スポーツメディアの容姿報道に疑問 「結局、実力主義ではない」【性的画像問題】

 昨年8月、陸上の日本代表経験もある複数の現役女子選手が声を上げたことで浮き彫りになった、性的な画像拡散の問題。インターネットやスマートフォンの急激な普及に伴って、この10年で被害は深刻化したが、数十年も前から週刊誌などのメディアが同様の意図で画像を使ってきた背景がある。一般の利用者だけではなく、メディアの在り方も問われている。(共同通信=品川絵里)

2010年10月、体操の世界選手権女子個人総合でエレガンス賞を受賞し、声援に応える田中理恵さん=ロッテルダム(共同)

 2012年ロンドン五輪体操女子代表の田中理恵さんは、競技中に撮影された写真が「週刊誌の袋とじになっていた」と昨年の共同通信のインタビューで明かした。2000年シドニー五輪水泳女子400メートルメドレーリレーで銅メダリストの田中雅美さんは「コンビニとかで手に取って、表紙に名前がちらっと載っていて何だろうと。2度か3度かあった」と語った。

インタビューに答える、シドニー五輪競泳銅メダリストの田中雅美さん

 真剣に競技に励む姿をそのように切り取る姿勢は、女性が男性よりも下に見られてきた社会に起因するのではないか。立教大応援団の部員は、新聞やテレビが、男女で異なる報じ方をする姿勢に疑問を投げ掛ける。「プライドを持っているアスリートなのに、親しみやすい名前をつけたり、1位になった選手を取り上げるのではなくて、見た目のかわいい選手を優先的に取り上げていたり。アスリートへの軽視、性の消費対象として見ているところが多い。日本社会は女性アスリート軽視が激しいと思う」

 高校野球を特集する雑誌では、表紙に高校生のチアリーダーが選ばれる。夏の甲子園で踊った経験がある立教大の部員は、その雑誌を毎年購入するたび、人選に「特徴がある」と感じていたという。

 「『こういう子』を選んでいるというのが分かりやすい。メディアによって、理想のチアリーダー像が作り上げられている。私の観点から見て(取り上げられるチアリーダーには)共通する部分があるし、そういった理想像が作り上げられてしまっている。結局、実力主義ではない」

 ジェンダーギャップ指数が156カ国中、120位と下位に沈む日本。女子受験者を不利に扱った医大の不正入試問題など明確な差別に限らず、自らの女性蔑視発言に批判が集まったことで辞任した東京五輪・パラリンピック組織委員会前会長の森喜朗元首相の例まで、程度の差こそあれ、至るところに不平等が漂うのが現状だ。スポーツとジェンダー問題を研究する関西大の井谷聡子准教授は、社会全体の男女不平等を原因とする性的撮影の問題を指摘した。

 ―性的画像問題をどう見ているか。

 突然起こったことではない。女性選手が性的な対象として扱われること自体は、近代スポーツの中に女性が登場してくる歴史と同じくらい長い。それは、スポーツ界自体が長く男社会であったことと深く関係している。SNSやインターネットの世界が広がり、携帯・スマートフォンで撮影が簡単になっていく中で問題がひどくなった。

 ―スポーツ界が男社会というのも問題の一つ。

 商業化されてきたスポーツ界では、マーケティングが中心課題だ。そのマーケティングを考えている人が男性中心で、スポーツメディア自体のオーディエンスに女性が想定されていないという問題もある。『男性目線から見て、どうやって男性のオーディエンスに受ける形で女子スポーツを提供するか』と考えた時に、かわいい選手を優先したり、性的な魅力を強調したりということをやってきた。メディアだけではなく、スポーツ界そのものの問題だ。

女子七種競技の全種目を終え、観客にあいさつする選手たち=2015年8月、北京(共同)

 ―日本は男女差別の解消に取り組んでいると言えるか。

 競技団体によっては女性の理事が多くいて、そういうことに気を使っている団体もあれば、女性の理事がゼロの団体もある。全体としては、欧米に比べれば、随分遅れている。

 ―日本が欧米に比べて遅れてしまっている要因は。

 社会全体の遅れが反映されているとしか言いようがない。社会全体で女性のリーダーシップがどれだけあるか、分かりやすい指標としてジェンダーギャップ指数がある。日本は120位。ランキング上位の国はスポーツに限らず、男性の世界だと思われていたところに女性がかなり進出している。その国々では男性社会の問題に社会を挙げて取り組んできた。日本はその遅れが反映されているのではないか。

 ―選手からは「雑誌にひどい写真が掲載された」との体験談もあった。マスコミはこの問題に関してはどういった視線で取り組むべきか。

 スポーツをメディアとして取り上げる人達には、女子選手への尊重のまなざしを確認していただきたいし、スポーツメディアは、スポーツの成長がなければ広がっていかない。次の世代の女子選手たちが、希望と夢を持ってスポーツに取り組んでいくためには、小さい子供たち、女の子たちの目から見ても、かっこいい、すてきだと、ああいう選手になりたいというものを見せてほしい。選手たちが伸び伸びと本当に良いパフォーマンスを、見ている人に届けられるような文化づくりを一緒にやってほしい。

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