女子高校野球の“悲願”成就に感激の涙… 片岡安祐美さんが語る聖地・甲子園

茨城ゴールデンゴールズで監督を務める片岡安祐美さん【写真:荒川祐史】

今夏の第25回全国高校女子硬式野球選手権大会決勝戦が甲子園で開催

2021年、女子高校野球の歴史に新たな1ページが刻まれる。7月24日に開幕する第25回全国高校女子硬式野球選手権大会決勝戦が、高校野球の“聖地”である阪神甲子園球場で開催されることになった。

「最初にこの話を聞いた時、私、涙が出ましたもん。自分が出られるわけではないけれど、やっと女子が甲子園の土を踏めると思ったら、涙が出てきて……。歴史が変わりましたよね、ホントに」

いまだ興奮冷めやらず、大きな目を輝かせながら嬉々とした表情で語るのは、社会人硬式野球クラブチーム・茨城ゴールデンゴールズで監督を務める片岡安祐美さんだ。小学3年生から男子に混じって野球を始めると、甲子園に行きたいと地元・熊本商業高に進学し、硬式野球部に所属。公式戦には出場できなかったが、高校球児として白球を追いかけた。

日本高等学校野球連盟の規定には、大会参加者資格として「男子生徒」と明記されており、硬式野球部に所属していても女子生徒は出場できない。片岡さんは在学当時から規定が変わることを願い、発信し続けてきた。

高野連の規定で公式戦には出場できなかったが、高校球児として白球を追いかけた【写真:荒川祐史】

全国大会には過去最多の40チームが参加、決勝は8月22日に行われる

「私は高野連の規定にある『男子生徒に限る』という参加資格を消してほしいと思い続けてきました。野球を好きな想いは男子も女子も変わらない。性別は本人はどうしようもない問題なので、それだけで甲子園に出られないというのは納得がいかないんです。でも、これだけ女子高校野球が盛んになったおかげで、高野連の規定が変わらずとも、女子でも甲子園で野球ができるチャンスが与えられた。決勝だけですけど、夢のような話です」

今大会は過去最多となる40チームが参加。兵庫・丹波市で準決勝まで戦った後、男子の第103回全国高等学校野球選手権大会が休養日にあたる8月22日に、甲子園で決勝が行われる。甲子園でプレーできるのは2校だけだが、全ての女子選手に「可能性」が与えられただけでも大きな変革だという。

「私はテレビで見た甲子園に憧れて野球を始め、実際に観に行った甲子園に感動して高校球児の道を選びました。多分、私と同じ理由で野球を始めた女の子っていっぱいいると思うんです。やっぱり甲子園という舞台は、男女関係なく、いち野球人として誰もが憧れる場所。今まで女子は甲子園でプレーできる可能性すら与えてもらえなかったのが、目指す場所として甲子園を掲げられるようになった。これは本当に凄いこと。考えただけでも鳥肌が立ってきました(笑)」

2005年からは茨城ゴールデンゴールズの一員となり、男子と同じ土俵でプレーし続けた【写真:荒川祐史】

「みんなの想いがバトンになって、何十年と受け継がれて今に…」

一朝一夕には歴史は動かない。ここに至るまでには「女子が野球なんて」と言われながらも、諦めずに野球をプレーし続けた先人たちの勇気があった。

「日本には戦後2年間だけ(1950~51年)女子のプロ野球リーグがあって、その時に選手だった高坂峰子さんは80歳を超えた今でも大阪で野球をプレーなさっている。その後、大学に女子軟式野球部ができたり、私が中学生の時には東京大学の竹本恵さんと明治大学の小林千紘さんが女性選手同士の投げ合いをしたり。私、お2人が投げ合った試合の新聞記事をスクラップして持っていました。そういう諸先輩方の頑張りや活躍する姿を見て、私もやれるんだ、と勇気をもらいました」

高校時代から女子日本代表チームに選ばれる一方、2005年からは茨城ゴールデンゴールズの一員となり、男子と同じ土俵でプレーし続けた片岡さん。その姿に憧れ、勇気をもらった後輩もいる。3月に訪れた広島・廿日市市でこんな一幕があったという。

「女子野球タウンに認定された廿日市市で野球教室に参加した時、阪神タイガーズWomenの三浦伊織選手と板東瑞紀選手、京都文教大学の小西美加総監督とご一緒しました。そうしたら、板東選手とは初対面だったんですけど、小学校の時に中学でも野球を続けようか迷っていたら、担任の先生がゴールデンゴールズでプレーする私の記事を切り抜いてプレゼントしてくれたくれたそうなんです。『おかげで中学でも野球を頑張ろうと思いました。その時の記事、まだ持っています』って言ってくれて、すごくうれしかったですね。

私は竹本さんと小林さんの記事に励まされ、板東選手は私の記事を持ってくれている。その板東選手は今、小学生たちに夢を与えているわけで。こうやってどんどん繋がっていくことで歴史は作られる。女子野球選手はみんな、目標を聞かれると誰が教えたわけでもないのに、必ず口を揃えて『女子野球を広めることです』って言うんですよ。それぞれが野球を続けてきた中で、少なからず『女子だから』と区別されてきたから、後輩たちにはそういう想いをさせたくないんです。そういうみんなの想いがバトンになって、何十年と受け継がれて今に至るんじゃないかと思います」

「マスターズ甲子園」で目指す夢の実現「ひっそりと現役引退しています」

女子選手たちの想いがバトンとなってリレーされてきた一方で、女子が野球をすることに対して理解を示してくれた人たちのサポートがあったことも忘れてはならない。

「一般には『女の子が野球なんて……』と言われながらも、『やりたいんだったらやればいい』と応援してくれる方たちがいた。選手はプレーすることしかできませんから、野球をすることを受け入れ、プレーする場所を与えてくれた身近にいる大人の方たち、スポンサーとなってくれた方たちなど、皆さんへの感謝の気持ちを忘れてはいけませんよね。今回の甲子園の件に関しても、実現に尽力してくださった高野連、甲子園球場、全日本女子野球連盟の方々に本当に感謝しています」

8月22日に行われる決勝戦は、ぜひ現地で歴史が刻まれる瞬間を見届けたいと願っている。現在、女子高校野球を指導する監督には同年代が多く「監督で甲子園を目指せるのもいいですね」と続ける。

「甲子園の土の上に立った時、選手、そして監督の目にはどういう景色が映るのか、どんな世界が見えるのか、どんなことが感じられるのか、彼女たちに話を聞いてみたいし、その姿を見た私自身がどんな感情を持つのか、今から楽しみですね」

とはいうものの、片岡さん自身、まだ甲子園で野球をする夢を諦めたわけではない。2004年に始まった「マスターズ甲子園」で夢を実現させようと、出場資格を得るために、今年から茨城ゴールデンゴールズでの選手登録を外した。今年18回目を迎えるマスターズ甲子園は12月4、5日に甲子園で開催される予定だ。

「ひっそりと現役引退している形なんです(笑)。ただ、ずっと言ってきたのは『私が引退するのは甲子園でプレーする時だ』ということ。だから、社会人野球での選手登録は外しましたが、元高校球児として熊本商業の一員として甲子園を目指します。いつ出られるかは分からないけど、これからお母さんになってからでも、おばあちゃんになってからでも、甲子園に出場できたら格好いい。母校のユニホームを着て出られたら、一番いい夢の叶え方ですよね」

甲子園でプレーするその日まで、片岡さんは大きな夢を追い続ける。

衣装協力=G-STAR RAW(佐藤直子 / Naoko Sato)

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