では制作進行はわりとスムーズでした?

逸見:アレンジを考えるのはスムーズじゃない曲もあるにはあったんですけどね。「Baby Blue」と「Summer of Love」と「マイ・ネーム・イズ・エレキトリック」にはちょっと手こずったし。

齊藤:「ビビ」も相当手こずったよね。

逸見:レコーディング自体はスムーズでしたけどね。

──「Baby Blue」は平歌でテンションが潜るように下がってからサビで一気に開けていく進行がクセになるし、これまでのmyeahnsにはないタイプの曲ですよね。

逸見:そういうmyeahnsの新しい要素も入れたかったし、それで手こずることもありましたね。

齊藤:「Baby Blue」は最初に亮太君の弾き語りを聴いた瞬間からアルバムの1曲目だなと思って。俺が茂木君に「これはドラム入りがいいんじゃない?」って言った気がするんだよね。茂木君のドラム入りが俺は大好きなんで。だからなのか、ファーストのときからドラム入りの曲が多いんですよ。

コロナ禍でもバンドの活動ペースは変わらなかった

──なるほど。さっき逸見さんが話していた、今のmyeahnsがいかに良い状態にあるかは「トラベリン・バンド」みたいな曲を聴くとよく分かりますね。現在のmyeahnsを象徴する代名詞のような曲だし、バンドのアンセムソングと呼んでも差し支えないと思うんです。

齊藤:わりとすんなりできた曲だよね。

逸見:俺の弾き語りはカントリーっぽい跳ねた感じで、バンドで音を合わせたらもっとどっしりしたサウンドにしたほうがいいかもなって思って変わっていきました。「トラベリン・バンド」があるとアルバムが締まりますよね。

──そんなふうに弾き語りから見違えるように変わった曲は他にもあるんですか。

茂木:「マイ・ネーム・イズ・エレキトリック」じゃない?

Quatch:確かに。裏返った感じがあったもんね。

齊藤:どうだろう、思い出せない(笑)。

逸見:俺も思い出せないけど、もともと転調してなかったことは覚えてます。

コンノ:それこそ「ビビ」のミュージックビデオを撮った次の日だよね? 亮太君が寝ないで「~エレキトリック」の原型をいきなり持ってきたからびっくりした。

逸見:そうだ(笑)。撮影の次の日がスタジオで、その日までにあと1曲仕上げられたら仕上げたいと思ったんです。それが「~エレキトリック」の雛形。

齊藤:エンジニアの人にスタジオへ来てもらったりもしたんですよ、アドバイスをもらいたくて。そのおかげでかなり進化したよね。「AメロとBメロをちゃんと付けたほうがいいんじゃない?」と言われて。

コンノ:展開もまるで違ったよね。

齊藤:AメロとBメロが付く前はほぼサビだけで、myeahnsの曲はサビ入りが多いから普通にAメロから入ればいいんじゃない? と言われたんです。

──だからこそmyeahnsの曲は一度聴けば覚えやすくてキャッチーに感じるんですよね。ところで今回のアルバム制作に新型コロナウイルスの影響はありましたか。

齊藤:そもそも去年の秋くらいにアルバムを出す予定だったんですよ。それが全部コロナで延期になっちゃって。せっかくアルバムを出してもツアーを回れないんじゃ意味ないよねって話になって。発売が延期になったおかげで入った曲もあるんですけどね。

逸見:コロナのせいで「オレンジ」を出したタイミングでやるはずだった『colours』という春からのツアーが延期になってしまったんです。

齊藤:そのツアー中にセカンドアルバムを発表する流れだったんだけど、『colours』すらできなくなって。そのファイナルとして去年の11月に渋谷のクアトロを押さえてたのに、2回流れたんですよ。

逸見:個人的には曲作りの時間が長くなった感じですかね。それで選りすぐりの曲で『symbol faces』を固められた感じです。リリースの時期が違ったら入ってる曲も違ってたでしょうね。

齊藤:ただ、コロナだからどうこうってことは俺たちにはなかったですね。普通にライブもやってたんで。配信もそのおかげでやれたし。

Quatch:活動のペース自体は落ちてなかったしね。

逸見:myeahnsはこんな状況でも、むしろこんな状況だからこそライブをやろうとみんなの足並みが揃ってましたね。そこで足並みが揃わなかったバンドも多かった時期だったんじゃないですかね。

──配信ライブはやってみていかがでした?

逸見:やっぱり、有観客と無観客ではこんなにも違うのかって思いましたね。

コンノ:でも俺は亮太君が配信向きだと思ったけどね。カメラ目線も自然だったし。

茂木:配信は意外といつものライブより疲れるよね。いつどこでカメラに抜かれてるか分からないし、しかもちゃんと演奏しなきゃいけないし。

──ちょっと語弊がありそうですけど(笑)。無観客の配信だと暖簾に腕押しの感覚にはなるんでしょうね。

齊藤:ライブをやる意味がよく分からなくなりますね。

Quatch:何回目かの無観客配信でそれは痛感しました。

齊藤:それで無観客の配信はすぐにやめたんです。お客さんがいるといないじゃ全然違うので。

逸見:ステージから見える景色も自分たちの気持ちも全然違うしね。

1曲単位で聴かれる今の時代は昔に戻っているのかもしれない

──コロナ禍に屈せずバンドの活動をキープすることで結束が強まったとか、そういったことは?

齊藤:別にないんじゃないですかね。

逸見:いつも通りって感じだったかな。

Quatch:最初の緊急事態宣言のときもバンド活動を続ける上で雄介君と亮太のこういうフラットな感覚があったからこそ、その後の活動もあまりペースを落とすことなくできたんだなと思っています。

齊藤:非常時と言われる時期にライブをやる、やらないというのは考え方の違いもあるだろうし、どれが正解とかはないと思うんです。でもmyeahnsの場合はレーベルの母体が新宿ロフトで「ライブをやろうよ」といろいろ協力してくれたし、俺たちもやるって感じだったからやれたんだと思います。

──そうした攻めの姿勢を崩さずに敢行した今回のレコーディングはいつ頃に集中して行なったんですか。

逸見:今年に入ってから、1月と3月の2回に分けて録りました。

──2回に分けることで、仕上がった楽曲を寝かせた上で良し悪しを冷静に判断するのが目的?

齊藤:俺が2回に分けたくて。いつも部分的に変えたくなっちゃうし、時間を置けばそのあいだに考えられるし。それで1月と3月に3日間ずつ分けて録って、焦って出す必要もなかったのでじっくり考えてみたんです。ファーストのときはもっとああすれば良かったとか後から思ったし、ここを直せば良かったとか冷静に考える時間が全然なかったんで。

コンノ:ファーストに入ってる曲は全部ライブでやって、ライブで評判の良かったのを入れたんですけど、セカンドはこれからライブでやる曲もあるから慎重に判断したいのもあったと思います。時期を分けなかったら「~エレキトリック」みたいな曲は入ってなかっただろうし。

──今回収録を見合わせた曲はどれくらいあるんですか。

逸見:4、5曲ですね。俺的にはサードでも使えるんじゃない? と思ってますけど。今回のセカンドではバランスを考えて洩れてしまっただけなので。

──鬼が笑う話ですが、3作目の構想はすでにあったりしますか。

逸見:もう曲作りはちょっと始めてますけど、どうかなあ。でも作り方は変わらないだろうし、その時々でできた曲をメンバーと一緒に練り上げていくやり方は同じなんじゃないですかね。この5人になって4、5年経って今が一番楽しいし、今が一番いい形なのを実感してるし、バンドを続けてきて良かったと思うんです。だから次のアルバムもまたいいものになる気がしてます。まあその前に7月から始まるツアーですよね。今はスタジオに入ってゲネプロをやったり、ツアーの準備期間に充ててます。

──ファイナルは渋谷のクラブクアトロで、バンド史上最大規模のキャパですよね。

逸見:ワンマンではそうですね。

──フィジカルなCDよりも音楽配信が身近になった昨今、myeahnsのように1曲入魂のバンドはビギナーに知られやすいという意味で追い風だと思うんですよね。若い世代は1曲単位で視聴または購入することが多いだろうし。曲のいいとこ取りでアルバムをトータルで聴く面白さが減るんじゃないかとぼくのように古い世代は危惧を覚えつつも、それもバンドを知る入口としてはいいんじゃないかと。そうした聴かれ方についてはどう感じますか。

逸見:といっても、1枚のアルバムとして聴いてほしいですけどね。CDを買って歌詞カードを手に取りながら。曲順もそのために考えたし。1曲単位で注目されて聴かれる今の時代は昔に戻ってる気もしますけどね。50年代のオールディーズや60年代半ばまでのロックンロールはシングルをバンバン出して、それを寄せ集めたのがアルバムだったわけじゃないですか。それがたとえば『Sgt. Pepper's~』以降はアルバムが一つの作品として扱われるようになっていったけど、今はまた1曲単位で聴かれるシングル向きの時代に戻りつつあるというか。でも今回の『symbol faces』はすごくいいアルバムだと思うし、ぜひアルバム単位で聴いてほしいですね。

齊藤:これがアナログで出せたら最高なんだけどね。「Summer of Love」はB面の1曲目のイメージだし。ファーストは「恋はゴキゲン」がそのイメージ。

この12曲の顔ぶれが揃ってmyeahnsを象徴する1枚になる

──ツアーが終わればすぐに新作のレコーディングに入る感じですか。

逸見:俺の理想としては、年内までに曲をためて年明けにはサードに向けてレコーディングをしたいくらいです。

──精力的ですね。曲作りに煮詰まったりはしないものですか。

逸見:もう一生書けないんじゃないかと思う瞬間が多々ありますけど、ギターを触ってみたりするとまだまだ書けるなと感じることがあるので煮詰まることは今のところなさそうですね。こんなにいい曲が書けたんだよ! と持っていけばこの4人は気に入ってくれると思うし、今はバンドが楽しいし。弾き語りのライブもたまにやるけどソロは孤独だし、唄うならバンドが一番いいんですね。

──では最後に、メンバー一人ずつに『symbol faces』の聴き所を伺って締めましょうか。

齊藤:そうだなあ…今回はドラムの音がめちゃめちゃ格好いいんですよ、ギターの話じゃないけど(笑)。

茂木:それを言うならギターの音も良かったし、ギターソロも良かった。ドライブしてる感じがすごい出てて。

逸見:ギターは今回、すごく勢いがありますよ。リズム隊に絶大な信頼を置いてるからこその勢いがある。

齊藤:リズム隊はだいたい2テイクくらいで録り終えるので。今回はリズム隊と一緒に同じ部屋で録れたのが良かったです。それとエンジニアさんのアドバイスで「これはこのギターがいいんじゃない?」と曲によってギターを変えたのも音の鳴りが良くなった理由の一つだと思います。

Quatch:すごかったよね、ギターの見本市みたいで(笑)。

茂木:ドラムも曲によってスネアを替えたりした。

Quatch:ミックスでバスドラの音を変えたりもしたね。

茂木:俺はシングルになった「オレンジ」と「ビビ」以外の曲もすごく好きなんですよ。マジで全曲シングルを切れると思うし、光の当たらない曲がかわいそうっていうか。とにかくどれもめちゃめちゃいい曲だからアルバム全部を聴いてほしいです。

Quatch:俺はあれかな、今回はすごくいいギターのアイディアがいっぱいあって、それに合わせたキーボードを意識したのでその辺の絡みも聴いてほしいですね。あと、いい曲、いい歌詞、いいメロディなのは前作から変わってないし、それは3作目でも続いていくだろうし、その意味ではずっと聴き所ですね。

コンノ:ベースに関して言うと、さっき先人へのリスペクトみたいな話がありましたけど、ちょいちょい先人から拝借したフレーズがいろんな曲に散りばめてあるんです。その元ネタを探してみるというマニアックな楽しみ方もできるし、全部分かったらすごいですね。

逸見:じゃ最後に…この12曲の顔ぶれが揃ったときにこのアルバムが今のmyeahnsを象徴する1枚になると思ったし、茂木君が言うように全曲いいし、どの曲をシングルカットしてもおかしくない出来なので最新作のこのアルバムを聴いてほしいです。これが今の俺たちのシンボルなので。

──総じて言えば、Amazonのレビューに「ファースト以上のものは出せないんじゃないか」と書いた人にもどうだ!? と胸を張れるアルバムができたということですよね。

逸見:もちろんその人にもぜひ聴いてもらって、またレビューを書いてほしいです。きっと聴いてくれるだろうから、その感想をぜひ読んでみたい。楽しみにしてます。

© 有限会社ルーフトップ