エンタメ表現の自由を政策で選ぶなら党派ではなく個人で【都議選2021 候補者アンケート結果つき】

■ はじめに

エンターテイメント表現の自由の会(AFEE)代表の坂井崇俊と申します。現在、東京都議会議員選挙のまっただ中だが、そんな中で我々が注目している政策の一つがマンガやアニメ・ゲームなどのエンターテイメントに関わる表現の自由についてだ。

このエンタメ表現の自由は前回2019年の参院選山田太郎さん(自民・全国比例)が、特定の支持母体を持たない中で特定枠を除く46人当選の中で3位、54万票という結果を収めて以降注目されるようになりました。(一般的に全国比例で当選するためには政党により違うが10万票前後必要とされている)

今回、選挙ドットコムの協力を得て、東京都議選候補者アンケートの中に表現の自由に関わる設問を二つ入れて頂いた。本日はその結果について分析・解説をしていきたいと思います。(末尾に全候補者のアンケート結果のダウンロードできるリンクあり)

○設問(1) 東京都青少年健全育成条例の不健全図書指定による規制についてどう思いますかA.規制をなくすべき
B.規制を弱めるべき
C.どちらともいえない
D.どちらかといえば規制を強めるべき
E.規制を強めるべき

○設問(2) 過激なものも含めたマンガ・アニメ・ゲームの表現についてどう思いますかA.民間の自主規制が十分機能している
B.民間の自主規制があるていど機能している
C.どちらともいえない
D.どちらかといえば法令による規制が必要である
E.法令による規制が必要である

■ 東京都の不健全図書の問題の各候補者の反応は

まず、設問(1)の不健全図書指定についてだが、長野県を除く46都道府県の青少年健全育成条例では不健全図書(有害図書)指定制度と呼ばれる制度があり、指定された書籍は青少年への販売等が禁止されている。誤解のないように補足すると、出版社が自主的にR18として指定した書籍は条例に関わらず、自主規制により18歳未満に販売されることはない。

東京都に限って言えば、

  • 真に青少年の健全育成を実現するのであれば、もっと他にするべきことがあるのではないか
    (不健全図書指定をすることが、本当に青少年のためになっているのか)
  • 審議会の議事録では行政職員を除く委員の氏名が公開されず、実審議の箇所も会議は非公開

など、様々な制度上の問題点が指摘されている。一方で、青少年に見せられない本が書店の誰でも見ることができるところにあり、青少年の健全育成のために良くないという声も存在する。

今回は6月29日現在で回答のあった147名の候補者のデータを分析してみる。党派別では回答数が5以上あった党派(都民・自民・共産・公明・立憲・維新)をグラフに掲載し、それ以外の現有議席をもつ会派・国政政党については、可能な限り本文内で触れていく形にしている。(設問1・2共通)

【設問(1)の党派別回答数(実数)】

まず、概論として規制を弱める方向の意見(A/B)が44.2%で、強める方向性の意見(D/E)が4.1%、残りが「C.どちらともいえない」という回答であった。都議会の新勢力が必ずしもこの比率と同じになるわけではないが、全体としては現状維持~規制を弱めるべきと考えている候補者が多いと言える。

党派別に見ると都民・自民は規制について両極端な意見が出ている。エンタメ表現の自由が注目されるようになったのは近年であり、政党として固まった意見が定まっていないことが推察される。また、従来の保守・リベラルという考え方や大きな政府・小さな政府という考え方とも馴染みづらいのがこのエンタメ表現の自由についての論点になるではないだろうか。

過去には、表現の自由は比較的リベラルの政策という風潮があった時代もあった。しかし、リベラルの考え方が進行するが故に差別的な発言を許容できないといった表現の自由との衝突も生じている。愛知トリエンナーレの問題やヘイトスピーチの問題など、表現の自由については保守・リベラルに関係なく様々な意見がある状況だと認識している。

分析に戻ると、維新は圧倒的に「A.規制をなくすべき」との回答率も高いが「E.規制を強めるべき」という意見も一人おり、先に紹介した都民・自民と比べても政策的にはエッジが立っていると言える。共産・立憲はいずれも「B.規制を弱めるべき」が大多数であり、この問題についての党内でのコンセンサスは得られやすい状況にあるのではないだろうか。

公明党は全員が「どちらともいえない」を選んでおり、理由を見るとほとんどの方が現行の東京都の制度を肯定的に評価しており、概ね現状維持と言えるのではないだろうか。他、ネットは3名全員が「C.どちらともいえない」とした一方、れいわ(C2名、E1名)と国民(A1名、C1名)はそれぞれで意見が割れた。

具体的には、「青少年の健全育成はネットリテラシーの向上や性教育の充実により図られるべき」という意見が複数(自民・大田区、立憲・杉並区、都民・港区/練馬区/町田市、維新・北区/練馬区)寄せられた他、「暴力や性犯罪などを助長させる描写したものに関して規制が必要(都民・大田区)」などの声があった

このように一部の党では候補者による考え方の偏りがあり、必ずしもXX党は表現規制に対する態度は△△だと決めつけるのが難しい状況であり、もし、エンタメ表現の自由を重視して今回の投票に臨むのであれば、党派ではなく、今回の選挙ドットコムでの回答やその理由などを見ることで、判断出来るのではないだろうか。

 

■ 広い意味でのマンガ・アニメ・ゲームと立法や行政による規制をどう考える

前問の(1)は東京都特有の不健全図書指定制度についての設問であり、次に(2)は、広い意味でのマンガ・アニメ・ゲームの表現についての態度を問うた。

現在、マンガ・アニメ・ゲームなどを法律で規制しているものは刑法175条(わいせつ物頒布等罪)など一部に限られている。条例としても、青少年健全育成条例や香川県で施行されたネット・ゲーム依存症対策条例など限定的だ。客観的に見ると世界的にも日本は自由な表現が認められており、それが世界に通じる豊かなコンテンツが生み出されている要因とみる意見も多くある。

しかしながら逆に、マンガ・アニメ・ゲームが犯罪や自殺を誘引しているという論もあり、民間の自主規制だけではなく、立法や行政による規制をさらに必要という意見も根強い。今回の設問はその観点での設問となり、過去にあった児童ポルノ禁止法による実在しない児童の創作物を巡る論議などがこの設問の背景にある。

【設問(2)の党派別回答数(実数)】

こちらも設問(1)の傾向と似ているが、現在の民間の自主規制を評価する声が51.7%、法令による規制を求める声が4.1%であり、ほとんどの候補者が現状以上のマンガ・アニメ・ゲーム規制を望んでいないという結論となった。

党派別では、(1)と同様、党内で意見が割れる政党もあった。都民は7割以上が民間の自主規制を評価する一方、法令による規制を主張する候補者が存在している。維新はその傾向がさらに顕著で、ほとんどの候補者が「A.民間の自主規制が十分機能している」と評価しているが、法令による規制を主張する候補も存在した。自民は「C.どちらともいえない」が主流の意見だが、数名ずつではあるが、規制と反規制と両端の意見が見られた。

共産と公明・立憲については、法令による規制を主張する声はなく、比較すると立憲がもっともその傾向が強く、共産、公明の順となった。公明については、比較的多くの候補者が「少年が子どもの首を切り落とす凶悪犯罪や幼児への性犯罪等の描写は、『命や性に対するモラル』を希薄化させ、イジメや性犯罪の要因となることが懸念されています」と回答しており、規制については若干の含みを持たせた形だ。

その他、国民とネットは全てが「C.とちらともいえない」となった一方、れいわは逆にB・C・Eと評価が割れる形になった。

具体的な意見としては「青少年が性的自己決定能力や情報を正しく活用する能力を身につけることができるよう(共産のほとんど)」「行政が行うことは強権となることを留意しなければならない」(立憲・中野区)などの他、民間の自主規制を尊重すべきと言う意見が目立った。なお、設問(1)(2)を通じ、DまたはEを選んだ議員は他の設問でもDまたはEを選んでおり、この点、政策の一貫性は評価される。

 

■ 最後に

エンターテイメント表現の自由を巡る政策論議は、近年、夫婦別姓やLGBTQ、動物愛護などのテーマと併せて急速に論点化してきた問題だ。一部を除き、今まで候補者はマイナーなイシューの一つとして捉えていたが、近年においては、過去からの態度が問われるケースが増えているという感覚だ。是非とも政治家の方にもこの問題については、アンテナを張り巡らせ、意見を発信すると共に、有権者も政治家に対して積極的な意思表明の働きかけを期待する。

候補者のアンケート結果(147名)】 ←googleスプレッドシートのリンクが開きます

(設問・集計協力:エンターテイメント表現の自由の会)

※党派名は以下の省略形を用いた
都民ファーストの会(都民)、自由民主党(自民)、公明党(公明)、日本共産党(共産)、立憲民主党(立憲)、日本維新の会(維新)、都議会・生活者ネットワーク(ネット)、国民民主党(国民)、れいわ新選組(れいわ)、嵐の党(あらし)

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AFEEでは、今回の都議選に併せ、「#表現の自由を守るための約束」に賛同している候補者を掲載した特設ページを開設中です。各候補者の動画やコメント、各政党の是非とも投票の参考にして頂ければと思います。
https://togisen2021.afee.jp/

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また、都議選の投開票日の翌週日曜日に、大阪府「有害図書」制度の勉強会をうぐいすリボン主催、AFEE共催で実施します。この制度にご興味のある方は是非ご覧下さい。

演題:大阪府「有害図書」制度の勉強会
日時:2021年7月11日(日) 13時から
講師:海老澤侑さん(刑法学者/中央大学 兼任講師)
主催:うぐいすリボン
共催:AFEE
https://www.jfsribbon.org/2021/05/blog-post.html
ZoomのURLは上記リンクからご確認下さい。

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