再エネ推進に立ちはだかる鉱物資源の制約|奈良林直 バイデン米大統領が数兆ドルを注ぎ込もうとしているエネルギー転換政策は「それほどクリーンではない」!中国当局によるウイグル人の強制労働が再エネ製品製造に利用されており、これを許して良いのか

国際エネルギー機関(IEA)は5月、地球温暖化対策のため再生可能エネルギーを推進する場合に、風力発電や電気自動車、蓄電池に必要な鉱物資源の量が膨大に増え、環境破壊なども問題になるとの報告書を発表した。これを基に米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが同月11日付で、バイデン米大統領が数兆ドルを注ぎ込もうとしているエネルギー転換政策は「それほどクリーンではない」と批判している。

中国が圧倒的シェア

「クリーンエネルギーへの移行における重要鉱物資源の役割」と題するIEA報告書の概要は次の通りである。

一、風力発電の発電機や電気自動車のモーターには強力な永久磁石が必要で、それにはネオジウムなどのレアース(希土類)が欠かせない。しかし、レアアースの供給量の90%は中国に支配されている。

一、電気自動車にはリチウムイオン電池などの蓄電池が必要である。また、太陽光・風力発電は出力が気象により不規則に変動するので、蓄電池を使って電力を大量に蓄えて安定化する必要がある。蓄電池材料として、リチウム、コバルト、ニッケルが最重要かつ不可欠。特に今後、世界の需要が42倍に急増するリチウムの生産では中国が80%の圧倒的シェアを持つ。同じく21倍必要となるコバルトは採掘分野で中国の影響力が大きいコンゴ民主共和国がシェアの70%を占め、精錬分野でも中国が70%を占める。ニッケルは採掘分野で中国が投資したインドネシアが第1位で35%程度のシェアを占め、精錬分野では中国が35%のシェアで1位である。このように重要鉱物資源において中国の存在感は圧倒的である。

一、鉱物資源の採掘・精錬時に発生する環境汚染が増大する。また、世界的に不足している水資源を精錬過程で大量に必要とし、膨大な労働力確保のためコンゴでは児童雇用などの社会的問題を生んでいる。

ウイグル人強制労働にも関連

国基研では、このIEA報告書に関連して、①鉱物資源を従来の世界生産量の数十倍確保できるのか②再エネを推進すると、使用済み製品の廃棄によっても環境が深刻に汚染される懸念がある③コンゴの児童雇用だけでなく、中国当局によるウイグル人の強制労働が再エネ製品製造に利用されており、これを許して良いのか―といった議論があった。

水資源に関して言えば、我が国の湖周辺の土地が中国資本に買いまくられている。中国は精錬に必要な水を持ち出そうとしている可能性もあり、このままでは日本は、太陽光パネル、風力発電、蓄電池、電気自動車、原発の分野で圧倒的シェアを持つ中国製品の輸入国に陥る。これらの製品はかつて日本が世界一の技術力を誇っていた。

2020年の世界のプラグインハイブリッドを含む電気自動車生産台数で、日本のメーカーは全てベスト10圏外に落ち、中国が急伸している。我が国が競争力を回復するには、安定で低廉な電気が必要である。我が国が鉱物資源の制約と環境汚染を回避するには、何度も言うようだが「原発のリプレース・新増設」が最も効果的だ。(2021.06.21国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

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