【F1第8戦無線レビュー(1)】「謝らなくていいよ。来週がある」無念のリタイアも、再起を誓ったラッセル

 2021年F1第8戦シュタイアーマルクGPは、スタート直後からポールポジションのマックス・フェルスタッペンがトップを走り、ルイス・ハミルトンが追う展開となった。後方では10番手からスタートしていたジョージ・ラッセルがウイリアムズでの初入賞を目指して走行していたが、無念のトラブルでリタイアに。シュタイアーマルクGP前半の様子を無線とともに振り返る

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 ルイス・ハミルトン(メルセデス)にコンマ2秒近い大差をつけて、2戦連続のポールポジションを獲得したマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)。しかし簡単にレースで勝てるとは、さすがに思っていない。担当エンジニアのジャンピエロ・ランビアーゼが、フォーメーションラップ中に慎重にコース状況を伝える。

ランビアーゼ:ターン3の風はニュートラルだ

 長い坂を上り切ったところで右に回頭するターン3は、追い風が吹いていたりするとダウンフォースが抜けて簡単にコースオフしてしまう。この時点では、その心配もなさそうだった。

 スタート直後のターン1、3、4はひどい渋滞が続いた。ターン1では、シャルル・ルクレール(フェラーリ)とピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)が接触事故を起こす。

マルコス・パドロス:大丈夫か?
ルクレール:右フロントが……。右のウイングが……
パドロス:わかった。ボックスだ

2021年F1第8戦シュタイアーマルクGP マシンにダメージを受けてピットインしたシャルル・ルクレール(フェラーリ)

ガスリー:何が起きたんだ!
ピエール・アムラン:左リヤだ。とにかくボックスだ
ガスリー:まっすぐ走れない!
アムラン:何があろうと頑張ろう。モード7だ

2021年F1第8戦シュタイアーマルクGP ダメージを負ったピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)の左リヤサスペンション

 上位勢はそのままの順位で1周目を終えたが、2番手ハミルトンは何かが当たったという。

ハミルトン:右フロントタイヤに何か当たった
ピーター・ボニントン:わかった。チェックする。今のところ内圧は大丈夫だ

 すぐ前をいくフェルスタッペンのマシンから、何かパーツが飛んだのか。結局わからずじまいで、ハミルトンも特にダメージはなかったようで、そのまま周回を重ねた。しかしフェルスタッペンとの差は、ジリジリと広がっていく。

ランビアーゼ:ギャップは1秒7だ

 ランド・ノリス(マクラーレン)はセルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)、バルテリ・ボッタス(メルセデス)を抑えて、グリッド順位の3番手をキープしていた

ノリス:そこら中にデブリが散らばってる。内圧を見てくれ
ウィル・ジョゼフ:了解した

2021年F1第8戦シュタイアーマルクGP ランド・ノリス(マクラーレン)

 13番手スタートだったチームメイトのダニエル・リカルドは、スタートで一気に9番手に躍進。すぐ前のジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)追撃にかかる。ところが7周目、角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)、カルロス・サインツ(フェラーリ)ら4台に一気に抜かれ、再び13番手に後退してしまう。

リカルド:パワーが落ちている
トム・スタラード:了解した。すぐにリカバリーできると思う

 リカルドはいくつかの操作で、すぐにペースを取り戻した。しかしDRSトレインにはまって、なかなか順位を上げることができない。

2021年F1第8戦シュタイアーマルクGP ダニエル・リカルド(マクラーレン)

 ラッセルが8番手を快走する。今度こそウイリアムズでの初入賞を果たせるか。背後にはリカルドに代わって、角田が迫る。担当エンジニアのジェームズ・アーウィンが注意を喚起する。

アーウィン:後ろに注意だ。1秒2まで迫られている

 とはいえラッセルのペースはその前をゆくフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)やランス・ストロール(アストンマーティン)と変わらない速さで、11周目以降DRS圏内に入った角田も、なかなか仕掛けられない。

 10周目にはペレスがノリスを抜いて3番手に浮上。次の周に同じようにノリスをかわしてペレスの後を追うボッタスに、リカルド・ムスコーニが攻めすぎないよう指示を出した。

ムスコーニ:ペレスは2秒前で、ギャップは縮まっている。でもタイヤを使いすぎるな

2021年F1第8戦シュタイアーマルクGP ランド・ノリス(マクラーレン)をかわしたバルテリ・ボッタス(メルセデス)

 8番手ラッセルも、アロンソに近づいていた。

アーウィン:アロンソに近づいている。もうすぐDRSだ

 追われる立場のアロンソは、ややペースに苦しんでいる。

カレル・ルース:タイヤの状態はどうだ
アロンソ:ステータス5だ。オーバーがひどくなっている。できればクールダウンしたいんだが

2021年F1第8戦シュタイアーマルクGP フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)の背後にジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)が迫った

 しかしラッセルはすでにDRS圏内に入り、アロンソは必死に逃げざるを得ない。すると18周目前後、ラッセルにこんな指示が飛んだ。

アーウィン:プランBに変更。信頼性の理由からだ。ペースを上げるんだ

 新品ミディアムタイヤでスタートしたラッセルは、少なくとも25周前後まではピットインするつもりはなかったはず。この場合のプランBは、短いスティントを指すのだろう。「信頼性の理由」とだけ言われたラッセルはペースを上げようとしたが、アロンソに詰まったまま周回を重ねるしかない。その間にアロンソは、タイヤの状態が改善したようだ。

アロンソ:ターゲットラップで行くのか? もっと伸ばしてもいいよ
ルース:わかった。まずはターゲットまで行こう

 ラッセルは25周目にピットイン。タイヤ交換はすぐに済んだが、マシン右側にメカニックが張り付いたままだ。ニューマチックバルブを駆動するエアが何らかの理由で漏れ、それを補充していたのだった。

アーウィン:長いピットストップになる。ニュートラルに入れてくれ。オレンジになったら1速だ

 18秒もの滞留を経て、17番手でコース復帰。しかしエア漏れは治らず、次の周に再びピットに向かい、その後36周目にリタイアとなった。

アーウィン:申し訳ない。リタイアだ
ラッセル:謝らなくていいよ。来週があるさ

 またもポイント獲得を逃したラッセルの無念さは想像に余りあるが、本人はあくまで冷静に再起を誓っていた。

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(2)に続く

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