深刻な日本のジェンダーギャップ、改善阻む要因とは? 政治、経済、教育に潜む障壁、3人に聞いた

世界経済フォーラムのグローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート2021

 世界経済フォーラムが公表した各国の男女格差を測る「ジェンダー・ギャップ指数」によると、日本は156カ国中120位と著しく低いレベルだ。改善を阻む要因は政治、経済、教育の各分野に潜む。女性が活躍できるための鍵は何なのか。企業トップ、専門家ら3人に聞いた。(共同通信=宮川さおり、城和佳子、岩原奈穂)

 ▽“ボーイズクラブ”に決別を

 資生堂の魚谷雅彦社長は、女性役員比率の向上などに積極的に取り組む。会社組織で男女格差を克服する効果的な方策とは。

 ―社長就任以来、ダイバーシティ(多様性)推進に力を入れてきた。

 「働く人の多様性は大きな強みとなる。これまで日本企業の経営層は、男ばかりの“ボーイズクラブ”だった。似た背景の人が集まると、同じような考えになり、新しいアイデアが生まれにくい。性別や国籍、年齢が違うとものの見方も変わるので、ビジネス上の判断でも、複数の選択肢を並べた上で『ちょっと違うんじゃないか』と言い合える。意思決定層である経営層にはこうした厚みが欲しい」

 ―すでに資生堂では取締役・監査役の女性役員比率が46%だ。

 「当初は役員になった女性が『発言していいですか』といちいち断りを入れることがあった。私は『堂々と言ってください』と。資生堂も男性中心の職場が長く続いてきた。そんな中でフラットに意見を言えるようになってほしい。最初は難しくても、繰り返すうちにできるようになってきた。いい意味で他の女性に伝染し、カルチャーになることを狙っている」

 「トップの役目の一つは、足踏みする女性たちの背中を押してあげること。女性自身が『リーダーには親分肌の男性』という偏見に縛られていることが多い。そういう人に言いたいのは『一緒にやろうよ』といった調整型、周囲をうまく巻き込むタイプのリーダーシップもあるということ。たけている女性は大勢いる」

資生堂の魚谷雅彦社長

 ―背景が異なると、コミュニケーションに労力や時間がかかるのでは。

 「いろんな人がいろんなことを言うことになるので、まとめるのには時間がかかる。海外との会議は、みんなよく発言するので、3時間以上に及ぶこともあるけれど、あうんの呼吸で終わる会議は危ない」

 「最後はリーダーが信頼していることを見せて『任せたよ』と言ってあげることが大切だ。そうすることで優秀な人材が国内外から来てくれるようになった」

 ―コロナ禍で「多様性」は力を発揮したか。

 「化粧品が減産となった工場をはじめ、現場から『消毒液を作ろう』『消毒で手が荒れる女性のためにハンドクリームはどうか』と案があがり、短期間で事業化した。経営層だけやボーイズクラブでは浮かばない発想だった」

 ―政府の男女共同参画会議メンバーになった。

 「初会合では、人口が減る中、企業が生き延びるには海外に市場を求める必要があり、女性を含む人材の多様化は欠かせないという話をした。企業のトップ同士で話すと、それぞれ危機感を持って何とかしようとしていることが分かる。『経済分野では私たちがしっかりやっていく』と伝えていきたい」

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 うおたに・まさひこ 1954年生まれ。現ライオン入社後、米国留学。日本コカ・コーラ会長を経て2014年から現職。

 ▽教育格差こそ問題

 日本の男女格差で、佐藤文香・一橋大大学院教授は、問題の根幹は教育分野にあると指摘する。

 ―日本の格差の問題はどこにあるのか。

 「昨年の121位から1ランク上昇したが、政治、経済、教育、健康の4分野の評価内容は改善していない。特に政治、経済の遅れが言われるが、教育こそが問題だと強調したい。高等教育の男女格差の背景をもっと分析する必要がある」

 ―大学進学率には地域差もある。

 「私が教えている大学でも、地方出身の女子学生から『弟は浪人していいが私は現役でと親に言われた』『なぜ東京に行くのか。地元の大学でいいじゃないかと先生に言われた』という話を、今も頻繁に聞く。女性活躍が進まない理由として『女性自身がやる気にならない』という指摘があるが、何が意欲を冷却しているのか考えなければならない。教育現場での男女格差は、政治や経済での女性進出が進まない悪循環の出発点になっており、丁寧に解消する必要がある」

佐藤文香・一橋大大学院教授

 ―政治、経済での改善の鍵は。

 「女性閣僚の増加は即効性がある。現に米国が順位を上げたのは、バイデン政権が女性閣僚を増やしたことが奏功した。日本は閣僚の総数が決まっているので、女性議員の絶対数を増やし、裾野を広げる必要がある。男女の数を決めるクオータ制(人数割当制)を導入したり、政党交付金を活用して候補者男女均等法に実効性を持たせたりすることも求められる」

 「企業での女性役員については投資家を巻き込むのが有効だ。投資家から見て、女性役員の増加は企業の柔軟さを示す。硬直的な組織は新しいものを生み出せない。柔軟であろうとする姿勢や人権理念に共感し、支援したいという投資意欲につながるはずだ」

 ―そもそも、なぜ増やす必要があるのか。

 「一つ目の理由は、数の論理による基礎的な答えだ。世界の半分は女性だから、意思決定に女性が関与しなければ物の見方が偏る。例えば、被災地を支援する側に女性がいないと生理用品が準備されず、授乳スペースも設置されない。意思決定の場に女性がいないと、社会課題を捉える時に見落としが生じる。二つ目は人権論的な観点から。平等が望ましく、当たり前という考え方だ。三つ目は経済的な効率の観点。格差解消でGDPが13%増えるとの民間調査がある。経営層の多様性が豊かな発想や開発力を生み、企業を強くするからだ。米シンクタンクの調査でも、女性役員比率と利益上昇には相関関係があった」

 ―格差指数を読み解く上での注意点は。

 「この指数は、社会がどれだけ男性優位かという観点を評価するために使う視標だということを考慮する必要がある。例えば総合7位のルワンダ。内戦の厳しい経験を経て、国会議員の女性割合を憲法で3割と決め、世界で最も高比率の国となった。しかし、女性議員がイメージ戦略に使われ、政権批判をしない女性が登用される側面がある。こうした実情は指数に反映されていない」

 「フィリピンも総合17位でアジアトップだ。しかし、世襲制が強く貧富の格差が大きいため、女性の議員や経営層は2世が多い。固定化した格差を乗り越えたわけではないので、貧困女性の代弁はしきれない。指数には、性暴力もハラスメントも入っていない。反映されていない見落とされている女性たちのことも考えなければならない」

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 さとう・ふみか 72年生まれ。一橋大大学院准教授を経て15年より現職。専門はジェンダー研究。著書に「ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた―あなたがあなたらしくいられるための29問」など。

 ▽女性の政治参加を阻むものとは?

 女性の政治参画の大きな壁として、申琪栄・お茶の水女子大教授はハラスメント(嫌がらせ)の問題を挙げる。

 ―都道府県や市区町村議会の女性議員のうち、セクハラやSNSによる中傷といった何らかのハラスメントを受けた人が57・6%いることが内閣府の調査で分かった。男性議員の約1・8倍だ。

 「これまで政治分野でのハラスメントの実態は見えにくかった。議員自身が『普通にあること』と思っていた面もあり、広く問題提起されたのは意義がある」

 「特に地方議員はコミュニティーの問題を解決する、市民の身近な存在。議員も距離を縮めようとする。公的なアイドルのような存在と見られて、被害に遭いやすい。同僚の男性議員からの被害もある。市民の代表がしっかり働くためには安全が必要。相談窓口設置や、第三者機関の調停など一般企業で取り組んでいることから、議会や政党も着手するべきだ」

申琪栄・お茶の水女子大教授

 ―「性別による差別やセクハラを受けた」と答えた割合は「立候補から選挙中」では24・9%、「議員活動中」では34・8%。男性と比べ格段に割合が高い。

 「女性というだけで被害を受けていることが分かる。議員になってからの方が高いのも特徴的だ。一番つらい状況に置かれているのは1期目の女性議員だろう。2期目に向けネットワークを作る中、支援者から『応援するから言うことを聞け』と言われる例は多い」

 ―有効な取り組みとして、女性議員の多くが「議会・政党の要職への女性登用」を挙げている。

 「今回の調査でも、女性議員は『出産・子育て・少子化対策』に力を入れる割合が男性より高かった。男女で関心のある政策分野が違う傾向がある。政策を実現させようにも同じ考えを持つ仲間が増えないと難しい。力のあるポストに就き、議員数も増えることが改善につながると実感していることの表れだろう」

 ―地方議会の問題が日本全体に及ぼす影響は。

 「身近な地方議会の活動でキャリアを積んで地元のことを理解し、信頼を得た女性が国政に挑戦するという道が作られることが、有権者の立場からも望ましい。地方の段階から壁が高く、議員になれてもハラスメントで再選を諦めるとなると、好循環は生まれない。国政選挙のたびに政党が『女性候補がいない』と言い訳を続けることになる。多くの人材を養成し、裾野を広げるという点でも地方議会の役割は大きい」

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 しん・きよん 69年生まれ。専門は政治学。米ワシントン大で博士号取得。女性の政治リーダーを養成する一般社団法人「パリテ・アカデミー」共同代表。

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