大豆ミート商品続々、背景には「脱ミート」植物肉は社会を変える?

世界的な潮流になっている「脱ミート」。その流れを受けて代替肉として注目されているのが、大豆ミートです。国内でも食肉加工メーカー、スーパー大手をはじめ、ファストフードなどでも大豆を代替肉として商品化する企業が増えています。

なぜ、多くの企業がこぞって商品化を進めているのでしょうか。

実は、大豆ミートをはじめとする植物肉には環境問題や社会問題解決の糸口となる可能性が秘められているのです。代替肉の研究開発動向に詳しい釧路公立大学の川島啓准教授に話を聞きました。


じわじわ増える大豆ミート製品、背景には「脱ミート」

大豆ミートを知っていますか? その名の通り、大豆からできた植物由来の代替肉のことです。この大豆ミートを使った商品が次々と発売になっています。

日本ハム、伊藤ハムといった食肉加工大手をはじめ、モスバーガーやフレッシュネスバーガーなどのファストフード、セブン&アイやイオンなどのスーパー大手でも大豆を使用した植物肉を相次ぎ商品化しています。

植物肉の原料は大豆に限りません。小麦、ソラマメ、エンドウマメなどが使われることもありますが、製品の多くを占めるのは大豆です。その理由について「大豆が高タンパクかつ安価であり、多様な形態で利用できるから」だと川島先生は話します。

今までよりも身近な存在になってきている植物肉。その背景にあるのは、欧米を中心に世界的に広がっている「脱ミート」の動きです。

これまで植物肉を好んで手にするのは、動物性タンパク質を一切摂取しないヴィーガンをはじめとした菜食主義者が中心でした。ですが、健康志向や動物愛護、環境問題への関心の高まりによって、購入者の裾野が広がってきているといいます。

代替肉は「社会問題解決のソリューション」になる?

「豚肉がグラム100円というような信じられないほど安い値段で売られている状況の裏には犠牲になっていることが山程あるのです」と川島先生。

肉類の大量生産・大量消費は地球温暖化を助長します。大量の水や飼料が必要になる畜産。その飼料となる穀物の栽培や運搬にはCO2排出が伴い、家畜のゲップや排泄物には温室効果が二酸化炭素の25倍といわれるメタンガスが含まれているのです。また排泄物による水質汚染も問題になっています。「家畜は育成段階で多くのエネルギーを投入するため、植物を直接摂取するよりもはるかに環境負荷が大きいのです」。

また、生産される畜産物の量の何倍もの飼料穀物を必要とする家畜を増やすことは、穀物を安価でしか買えない人たちから食料を奪うことになり、人口増加に伴う食料需給の逼迫を促進することになるといいます。

「いま飢餓人口が一番多いのがアジアです。自然条件ではなく、都市部のスラム街で経済格差によって飢餓に陥っているのです。そういった人たちが排除されてしまわないように、植物肉開発はそうした状況を解消するねらいもあります」

成長途中の市場、海外企業参入で植物肉は安くなる?

欧米の植物肉は、大豆からタンパク質を抽出し成型加工して、科学的なアプローチでお肉を再現しているといいます。「テクスチャ、歯ごたえ、製造過程も日本とは異なります。おいしさもさることながら、食後の胃もたれ感もありません。お肉を超えるお肉を作ろうとしているのです」。一方、国内の大豆ミート商品については改善の余地が多大にあるといいます。

ただ、どちらの代替肉市場もまだ成長途中で、新たな消費者層を取り込みながらこれからさらに拡大していくといわれています。

「安く供給することが求められる畜産業はこれから厳しくなるでしょう。動物の本性に従って生きる権利を尊重するアニマルライツや、ストレスの少ない環境で家畜を飼育しようというアニマルウェルフェアが重要視されると従来の畜産業は成り立たなくなり、これまでみたいに安く供給できなくなります。そうなると、原料の安い植物肉の方が安く買えるようになりますし、国内外問わず多くの企業が参入し競争が激しくなれば、今後価格も下がっていくと予想されます」


健康はもちろん、環境問題、動物愛護、飢餓といった社会問題解決のためのソリューションとしても注目されている植物肉。「いずれにしてもお肉をなくそうというような過激なことを言っているわけではありません。こうしたソリューションが普及することによって、世の中が良くなることを目指しているのです」。

マーケティングリサーチ会社のクロス・マーケティングが実施した「代替肉・代替たんぱく質に関する調査」によると、約8割が「喫食経験なし」と答えたものの、「喫食経験あり」と回答した人を含めた全体のおよそ5割が「喫食意向あり」と回答しています。

植物肉が店頭に並ぶことは、消費者にとって選択肢がひとつ増えるということ。その選択の積み重ねが、環境負荷を減らしたり、社会貢献につながっていくと考えると消費者側の意識も変わってくるのではないでしょうか。

※調査対象:全国の20〜69歳の男女
※有効回答数:本調査1,100サンプル

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