目指すは「リビングルームのような美術館」。新しくなった滋賀県立美術館で、2つの展覧会が開催中

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1984年に開館し、日本画家の小倉遊亀や染織家の志村ふくみの作品をはじめ、マーク・ロスコなどのアメリカ美術、2016年からは澤田真一などのアール・ブリュットもコレクションしてきた滋賀県立近代美術館。「近代」にとらわれない、より幅広いジャンルの美術品を収蔵、展示していこうという意向から「滋賀県立美術館」と名前を変えて、2021年6月27日にリニューアルオープンした。

エントランスで出迎えてくれるのは、アーティスト野田幸江が営む滋賀県甲賀の花屋「ハナノエン」による生け込み
美術館の外観。ロゴデザインはUMA / design farm

新館長に就任したのは保坂健二朗。美術館が公園の中に位置することを踏まえて、ファミリーでも気軽に訪れることができる「リビングルームのような美術館」にしたいと話す。「美術作品を見にくることを目的としていない人にも、公園を通り抜けた先に美術があるというように、親しんでもらえたらと思います」(保坂)。

リニューアルの目玉の一つが、エントランスロビーまわりの再構築。憩いの場としてソファやテーブルが設置され、ショップやカフェも併設された

その理想を体現すべく、エントランスロビーまわりは「ウェルカムゾーン」と位置付けられ、再構築された。デザインは大阪を拠点とするクリエイティブユニット「graf」、グラフィックやサインは原田祐馬が率いる「UMA / design farm」が担当。丸みを帯びたソファや、空間を優しく照らす「NEW LIGHT POTTERY」の照明が、くつろぎの空間を演出。「NOTA &design」特注のサイドテーブル、レンガタイルなどには、県産品である信楽焼が用いられている。

カウンターのレンガタイルも信楽焼
新しく設置されたソファと「NOTA & design」特注のサイドテーブル

カフェ&ショップ「Kolmio in the museum」もオープン。エントランスロビーでは飲食も許可されており、カフェのフードはもちろん、持ち込みのお弁当を食べることも可能。

2階にはキッズスペース、ファミリールームも新設。展示室で子供が泣いたとしても決して外に追い出すことはせず、大声でなければおしゃべりもOKという、おおらかな運用側の姿勢は、この地ならではの美術館の在り方を象徴しているようだ。

2階に新設されたキッズスペース

リニューアルオープンを飾るのは、コレクション展「ひらけ!温故知新 – 重要文化財・桑実寺縁起絵巻を手がかりに –」と、企画展「Soft Territory かかわりのあわい」の2つの展覧会。

重要文化財である《桑実寺縁起絵巻》をはじめ、地域の文化財や美術館のコレクションをもとに構成された「ひらけ!温故知新」から見ていこう。

展示は、室町時代末期、室町幕府第12代将軍・足利義晴の依頼で制作された《桑実寺縁起絵巻》から始まる。一般的にはあまり知られていないことだが、滋賀県には絵巻の名品が多く残っており、なかでも代表的なものが、近江八幡市・桑實寺が所蔵する《桑実寺縁起絵巻》である。当時、義晴はこの寺に仮幕府を開いており、寺の由来や近江の土地の素晴らしさを伝える内容となっている。後奈良天皇が巻頭の詞を執筆し、宮廷の絵所預として活躍した絵師・土佐光茂が絵を担当するなど、当時の位の高い人々が制作に携わったこと、今も鮮やかに残る絵の具の上質さから、いかに力を入れて制作されたかがわかるだろう。

《桑実寺縁起絵巻》の一部

絵巻を起点に、展示は「1. パノラマの視点」「2. ストーリーを描く」「3. 祈りの情景」と展開していく。

現在は埋め立てられてしまった内湖の風景をパノラマ状に描いた、池田遥邨《湖畔残春》は現在失われてしまった琵琶湖周辺の様子を伝える大作だ。また、近江昔話に出てくるシーンを描いた三橋節子《田鶴来》など、滋賀ゆかりの物語が知れる作品も展示。また、リニューアル前から美術館に常設されていた小倉遊亀のコーナーは、あらゆるものには仏性が宿っていると考えた小倉の祈りの精神がより伝わる内容に刷新されていた。

担当学芸員の大原由佳子は、本展についてこう語る。「見て欲しいものが多く、欲張って、作品をたくさん展示しました。小さな空間だけれども、充実した展示内容になっていると思います」。

小倉遊亀の展示コーナー。静物画は「三尊仏」を思わせる三面で展示されている
池田遥邨《湖畔残春》大正9年(1920)

企画展「Soft Territory かかわりのあわい」は、休館中に滋賀県内各所で活動していた「アートスポットプロジェクト」をベースとしており、滋賀にゆかりのある12名の若手作家の作品が展示された。

コロナ禍で大きな変化にさらされている人と人との関わり、「コミュニケーション」をテーマとしたという本展。担当学芸員の荒井保洋はこう語る。

「美術館は今まで、来てくれた人に展示を見てもらうという“待ち”の姿勢だった。アートスポットプロジェクトはそれとは違い、いろんなところに出かけていって、展覧会をやるという試み。その刺激を受けて、 “コミュニケーション” を見つめ直してみようという、展示の構想が生まれました」。

30〜40代の作家が、一から制作した新作だけで構成した本展。「滋賀県立近代美術館」開館以来、初の試みとなり、苦労も多くあったようだが「担当学芸員として、自信をもって勧められる作品ばかり」と荒井。

広大なスペースに展開された井上唯のインスタレーション。漁網のなかを通ることも可能
井上裕加里は日本と韓国の教室で行った「グルーピング」の様子を映像作品に
コロナ禍において、出産・育児を経験した河野愛。自分の中から生まれた他者を、貝の中から生まれる真珠と重ね合わせて、美しい写真作品に仕上げた
展示はステンドグラス技法を使って制作する度會保浩の作品から始まる

今を生きる作家が、現在進行形で経験しているテーマを取り上げた「Soft Territory かかわりのあわい」。展覧会に出展されている作品はすべて撮影可能だ。「新たな美術館の関わり方の一つの形として受け取ってもらいたい」と荒井。

プレス説明会にて、左から保坂健二朗、荒井保洋、大原由佳子

美術館のオープンに合わせて、新たに「文化ゾーン(県立図書館・美術館前)」のバス停が新設され、路線バスのアクセスも便利になった。五感に心地よい美術体験を通して、滋賀の新たな魅力が発見できる美術館に、訪れてみてはいかがだろうか。