地域を元気に 上越市・妙高市 地域おこし、のこし協力隊

 上越・妙高両市の中山間地に暮らし、地域の人たちと力を合わせ、自身の得意分野やこれまでの経験をいかして日々、地域活性化のために活動している人たちがいます。現役協力隊員と隊員卒業後も地域に残り奮闘するそれぞれの活動を追いました。

「地域おこし協力隊」とは?
「地域おこし協力隊」は、平成21年度より総務省が推進している制度で、都市部からあらたな人材を受け入れ、過疎化・高齢化の進む地域を元気にしようというものです。上越・妙高の両市ともに平成25年に導入を開始。妙高市では、地域の抱えるさまざまな課顆を地域住民が主体となった助け合い、支え合いの維持・向上による「地域のこし」を実現するために、「地域のこし協力隊」と呼んでいます。出身地、経歴、これまでのキャリアはさまざまですが、熱い思いを胸に地域に暮らし、新風を吹き込んでいます。

〈上越市地域おこし協力隊〉

■清里区櫛池地区 “にぎやかな中山間地”を創る農村プロデューサー

 2019年、第1子の妊娠を機に都会での子育て環境に疑問を感じ、四季を身近に感じられる地域への移住を決めた高木さん。移住先を決める際に、独自でリストを作成し、10万人以上の人口があり、子どもの育児、学習環境や地域の特性などを各県ごとに自己採点し、日本海側の都市を候補地に絞り込みました。

 雪が降り、四季の表情が豊かで、教育環境も整っている上越市の「地域おこし協力隊」に応募し、3年の任期で赴任しました。消里区の中山間地で農業振興、過疎化対策に取り組む「櫛池農業振興会」の一員として、地域の活性化に取り組んでいます。

柿崎区の協力隊、畔田さんと連携してカフェを運営(5月29日)

 5月15日からオープンした清里区の絶景スポットに建つ〈ビュー京ヶ岳〉をカフェとして再活用するプロデューサーに抜てきされ奮闘中。同区の旬の特産品を使った軽食、販売品の選定、SNSを利用した情報発信・販促などを通じて、景観や居心地の良さ、活動拠点としての利用促進に取り組み、若者を誘客できるような楽しめる仕掛けも考えているそうです。居住する地域住民からの山菜や野菜のおすそ分け、声掛けはこれまでの都会暮らしでは経験したことがなく、精神的距離が近く安心して生活できるそうです。

 今後の目標について高木さんは、「櫛池農業振興会に入って、農作業に従事するだけが農業の仕事ではなく、後方支援として事務作業や企画の提案などもできることが分かった。広く内外に誇れる良さを強力にPRできるよう特産品の開発や販路閲拓を行いたい。最終的には長年携わった福祉の経験をもとに農福連携の事業も手掛けたい」と話してくれました。
髙木 桂(たかぎ かつら)さん(39歳)
2021年4月~活動。1982年北海道道東生まれ。高校卒業後、進学のため上京し、2020年まで首都圏で生活。児童発達支援を行う会社で施設の運営管理を担当していたが、自身の妊娠を機に子育てを考えるようになり、四季の移ろいを感じられる日本海側への移住を決意。家族3人で上越へ。

■安塚区細野地区 第二のふるさと安塚区と未来のために広い視野で活動

 東京で開催された「新・農業人フェア農業EXPO」で地域おこし協力隊の活動や上越市について知り、IT関連の仕事で培った技術や経験をいかして農業や地域活性に取り組みたいと決意し、東京都新宿区の大都会から同区へ移住しました。

 細野地区の宿泊交流施設「六夜山荘」で施設の維持管理や接客、料理やイベントの企画立案から実施まで、運営業務全般に携わっています。コロナ禍前は、田植えや稲刈りなどの農業体験や研修等で賑わった同施設ですが、現在は全国的な自粛傾向で利用は減っているものの、地域や施設の有効利用のために今できることを企画しています。

田植え指導を受ける林さん
六夜山荘駐車場の灯の回廊(令和3年2月)

 同施設自慢の味を楽しんでもらおうと仕出し料理や、6月21日から本格運用予定の弁当の受注、カフェ営業の可能性も考えてスイーツ作りにも挑戦しています。感染防止対策を徹底したうえで、まずは近隣からの集客を目指しています。同地区の景観や自然を満喫してもらえるように散策マップ製作やテントを貸し出してのキャンプ体験も夏から行う予定です。

 オフには地域の農家から田んぽを1枚借りて、集落の方々に協力してもらいながら自身で田植えから稲刈り、はさ掛けまで手作業で行い、昨秋に収穫した米は地元の人たちからも美味しいと褒めてもらえたほど。林さんは、「農業を自分で経験して大変さが分かった。里山の美しい景観を維持できているのは、地域の皆さんの努力の結晶。未来へ残すために自分の持つIT技術や首都圏とのつながりを活かして、できることから確実に取り組みたい」と力強く語ってくれました。
林 克彦(はやし かつひこ)さん(47歳)
電機メーカーでIT関連の業務に従事。その後フリーランスのITエンジニアとして独立。2019年に行われた農業と都会を結ぶ「新・農業人フェア農業EXPO」で上越市地域おこし協力隊を知り、隊員として採用され今日に至る。

上越市地域おこし協力隊OG

■牧区 任務後も残り、牧をもっと楽しく

 上越市地域おこし協力隊として4月まで3年間、牧区原地区・白峰(しらふ)地区を担当しました。特産品の開発・販売強化、農事組合法人の事務補助・農作業支援、都市に住む人との交流事業など輻広い活動を行いました。

特産品開発でオニグルミに着目
オープン予定のカフェスペース

 特産品開発ではオニグルミに着目してクッキーなどを試作・販売、地域の共同作業や行事に参加し、これらの活動内容は、「ふきのとう通信」を発行して(地域住民に)伝えました。「皆さんに優しく、いろいろ教えてもらい、楽しく活動することができました」と振り返ります。「とてもよくしてくださったので、このまま住もうかなと。協力隊の活動でやり始めたことを最後までやりたい」。昨年5月、牧区倉下の空き家を購人してリノベーション(大規模改修)し、12月から住んでいます。自宅内にカフェスペースを作り、秋頃にオープンを予定しています。

 興味関心が輻広く、新しいことに積極的に取り組み、さまざまなことに参画しています。「新しい仕事をすると、覚えるまで大変だけど、自分が慣れて苦労しなくてもできるようになると、かえって居心地が悪い」と苦笑交じりに話します。

 牧の人たち、自然、風土を愛し、今後も地域への貢献や還元を考えています。「牧の方々はオープンで気遣ってくれますが、かといってべたベたしすぎず、とても居心地がいい。地域の皆さまに恩返しできれば。牧をもっと楽しく、牧の人に喜んでもらえることをしていきたい」と笑顔で話しています。
▼原田 真理(はらだ まり)さん(46歳)
2018年4月~活動。1974年東京都田無市(現西東京市)生まれ。1998年農林水産省入省後、市町村研修で現場に近い仕事の面白さを体感。2000年に上越市役所に入り、市町村合併の事務などを担当。2008年に退臓し、2011年から2018年まで福井県の中学校英語教諭を務めた。「上越に戻りたい」と、上越市地域おこし協力隊に応募した。

〈妙高市地域のこし協力隊OB〉

■新井南部地区 地域の暮らし体験の場を創作、提供 

 妙高市地域のこし協力隊のOB。昨年7月に3年の任期を終えてそのまま残り、今年1月、活動エリアの新井南部地域(小局)に農家民宿「こっぽねの家」を開きました。

ヒノキ風呂
今年1月にオープンしたこつぼねの家

 行政からの補助金や自らのクラウドファンディングなどで資金を集め、築140年以上の古民家を改修しました。ヒノキの風呂はお客さんが薪(まき)で焚き、かまどでご飯を炊きます。「創作型くらしあそび宿」と銘打ち、周囲の自然や宿がフィールドワークの場となり、「ぜひ親子で体験してほしい」と話します。

 地域のこし協力隊の活動の期間には、NPO法人「みずほっと」を主体に精力的に活動。孫や仲間とやりとりしたいという声を受け、地域の高齢者らにLINE講座を開いたり、農産物直売所「みずほ市」を開設したり、新井南部地域を巡るランレースなどを実施しました。また、リヤカーの屋台でお茶飲みの場を提供する「リヤカブミーティング」を企画し、コロナ禍まで3ヵ所で世代を超えた交流を促進しました。協力隊同士の横のつながりにも積極的で、新潟県内の協力隊のコミュニティーを作って、月1回、オンライン上でトークライブラリーを開設。情報を交換し、それぞれが活動しやすい環境を整えています。妻の江美子さん(33)も津南町で活動しています。

 農家民宿を開設した今、「地域の人から好きなことを情熱を持って取り組むことを学んだ。外から来た時に、地域の人が教えられる場を作りたい。暮らすことを一緒に楽しんでほしい」と話します。
▼諸岡 龍也(もろおか たつや)さん(40歳)
2017年8月~活動。1981年大阪市生まれ京都府向日市で公立保育園の保育士を務めた後、「自然や保育を深掘りしたい」と、2014年に妙高市原通の国際自然環境アウトドア専門学校に入学。授業で集落に入る度に、地域の人と近くなり、「少しでも役に立ちたい」と、地域のこし協力隊に就任し妙高市瑞穂地区の担当となった。

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