もう逃れられない「脱炭素」、G7サミットで再加速した削減目標と政策方針をまとめて紹介

G7サミット(主要7ヵ国首脳会議)は6月11~13日、2年ぶりとなる対面方式で英国コーンウォールにて開催されました。その共同宣言では「自由や平等、人権の保護などの力を使って挑戦に打ち勝つ」とし、台湾の重要性や、新しいインフラ支援の枠組み創設など「対中国」で結束。国際協調を重視するバイデン米大統領が主導する形で、民主主義主導のG7が再起動しました。


石炭火力の見直しが加速

気候変動分野では、遅くとも2050年までの温室効果ガス(GHG)排出のネット・ゼロと各国の2030年までの目標へのコミットを宣言。先進国は自国の脱炭素化を強力に進めると共に、世界でその流れを加速するための取り組みを強化していきます。

石炭火力発電がGHG排出の最大の原因であることを認識し、温暖化ガスの排出削減対策がとられていない石炭火力の政府による新規輸出支援を2021年に終了することで合意しました。排出削減対策が講じられていない石炭火力発電からの移行をさらに加速させる技術や政策も急拡大させる方針です。小泉環境相は15日、石炭火力発電の輸出支援の見直しに言及しています。

気候関連情報「TCFD」開示が加速

「脱炭素」の実現には、資金力と技術力が必要となります。資金に関しては、G7は「共同宣言」で、世界的にグリーンな金融市場の発展は、民間部門の資金の動員を助け、ネット・ゼロへのコミットメント達成に向けた政府の政策を強化すると言及。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みに基づく義務的な気候関連財務情報開示への支持を表明しました。

日本では6月改訂の「コーポレートガバナンス・コード」にて上場企業にTCFDを含めたサステナビリティの開示を求めています。TCFD開示企業は、世界のESG資金3,000兆円をより一層取り込むことが期待できるでしょう。

「脱炭素」を可能とするテクノロジーが必要

化石燃料に由来する世界のCO2排出量のうち、「発電」が42%、自動車を中心とした「輸送」が25%を占めており、今後、再エネや電気自動車(EV)の活用が一層進む見通しです(2018年、IEA)。

日本では4月、(1)グリーン電力(洋上風力発電や太陽光発電の低コスト化等など)、(2)エネルギー構造転換(水素の供給網確立や再生可能エネルギー[以下、再エネ]に由来する水素製造、CO2の分離・回収など)、(3)産業構造転換(電気自動車用蓄電池の開発など)の3分野に2兆円基金をあてて技術開発を進める方針が発表されました。

世界的に「脱炭素」への取り組みが加速する中、CO2 の排出削減に繋がる優れた技術を持つ企業への需要が増す見通しです。

気候変動は経済政策、再生可能エネルギー調達へ

「気候変動」対策は「経済政策」でもあります。日本の電力消費からのCO2排出量(434gCO2/kWh)は他国に比べて多く、日本は企業の立地として選ばれにくくなっています。

米アップルが2030年までのカーボンゼロ達成を宣言するなど、環境意識の高い企業は、日本企業を含むサプライヤー企業に対して電力消費量全てを再生可能エネルギーで賄うよう要請しています。再エネを調達できなければ、取引を失いかねなくなってきています。

新設発電所による発電コストが最低となる手段とそのコストを見ると、日本では石炭火力発電のコスト(74㌦/MWh)が国内で最も低いにもかかわらず、他国の最低発電コスト(主に再エネ)を大きく上回っています。

新設発電所において再エネが最安の国は世界の3分の2に増加しており、経済的にも再エネを選択する動きが広がってきています。日本も早急にコスト競争力のある再エネ供給体制の樹立が必要となるでしょう。今後、最大の成長分野といえるでしょう。

SDGsからも注目の東京オリンピック

最後に、G7サミットで開催が支持された「東京オリンピック」は、SDGsの観点からも注目のイベントです。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、経済合理性だけでなく、持続可能性にも配慮した調達を行うために「持続可能性に配慮した調達コード」を策定。木材、農産物、畜産物、水産物、紙、パーム油に個別基準が策定されています。

SDGs目標⑫「持続可能な生産消費形態を確保する」に含まれる、企業・公共部門での持続可能な慣行の導入・促進を含め、社会全般における消費・生産パターンの改革というレガシーに繋がるものとして期待されています。

ロンドン五輪では、調達コードに取り入れられた水産物の調達基準(MSC認証)が学校や病院など公共部門に幅広く普及しました。東京五輪でも、今後、認証基準に即した資材の調達が、国や自治体、公共機関へと波及していくでしょう。

<文:チーフESGストラテジスト 山田雪乃>

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