多くのアスリートや応援で選手を支えるチアリーダーが、性的な意図での撮影や画像拡散に悩まされている。だがこうした問題への実効的な対策は難しい。高校野球や大学野球の現場では、チアリーダーの被害は以前から認識されていたものの、思うように防げていない。法的な観点から問題点を整理することも課題となっている。(共同通信=児矢野雄介)
▽野放し
春夏の甲子園大会をアルプススタンドで盛り上げるチアリーダーも心ない撮影の対象となってきた。日本高野連は警察と連携して不審な撮影への対応に当たっているが、参加校の側では被害を抑制できている実感は薄い。今春の選抜大会前に共同通信が実施したアンケートでは、チアリーダーの活動を予定していた15校のうち、8校が被害を把握した経験があると回答。撮影の規制など、対策強化を求める声が相次いだ。
応援団の活動エリアを撮影禁止としている東京六大学野球でも、被害は後を絶たない。各校の応援団は東京六大学応援団連盟を組織して運営に当たっている。だが、あるチアリーダーOGは「(盗撮は)各校で対応する問題だと思われている。連盟の役職に就いていたが、忙しくて対策を話し合ったことはない」と振り返る。今年の幹事を務める立教大のあるチアリーダーも「『どうしようもない』でとどまっていた」と野放しに近い状態であることを認める。
▽法整備
関西学生野球リーグでは、2016年に試合中の盗撮被害を警察に相談し、京都府迷惑行為防止条例違反の疑いで書類送検につながったケースがあった。ただ、事件化される例は珍しい。
盗撮は、取り締まる法律がなく各地の条例での対応となる。このため、基準にばらつきがあり、立件できても罰則は軽い。何らかの法整備が必要という認識は多くの専門家が共有し、刑法に「盗撮罪」を盛り込む議論も行われている。ただ、具体的にどのような行為を処罰対象とするのかは見解が分かれる。性犯罪問題に取り組む上谷さくら弁護士は「チアリーダーなど公開の場での演技の撮影をどこから違法とするか、線引きが難しい」と指摘する。
▽観戦契約
プロ野球のある球団は数年前、チアリーダーのスカートの中を撮影していた観客を、平穏な観戦環境の維持を目的とした「試合観戦契約約款」に基づき出入り禁止とした。元々は応援団などから暴力団を排除するためにつくられたもので、主催者の指示に従わない場合は入場を拒否できることなどが定められている。
チケットの裏面に内容が記載され、購入によって主催者と観客との間で契約が成立する仕組みとなっている。新型コロナウイルス対策でも、マスク着用を何度要請しても従わない観客を、約款を根拠に退場させた事例があるという。
日本陸上競技連盟法制委員会の工藤洋治弁護士は「主催者が合理的な観戦ルールを設けて適用することは法的に可能」とプロ野球以外にも応用できるとの認識を示す。
▽撮影許可制
球場での盗撮被害が相次ぐ一方、競技としてのチアリーディングは厳しい対策が実りつつある。日本チアリーディング協会が主催する大会では、以前から動画や望遠レンズでの撮影には協会発行の「撮影許可証」が必要。2019年度から許可の対象を全ての撮影に拡大した。
撮影許可証は加盟団体を通して配布するため、選手の家族やコーチなど身元のはっきりしている相手以外には渡りにくい仕組みになっている。撮影は自席からに限り、画像の肖像権は協会が所有する。規制強化以降、会場での不審な撮影はなくなったという。