太陽フレアと雷が「宇宙空間との境界」に影響 アレシボ天文台収集データで調査

【▲太陽フレア(Credit: NASA/STEREO/Helioviewer)】

プエルトリコにあるアレシボ天文台の電波望遠鏡が解体を待たずして崩壊したことは記憶に新しいところです。

関連:アレシボ天文台の電波望遠鏡が崩壊する様子を捉えた動画

アレシボ天文台は地球外知的生命体探査(SETI:Search for Extra-Terrestrial Intelligence)で特に有名ですが、これまでパルサーや電離層の観測的研究でも成果を挙げてきました。そのアレシボ天文台で収集されたデータを用いた電離層に関する新たな研究が公開されました。

太陽から噴出する太陽フレアと地球上で発生する雷は、地球の電離層に影響を与え、長距離通信に障害を引き起こす可能性もあります。

【▲ ISSから撮影された雷光(右下)。太陽電池アレイにその光が反射している。(Credit: NASA, JSC, ESRS)】

ニューメキシコ工科大学の物理学助教Caitano L da Silva氏が率いる研究チームは、アレシボ天文台の非干渉散乱レーダー(ISR:Incoherent Scatter Radar)、人工衛星、プエルトリコの雷探知機のデータを用いて、雷と太陽フレアが同時に電離層D領域(「宇宙空間との境界」とも呼ばれています)に及ぼす影響を初めて検証しました。研究成果は2021年5月13日付けの「Scientific Reports」誌に掲載されました。

研究チームは、太陽フレアや雷の影響で、自動車や航空機に搭載されているGPSなどの長距離通信に利用(※)されている「宇宙空間との境界」に独自の変化が生じていることを、世界で初めて解析しました。

(※)電離層は電波を反射する性質を持っているため長距離通信に利用されています。

「今回の結果は、とてもエキサイティングです。私たちが論文で示した重要な点の1つは、雷と太陽フレアによる特徴は全く異なるということです。前者は電子密度の減少を引き起こす傾向があり、後者は増強(またはイオン化)を引き起こす傾向があります」とda Silva氏は語っています。

「この研究は、大気領域の結合を完全に理解するためには、(雷から)下部電離層へのエネルギー入力を適切に説明する必要があることを強調しています。アレシボ天文台で長年にわたって収集された豊富なデータは、下部電離層における雷の影響を定量化するための画期的なツールとなることでしょう」

そしてまた、地球の電離層への影響を理解することは、通信の改善にもつながります。

アレシボ天文台は今後も存続される見通しで、蓄積されたデータなどによる研究に期待したいものです。

Image Credit: NASA/STEREO/Helioviewer、NASA, JSC, ESRS
Source: University of Central FloridaScientific ReportsAPOD
文/吉田哲郎

© 株式会社sorae