『太れば世界が終わると思った』韓国人女性による17年におよぶ摂食障害の記録、発売!

17年におよぶ摂食障害と向き合い、 自分の心を見つめ直した韓国人女性の記録『太れば世界が終わると思った』が発売となった。摂食障害は、 外見が人の価値を評価する基準になってしまった社会が生んだ疾病ではないだろうか。彼女は何を間違えたのか、 なぜ間違えたのか、 どうやってそのトンネルから抜け出したのか。

鏡のなかのわたしとの戦争

遠足のときに撮った写真を現像するためにフィルムを写真館に預けた。 数日待って写真を手にして衝撃を受けた。 写真のなかのわたしは鏡のなかのわたしの姿ではなかった。 写真にはわたしの知らないぶさいくで丸々とした女の子がいた。 丸々とした体にかかる白いスカートとルーズソックスがとにかく恥ずかしかった。 (中略)超節食でダイエットに成功してから、 デジタルカメラを買った。 どこに行くにもデジタルカメラと一緒だった。 展示会やカフェに行くときも、 実際は写真を撮るのが目的だった。 写真のなかの自分が好きになった。 自分の写真を見てると時間が過ぎるのも忘れた。 何十枚のなかから一枚を選んでSNSにあげると、 フォロワーの反応を待った。 自撮り写真もきれいだし、 ひとりで遠くをじっと見つめている写真も気に入っていた。 問題は誰かと一緒に撮った写真で発生した。 わたしがきれいなのはひとりで撮った写真限定だった。 大学の同期の横に座ってレンズを見つめているのは、 わたしの知っているわたしではなかった。 相変わらずぶさいくなわたしが同期の横でぎこちない笑みを浮かべていた。 自然に他人との見た目を比較するようになった。 わたしはまた写真を撮るのをやめた。 写真のなかで誰かの横にいるわたしと対面する自信がなかった。 もう一度鏡を見た。 幼いころに映画で見た鏡のお化けはもういなかったけれど、 代わりにほかのものがあった。 わたしが決めた美の基準だ。 それはわたしが鏡を見るたびにわたしの横に並んで立ち、 わたしのことをせせら笑った。 「でぶ」「その尻はなんなの」「二の腕の肉はどうするわけ?」「ぶさいく」。 基準はその時ごとに変わった。 「頰がちょっと丸くなったよね?」「腰にちょっと肉がついたんじゃない?」「なんでまたそんなに食べるの?」「鼻がもうちょっと高いといいんじゃない?」「最近は目じりをいじるのが流行りよ」。 戦争がはじまった。 鏡のなかのわたしとの戦争。 終わりなき戦争。

目次

第一章 過食症を患う 虫になる/わたしはもともと、 あばらちゃんだったんだから/ダイエットをやめられなかった/はじめての嘔吐/食欲という怪物/悪循環のループ/過食型拒食症/精神科での治療開始 第二章 摂食障害とともにやってくるもの 内向的であり、 外省的/生まれつきの敏感さ/統制される生活/自己管理強迫/秩序への執着/痩せた体、 もっと痩せた体/うつ病の洞窟のなかで/潔癖症のせいで/もう少しましな自分になりたかっただけ 第三章 美しい体って誰が決めるの 鏡のなかのわたし、 写真のなかのわたし/オルセン姉妹とニコール・リッチー/映画やドラマのなかの摂食障害/摂食障害をラッピングするメディア/ヴィーナスとコルセット/「めちゃ痩せ」しなきゃ 第四章 わたしのなかで育つ恨みと痛み 母の最善/父の権威/わたしをダメにしてしまう/そんなに痛くない指/外見コンプレックスに陥る/生きてみたらわかってくること/家族になるための距離 第五章 両極端を経験して、 自分なりのバランスを見つける 精神科治療の中断/わたしの話に耳を傾けてくれる人/シドニーに発つ/愚かな関係/失敗の記録/諦めて自由になる/しっかりとしていく生活/悪循環ではないが好循環でもない/新しい世界

キム・アンジェラ :

1985年生まれ。 徳成女子大学で衣装デザインを専攻し、 オーストラリアへの留学を経験。 雑誌『Esquire(エスクァイア)』の特集記事や『Woman Sense(ウーマンセンス)』の編集に携わった。 一定の審査をクリアした書き手だけが投稿できるサイト「brunch(ブランチ)」に「ルンジ」というペンネームで参加している。 17年間、 過食症を患う。

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