入院中に使えるノートPCの条件とは?

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●ノートPCを引き出しにしまう体力がない!

これまでのあらすじ

脳内出血を発症した筆者は、右半身がマヒした状態で仕事関係者に現状を連絡し、かつ、周知し、そして“外の人々とのつながり”を確保するためにハードウェアQWERTYキーボード搭載スマートフォンを活用した。入院してから1カ月が経ち、右手が少しずつ回復してきた筆者は、主治医の許可を得たうえで、自宅のノートPCを使おうとしていた――。<詳しくはこちら

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とにもかくにも「管理徹底」

少し前ならば、デジタル機器の使用に関して医療の現場はとてもデリケートでありました。デジタル機器の発する電波によって医療現場で稼働している生命維持装置や測定機器にノイズが混入して誤作動する可能性が危惧されていたからです。

そのころと比べると、医療の現場におけるデジタル機器の扱いはずいぶんと緩やかになっています(少なくとも私が収容後入院していた横須賀中央市民病院も、その後に転院した神奈川リハビリテーション病院も)。

いまや、入院患者のほとんどが自分のスマートフォンを病院に持ち込んで自分のベッドや病棟で使っています(ただし、通話をする場所は定められたエリアに限られ、消灯後はできるだけ使用しないように求められていました)。

しかし、ノートPCとなると、病院側の“反応”はスマートフォンとやや厳しいものでした。まず懸念されたのが「ノートPCの保全」です。と書くと多くの人は「盗難防止」と思うかもしれません。

確かに、単純な盗難には注意する必要があります。ただ、それと同時に、脳疾患でしばしばおきる「自分の所有物と他人の所有物の区別がつかない」症状にも配慮しなければなりませんでした。

盗難は悪意を持ってなす行為ですが、そういう悪意がなくても他人のものと自分のものを間違えてしまうことがあるのです。後からその間違いに気が付いたとしても、ノートPCがなければこんなことにならなかったのに、とお互いに気まずい感情が残ってしまいます。

そういうことが起きないためにも、自分の所有物は所有者が確実に管理しなければなりません。

そこで、ノートPCを使わないときやリハビリなどでベッドから離れるとき、そして、就寝時にはカギのかかる引き出し(横須賀中央市民病院も神奈川リハビリテーション病院も個人用のキャビネットを備えており、その引き出しにカギをかけられるようになっていた)にしまうようにしていました。

ただ、病状で体力が衰えている筆者にとっては、ノートPCを引き出しに出し入れすることが負担になってきます。そこで防犯チェーンを使って、ノートPCをキャビネットに固定して使うようになりました。

「ええっ、ベッドサイドのキャビネットにつないで固定してしまっては、ノートPCの意味ないじゃん」と思われるかもしれません。

しかし、病院側から「ノートPCを使うのは、自室(実際には6人部屋、もしくは4人部屋だったが、どちらもカーテンで一人一人仕切られるようになっていた。カーテンで仕切った一人用の空間を“自室”と呼んでいた)だけで使うように」と指示があったので、ノートPCを病棟内で持ち運ぶことはありませんでした。そしてなにより、カギ付き引き出しに出し入れする労力を省くメリットが、少なくとも気分としては圧倒的に大きかったのです。

●意外な盲点「ノートPCを置けるスペース」

「ThinkPad T14s(AMD)」が相棒に

こうして入院先でも自分のノートPCを使えることになりました。

筆者が普段使っているノートPCはレノボの「ThinkPad T14s(AMD)」です。CPUに「Ryzen 5 PRO 4650U」 (2.1G~4GHz、6コア12スレッド、AMD PRO対応)を採用していて、実はなにげにこのことが気に入って購入していたりするのですが、“入院先で使うノートPC”としては、その他のスペックが重要になります。

それは「本体の幅と奥行き」、そして、意外なところとしては「ポインティングデバイス」です。

ノートPCなので使う場所は選ばない、と思うかもしれません。それこそ、ベッドに体を横たえていても胸の上、もしくは、膝の上に置けば使えるでしょう。

しかし、ある程度の時間を“疲れにくい姿勢”(ここ大事)で使い続けようとすると「テーブルにノートPCをおいて使う」ことが必須になります。

テーブルの奥行き問題がシビア

病院のベットで“机”として使われているのが「オーバーテーブル」と呼ばれるものです。これは、病院用ベッドの両脇についている「柵」に載せて使うテーブルで、幅が固定のオーバーテーブルの他に、ベッドのサイズの合わせて幅を可変できる「アジャストテーブル」もあります。

オーバーテーブルは使用するベッドの幅に合わせて83センチ、91センチ、100センチと3種類のサイズを用意していますが、奥行きは全て31センチになります。また、アジャストテーブルは幅が70~101センチで変更できますが奥行きは32センチ固定です。

筆者が入院した横須賀中央市民病院ではオーバーテーブルもアジャストテーブルも使っていましたが、いずれにしても奥行き31センチ、もしくは32センチに収まっているノートPCでないと本体を置くことができません。

幸いにしてThinkPad T14s(AMD)は奥行きが226.15ミリなので大丈夫でした。もっとも、奥行きが300ミリを超えるノートPCとなるとディスプレイに17.3型を採用した重さ4キロ越えのゲーミングノートPCクラスになります。このぐらいのモデルになると病院のベッドで使うのはサイズ的に難しいといえるでしょう。

●入院中に座った姿勢でノートPCを使う場合

狭めの「食事天板」でノートPCを使う

ベッドの柵に載せて使えるオーバーテーブル、または、アジャストテーブルにノートPCを置けば、ベッドの上でもノートPCが使えるようになりました。ただ、ベッドの上に座った姿勢ではノートPCを使っているうちに腰が痛くなってきます(そもそも病状として長い時間PCを使うことができませんが)。

倒れて最初に収容された横須賀中央市民病院に入院していた期間は、発症した脳内出血の治療と回復がメインで、リハビリ以外はベッドの上で過ごす時間がほとんどでした。しかし、入院期間が1カ月を過ぎ(正確には収容されてから37日後)脳内出血の病状が落ち着いたころ、筆者は神奈川リハビリテーション病院に転院します。このころから筆者は、入院生活の多くを車いすの上で過ごすことになりました。

転院にあたってもノートPCの利用を主治医と病棟を管理する看護部に申し出て許可を得ることができました。しかし車いすでの生活がメインとなったため、ベッドの上で使うオーバーテーブルやアジャストテーブルではなく、個人用のキャビネットとして備えていたフヨー製の「キャビネット ハイタイプ FWK-200F」(フヨーでは、このタイプのキャビネットを「床頭台」と呼んでいます。それゆえ、この連載でも床頭台と呼ぶことにします)に備わっている「食事天板」にノートPCを置いて、車いすに座った状態で使うことになりました。

となると、使いたいノートPCの幅と奥行きのサイズが食事天板に収まらないといけません。

フヨーのWebサイトではハイタイプ FWK-200Fのサイズについてキャビネット全体のサイズ(幅487ミリと奥行き530ミリ、高さ1735ミリ)は公開していますが、食事天板のサイズについて記載しておりません。

そこで筆者が実際に図ってみたところ、幅が約434ミリ、奥行きが約344ミリとなりました。ちなみに食事天板上面の床からの高さも実測したところ約720ミリで一般的な机の高さとほぼ同じです。

車いすの座面は一般的に床から44センチ前後。それにクッションの厚さ(座った状態で3センチ前後)が加わりますが、筆者がその状態で2カ月程度使った感想は「いたって問題なし。むしろクッションが厚くて快適」でした。

ノートPCは載せられても、マウスが……

その食事天板にThinkPad T14s(AMD)を載せていれば、幅も奥行きも余裕をもって載せることができる……はずなのですが、実際に使っているとちょっとだけ問題があることに気が付きます。

ThinkPad T14s(AMD)のような14型クラスのディスプレイを載せたノートPCを食事天板の左端に載せると右側に幅100ミリ程度のスペースができます。

見た感じ十分な面積に思えますが、実際にマウスを載せてみると「左右に動かす余白がほとんどない!」ことに気が付きます。

“一般的”なマウスの幅は60ミリ前後であることが多く(例えばサンワサプライが中型マウスとして紹介している「MA-BLC194SBK」の幅は58.6ミリ)、これを30ミリ程度の“余白”で使いこなすのは難しいものがあります。

この事情は、モバイルノートPCで一般的な13.3型ディスプレイを搭載したモデルでもあまり変わらないでしょう。そういう意味では、ポインティングデバイスにトラックポイントを使え、マウスがいらないThinkPadを使えたのは幸いでした。

●入院している身体でノートPCは使えたのか

キーボード操作でリハビリテーション

入院中、スマートフォンでも事足りるのにわざわざノートPCを自宅から取り寄せて使っていた目的のひとつが、「キーボード操作のリハビリテーション」でした。

右半身がマヒ状態にあった筆者が仕事への復帰を考えた場合、ノートPCが使える程度まで、右手の機能を取り戻せるのかが重要になります(もちろん、右手が使えなくても執筆活動をされている人はいます)。

筆者は、脳内出血の病状が落ち着いてきて、ハードウェアQWERTYキーボードを搭載したUnihertz Titanで親指タイピングができる(=QWERTYキーボードの配列を認識して指で正しく押すことができる)まで回復した段階で、主治医にノートPCの持ち込みについて相談したところ「リハビリにいいと思いますからぜひ」というアドバイスがあり、ノートPCを入院先で使うことができました。

とはいうものの、案の定タイプできる速度は遅く、かつ、マヒしていた右手を使う領域のキーはタイプミスも多い(傾向としては、本来タイプすべきキーの内側にあるキーをタイプしてしまいやすかった)状況。ThinkPad T14s(AMD)を入院先で使い始めた当初(入院生活約1カ月)は、250文字の作文と入力に15分間もかかっていました。

しかし、Unihertz TitanのハードウェアQWERTYキーボードでの入力でも

使い始めた半月後には通常(筆者の場合、倒れる前の執筆速度として「一時間千文字」という目安がありました)の6~7割に、さらのその半月後には通常の8~9割までタイピング速度自体は回復してきました。

難関だった「疲れやすさ」は長く続く

ただ、タイピング速度は回復してきてもミスタイプの頻度はなかなか改善しません。また、脳疾病患者の特徴である「疲労しやすい」という状況が筆者の場合顕著で、当初は20分ほどのタイピングでもう限界という状況でした。

リハビリを重ねて体力と筋力が回復してくるにつれて、タイピングできる時間も長くなってきましたが、それでも、退院した2021年6月時点(脳内出血発症から6カ月経過)でも1時間以上のタイピング作業は困難です。

それでも外の世界とつながっていることは、病院から出ることができない筆者にとって、リハビリをはじめとした入院生活と向き合う大きな原動力となったのです。SNSを通して多くの仲間からいただいた励ましのコメントに返事を書くことは、その行動そのものが筆者自身にとっても大きな励みになりました。

入院期間中には、ボードゲームの大規模な即売イベント「ゲームマーケット2021春」が開催されたのですが、“同人ゲームデザイナー”でもある筆者は当選していたブース出展を、泣く泣くキャンセルせざるを得ませんでした。

しかし、出展するデザイナー仲間(いや、正しくは“大先輩”)の好意で委託頒布をしていただくことになり、作品を紹介する展示用POPのデザインと印刷用PDFデータも、ThinkPad T14s(AMD)に導入していたAdobe Illustratorのおかげで作成することができました。

こうした制作活動を通して、入院していながら同人イベントに参加する楽しみを体験できたのです。

このように、デジタルガジェットで外の世界とつながれたおかげで、筆者は希望をもって入院生活を送ることができました。

……というところで「あれ? 外の世界とつながる『ネットワーク』って、どうしていたの?」と疑問を持った人もいるかもしれません。次回は入院生活で利用できた「ネットワークとSIM」について紹介しましょう。