【レースフォーカス】M.マルケス、20番手から手ごたえの7位フィニッシュ。オランダGPは後半戦への布石となるか/MotoGP第9戦

 MotoGP第9戦オランダGPでマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が獲得した7位は、さらなる復調の兆しだったといえるのではないだろうか。レース前には「アッセンは身体的に厳しいサーキットだから、(右腕、右肩への負担が少ないザクセンリンクよりも)苦しむことになるだろう」と言っていたマルケス。けれど、結果は20番グリッドから大いにポジションを上げての7位で、「レース中の自分のパフォーマンスに感動していた。誇らしかったよ」と語る手ごたえのレースだった。
 
 マルケスは予選Q1で転倒を喫し、7列目20番グリッドからのスタートとなった。1周目に12番手に浮上すると、レース後半は6番手のフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)を先頭とする集団のなかで周回を重ね、7位でチェッカーを受けた。
 
 このレースのキーポイントは、大きく分けて二つあった。まず一つ目は、マルケスが金曜日に喫した大転倒と、そこから改善した電子制御だ。マルケスはフリー走行2回目、11コーナーでハイサイドを喫した。マシンから放り出され、路面に叩きつけられてグラベルに転がる、激しいものだった。右足の痛みは翌日まで残ったものの、幸いにも骨折などはなかった。
 
 金曜日セッション後の取材のなかで、マルケスは転倒時、その前の周と同じように走っていたと説明している。

「HRCに、こういうクラッシュがあってはいけない、と強く主張した。このような転倒は、ライダーから自信を奪ってしまうからなんだ。ホンダライダーだけが、ああいうハイサイドを喫している。ポルティマオ(第3戦ポルトガルGP)ではアレックス(・マルケス)、ポル(・エスパルガロ)。そして、ここでは僕が、2020年のヘレス(第2戦スペインGP)と同じようなクラッシュを喫しているんだ」

 実際のところ、この転倒にはトラクションコントロールの問題があったのだという。土曜日にはすぐさま対応策がとられた。現地スタッフと日本の電子制御のテストチームとで電話会議が持たれ、その結果、いくつかのパラメータが正しくないことがわかると、変更が施された。
 
「メンタル面で、これが再び自信を与えてくれたんだ。とてもよくなったよ。迅速な対応だった。バイクはもっとよく走るようになったし、安全だと感じられるようになった」

「特にユーズドタイヤで、うまく走れるようになった。レース序盤は『走りはいいけれど、楽に走れるわけじゃないな』と思っていた。ただ、レース後半にはコーナー出口で改善した。これは、電子制御を変更したからなんだ」

 そして、もう一つのキーポイントとなったのが、新シャシーだ。マルケスのマシンには、オランダGPで新しいシャシーが投入された。ホンダはドイツGPで、新しい空力デバイスを登場させている。シャシーはこれに次ぐ大きなアイテムだった。
 
「アッセンでは、多少なりとも違いがあって機能するアイテムを今年初めて受け取ったんだ。つまり、新しいシャシーだ。僕たちに、特にエンジニアにモチベーションをくれるものだ。今は、何かが見つかったように思う」

 復調の兆しを見せているのはマシンだけではない。マルケスは木曜日の会見のなかで「ムジェロ(第6戦イタリアGP)から、以前と同じようなライディングスタイルで走り始めた」と語っていた。マルケスはこれまで、いまだ万全ではない右腕と右肩の影響で、思うようなライディングポジションをとれないと度々言及していたのだ。
 
 マルケスがいい形でシーズン前半戦を締めくくったのは間違いない。上がった復活ののろしは、後半戦でさらに大きくなるだろうか。
 

■2番手争いを見せた中上、1コーナーでのミスが痛手に

 中上の手から、再び表彰台がこぼれ落ちていった。2021年シーズン、自己ベストグリッドとなる4番手を獲得。決勝レースでは好スタートを切り、3番手に浮上すると、マーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)を抑えて周回を重ねた。さらにレース中盤にはフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)と2番手争いを展開する。

「序盤のパフォーマンスには満足しています。バニャイアをオーバーテイクするのは難しかったです。ストレートではロケットみたいに速かったですからね。彼の前で走り続けることは難しかったです」

 ただ、致命的となったのは16周目1コーナーでのコースアウトだった。大回りになる程度ではあったものの、いくつものポジションを落とすには十分なミスだった。中上は9番手に後退し、その位置のまま9位でレースを終えた。
 
「(コースアウトしたあとは)みんな同じようなラップタイムでしたから、前のライダーをとらえるのは難しかったです。エネルギーも、再び攻めるペースもありませんでした」

 悔しいレースにはなったが、後半戦に前向きな材料はある。「モンメロ(カタルーニャ)テストのあとから、バイクのフィーリングやスピード、モチベーションが少しずつ戻ってきた」のだそうだ。中上自身とともにマシンのポテンシャルの一端を今回のレースで見せることができた、と言えるだろう。
 
 表彰台を争うレース経験は積み重ねた。あとは勝ち取って上るだけだ。

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