時津川にごみ なぜ多い? ほとんど家庭から 有志回収「一人一人が捨てない意識を」

 「時津小近くの川にごみがたまっています」。長崎新聞の情報窓口「ナガサキポスト」のLINE(ライン)に5月下旬、長崎県時津町に引っ越して間もない男性(35)から投稿が寄せられた。「現状を記事にしてポイ捨てが減るきっかけとなってほしい」との依頼だ。なぜごみが多いのか? 川の周辺を歩き、関係者を訪ねた。

フェンスの上流側にたまった時津川のごみ=5月28日、時津町浦郷

 ペットボトルや空き缶、弁当の容器、発泡スチロール箱の断片、流木、ボール…。5月下旬、男性が指摘した場所に足を運ぶと、時津川に張られたフェンスの上流側に、それはあった。大村湾に注ぐ河口から約400メートル上流の「新地橋」付近。

 ごみは満潮時に上流へ、干潮時には元に戻る-を繰り返す。辺りで浮遊したり浅瀬に取り残されたごみもある。通行人に尋ねると、「前からある」「誰かが一度回収したが大雨が降るとまた流れてくる」と教えてくれた。

 町に苦情が入ることもある。現場を確認して至急対応しなければならないときもあるが、基本的には河川管理者の県に伝える。県長崎振興局河川課に尋ねると、フェンスは河川改修工事に伴い流出する泥が湾の中に入らないよう、地元漁協の要望を受けて県が設置した汚濁防止用。これがごみを受け止めていた。

 県は住民の命を守るための治水事業として河川改修を進めている。同課も住民からごみの苦情を受けるが、治水事業にごみ回収予算はなく、工事を請け負う業者に無償で頼んでいるのが現状だ。

 同課の担当者は「(業者には)心苦しいが、行政としてごみを回収する予算はない。住民が川に愛着を持ち、ごみを捨てないようにすることが大事では」と指摘する。

 さらに取材を進めると、時津港で定期的にごみ拾いをしているNPO法人「コミュニティ時津」が今年3月、川の現状を見かねて会員や町職員、工事関係者ら約20人で清掃活動をしていた。

 田窪幸男理事長(81)は「レジ袋や菓子の空き袋などほとんどが家庭のごみ。ポイ捨てする人もいるのだろうが、川に捨てている意識がなくても、食品トレーなどの軽いごみは風に飛ばされ最終的に川に入る。大雨時にはフェンスを越え、海へ流れていくこともある」と嘆く。

 大村湾の清掃活動に長年取り組んでいる大村湾漁協も訪ねてみた。松田孝成組合長によると、ごみは川から湾に流れ込み、漂着場所が少ないため、湾内を浮遊するという。松田組合長は「環境問題の主人公は行政ではない。主体は住民」と語った。

 6月中旬、時津小前の時津川を訪れると、町内で河川などの公共工事を請け負う建設業者3社の有志6人の姿があった。満ち潮で上がってきたごみを浅瀬で拾う作戦だという。

満潮に合わせ、時津川に入り浮遊ごみを拾う建設業者社員有志=6月12日、時津町浦郷

 「時津で仕事をさせてもらっている以上、何らか地元に貢献できることをしたい」。ペットボトルなどのほか、海からと思われる発泡スチロール片、ギターのボディーもあり、ごみ袋約30袋分を回収した。

 参加した水口凜太郎さん(20)=長崎市=は「時津川のごみ拾いは初めて。ボランティア活動に参加すれば、ごみを捨てない自覚を持てるようになるのでは」と話した。

拾ったごみの中にはギターのボディーもあった

 フェンスはその後、河口側に移され、橋の下にたまる光景はなくなったが、潮の満ち引きで浮遊するごみは今も見られる。

 取材で出会った関係者はこう口をそろえた。「ほとんどは家庭からのごみ。住民一人一人が『捨ててはいけない』という意識を持ってほしい」(松尾えり子)

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