ネットに飛び交う「コロナワクチンで流産、不妊」それって本当? 政府側は否定、妊産婦に必要な「確かな情報」はどこに

米東部ペンシルベニア州の薬局で、新型コロナウイルスのワクチン接種を受ける妊婦(ロイター=共同)

 インターネット上では新型コロナワクチンのさまざまなうわさが飛び交っている。中には流産や不妊につながるといった不安をあおる情報もある。6月、ツイッターで首相官邸や厚生労働省が相次いで「海外の調査によれば、接種を受けた人に流産は増えていない」と発信。誤った情報が会員制交流サイト(SNS)やビラなどに記載されている例があるとして注意を呼び掛けた。不妊や妊娠への影響についても河野太郎行政改革担当相が自身のホームページで「不妊が起きるという科学的な根拠は全くありません」と完全否定した。ワクチン接種にあたって妊産婦や妊活中の人に必要な「確かな情報」はいったいどんなものなのか。(共同通信=村川実由紀)

 ▽後悔

 「当時は接種が怖かったが、今は接種していないことが怖い」。妊娠中の医療従事者の女性は今年1月ごろ、新型コロナワクチンを希望するかどうか職場で打診された。勤務先は新型コロナウイルス感染症の患者の受け入れをしており、感染するかもしれないという不安はあったが悩んだ末に断った。接種をきっかけに流産するのではないか、おなかの中の赤ちゃんに悪影響が出るのではないか―と心配になったためだ。自分で学会や当局の情報を検索したが当時は十分な情報が得られなかった。

ワクチン接種

 5月になって、日本産科婦人科学会と日本産婦人科感染症学会から「接種のメリットがリスクを上回ると考えられる。特に人口当たりの感染者数が多い地域では積極的な接種を考慮する」との提言が出て気持ちに変化が生じた。「今後、周囲の気が緩んで感染対策が徹底されなくなるのではないか」。産後に自治体が行っている接種を受けようと考えている。

 ▽異常頻度変わらず

 両学会の提言では胎児の器官が形成される妊娠12週までは、偶発的な胎児異常と区別が付きにくいとの理由で接種を避けるよう求めている。一方、海外では週数に関係なく接種は行われている。

 米国では12万人以上の妊婦が既に接種を受けた。米疾病対策センター(CDC)は流産、早産、先天性異常などの発生頻度はワクチン接種の有無で変わらない、とのデータを4月21日付の米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンで公表した。

米疾病対策センター(CDC)によるデータが掲載された4月21日付の米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン

 3月25日付の米学会誌アメリカン・ジャーナル・オブ・オブステトリクス・アンド・ガイネコロジーには接種を受けた母体や母乳を介して赤ちゃんに抗体が渡される可能性があるとの結果が報告されている。厚労省は産後の子どもを感染から守る効果があることが期待されているとしている。

 ワクチンが不妊につながるとの情報もネット上で流れているが、米産婦人科学会は不妊につながる根拠はないとする。日本の厚労省は、妊娠を計画中の人もワクチンを接種できるとし、接種が生殖器や妊娠に悪影響を及ぼす報告はなく、妊娠のタイミングを変更する必要はないとしている。

米ファイザー製の新型コロナウイルスワクチン

 ▽学会や公的機関の情報を

 日本の2学会と日本産婦人科医会は6月17日、新たなメッセージをホームページ上で発表した。(1)妊娠中に新型コロナウイルスに感染すると、特に後期の感染ではわずかだが重症化しやすいとされている(2)一般に接種することのメリットが、デメリットを上回ると考えられている。特に感染の多い地域やリスクの高い医療従事者ら、糖尿病、高血圧、気管支ぜんそくなどの持病を合併している人は接種の検討を(3)副反応は妊婦と一般の人に差はないが、発熱した場合には早めに解熱剤を服用するように。アセトアミノフェンは問題ないので頭痛の場合も内服を(4)予診票には、妊娠している可能性や授乳中かどうかを問う項目があるので「はい」にチェックし、あらかじめ健診先の医師に接種の相談をしておくように。良いと言われれば、その旨を接種会場の問診医に伝えて(5)妊娠中の人は、里帰りなどで住民票と異なる居住地で受ける場合でも「住所地外接種届」の提出は不要(6)2回目を受けた後も、これまでと同様に感染予防策(適切なマスク使用、手洗い、人混みを避けるなど)は続けて―などと呼び掛けている。

日本産科婦人科学会など3団体によるメッセージ

 このメッセージ作成にも関わった日本大医学部の早川智教授(生殖免疫学)は、国内で使われている米ファイザーやモデルナのワクチンについて、「世界中の知見でお母さんや赤ちゃんに害を及ぼすことはないと考えられているので、安心して接種を受けてほしい」と話している。

 産婦人科医で感染症の研究にも携わってきた早川さんはツイッターなどで新型コロナに関する科学的な情報発信を続けてきた。根拠のない情報の広がりを問題視しており、「学会や政府、地方自治体などの公的機関の情報を参考にして」と助言している。

妊婦のワクチン接種について話す日本大医学部の早川智教授=6月15日、東京都内

 なお、新型コロナワクチンの接種は感染症の発生や流行を抑えるため、接種を受けるよう努めなければならないという予防接種法の努力義務の規定が適用されている。ただ妊婦に関しては、この努力義務は課されていない。努力義務が課されている人についても厚労省は最終的には本人が納得した上で接種を判断してほしいとしている。

ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンの論文はこちら

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2104983

アメリカン・ジャーナル・オブ・オブステトリクス・アンド・ガイネコロジーの論文はこちら

https://www.ajog.org/article/S0002-9378(21)00187-3/fulltext

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