俳優・片桐仁、箱根「岡田美術館」で感じた京都画壇の系譜に感動

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週土曜日 11:30~)。この番組では、多摩美術大学卒業で芸術家としても活躍する片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。5月22日(土)の放送では、「岡田美術館」に伺いました。

◆女性が見た美しい美人画を描いた上村松園

今回の舞台は神奈川県・箱根町にある岡田美術館。広大な敷地に5階建と、芸術の街・箱根でも屈指の規模を誇る美術館です。コレクションの中心は日本・東洋美術で、その文化の発信と継承のため2013年に開館しました。

同館学芸員・稲墻朋子さんの案内のもと、今回紹介するのは"京都画壇”の系譜。徳川幕府の成立で政治・経済の中心は江戸に移りましたが、京都では自由闊達な空気のもと独自の芸術が開花。その気風は後の世代にも受け継がれています。

そんな京都画壇の作品のなかから、まずピックアップしたのは「美人画」。美人画と言えば、東洲斎写楽や喜多川歌麿など男性の手による作品が多いなか、岡田美術館には女性ながら美人画を描き人気を博した上村松園の作品が展示されています。

彼女の代表作「汐くみ」(1941年)は、とにかく色彩が美しく、桶のようなものに繋がるオレンジの紐も印象的で、さらにはそれを持つ指先も綺麗。片桐も「確かに女性作家ならではの繊細な気品がある」と感心します。

女性の目から見た美しい女性を描いた松園は、1875(明治8)年に京都四条通りの商家で誕生。人物画が好きだった松園はいつしか画家を志しますが、当時は女性作家が少ない時代。「ジェンダーの差は相当あったはず」と片桐も案じていましたが、実際、絵の学校で女性は1人。そんななかでも絵の勉強に励んだそうです。

続いて松園の「晴日」(20世紀前半)を前に、片桐は思わず「凛としていますね。グラデーションが綺麗」と舌を巻きます。

この他にも、彼女は数多くの傑作を発表。柔らかく繊細で、高貴な印象を併せ持ち、女性特有の視点で美人画を描き続け、1948(昭和23)年には女性初の文化勲章を受賞します。

ちなみに、息子の上村松篁、さらには孫の上村淳之も日本画家。片桐はそんな松園の旦那さんに興味を示しますが、彼女は生涯独身。27歳のときに未婚の母となるも入籍せず、相手の男性のことを他人に話すことも一切なかったそうです。

◆江戸中期に京都画壇を席巻した3人の大スター

一方、松園が活躍する約150年前、江戸時代中期の京都では日本美術界を代表する三大スターがしのぎを削っていました。それは、伊藤若冲、池大雅、円山応挙。

まず伊藤若冲の魅力は、"超絶技巧”。彼の初期作品「孔雀鳳凰図」(1755年頃)を見た片桐は「本でしか見たことがない。(実際に見ると)細かい」と感嘆。右に白孔雀、左に鳳凰が描かれたこの作品は、羽根の一つひとつ、背後の牡丹や松など細部まで緻密な線描で描き込まれており、片桐は「これが300年近く前。僕は好きです。手数は嘘をつかないじゃないけど、ディティールに宿りますから」と感動の声を上げるばかり。

若冲の作品は科学的な解析の結果、さまざまな仕掛けが施されていることがわかっており、それは「花卉雄鶏図」(18世紀中頃)にも。そこには絵絹の裏側から絵具を塗り、ほんのりその色を浮かび上がらせる「裏彩色」という技法が使われています。

そんな超絶技巧を操る若冲は、もともとは京都錦市場の青物問屋の主人。しかし、生来絵を描くのが好きで独学で描き続けた彼は40歳で家督を弟に譲り、絵に明け暮れる生活へ。とにかくずっと絵と戯れていたことから、ついた異名が「画遊人」でした。

続いては、若冲より7歳年下の天衣無縫の画人・池大雅。彼の「終南山図」(18世紀後半)を片桐は、「盛り盛りしていて面白い。遥か高みがすごい」と評しつつ、「中国っぽく見えますね」とも。事実、タイトルにもある「終南山」というのは中国の山だとか。

また、絵の右上には詩が書かれており、大雅は絵だけでなく、書も上手。そして、とにかく天真爛漫で欲もなく、旅が好きで日本各地を巡回。俗世間にとらわれず、自由気ままに生きた大雅は、中国絵画の様式をもとに独自の画風を形成し、全国を旅しながら多くの作品を残します。ちなみに、妻の玉瀾も画家で、大雅は自分が亡くなった後、彼女が困らないようにと多くの絵を残す愛妻家だったそうです。

最後は写実主義の流派・丸山派の開祖である円山応挙。彼の作品のなかには、意外なものもあり、それは犬を描いた「子犬に綿図」(18世紀後半)。

一目見た片桐は「ワンちゃんがかわいい! めちゃくちゃカメラ目線ですね」と興奮しつつ、「これは江戸時代の女性も『かわいい』と言ったでしょ。これは100年経っても、200年経ってもかわいい」、「つぶらな目がかわいい。この犬はリアルでかわいさ重視」とベタ褒め。応挙は写生で名を成しながらも微笑むワンちゃんまで変幻自在に筆を操っていました。

◆江戸から明治、そして現代へと受け継がれる京都イズム

超絶技巧の若冲、天衣無縫の大雅、変幻自在の応挙と三者三様の個性派スターが江戸中期の京都画壇では切磋琢磨していましたが、そのエッセンスは上村松園、さらには現代へと受け継がれていきます。

その系譜を紐解く鍵となるのが、応挙の「三美人図のうち太夫図」(1783年)。それを見た片桐は「すごいですね。この着物の模様に帯の絵といい……見ちゃう」、「この赤い襦袢の色、帯には百合の花が咲いていて、すごい……」とうっとり。松園は絵を学び始めた当初、そんな応挙の絵を参考にしていたと言います。

そして、改めて松園の美人画を見ると「品の系譜を感じますよね……」と片桐が語るように、そこには応挙に通ずる"品”が。例えば、松園の「夕涼」(20世紀前半)では夕涼みに出る若い女性が描かれており、片桐は改めて「やっぱり品がありますね」と息を呑みます。

江戸中期を席巻した3人の巨匠、そして品のある繊細な表現で美人画の傑作を生み出した女性作家、そこに受け継がれていたのは京都画壇のイズム。岡田美術館でその流れを体感した片桐は、「"いいなぁ京都”って思いますよね。いろいろな職人が集まり、みんな繋がっている。明治時代の超絶技巧を現代に再現する人、かたや3Dプリンターの社長のような人もいて、本当に(京都って)いいなと思います」と京の都に思いを馳せつつ、偉大なる芸術の街と京都画壇の芸術家たちに盛大な拍手を送っていました。

◆「片桐仁のもう1枚」は、伊藤若冲の「月に叭々鳥図」

ストーリーに入らなかったものから、どうしても紹介したい1作品をチョイスする「片桐仁のもう1枚」。今回、片桐が選んだのは、伊藤若冲の「月に叭々鳥図」(18世紀後半)。細密画の印象が強い若冲による、どこかユーモラスな水墨画の作品ですが、「黒い鳥に目がいくんですけど、上に大きく月が描かれているんですよね。それ気づかなかったなと思って」と片桐。その上で、鳥が落ちているようなこの構図に「これはどういう状況なのか、謎ですよね。時間を止めて、その瞬間を切り取った感じ。スピード感があって」と悩ましげな様子でした。

日本画のスーパースターたちの作品を生で見た後、最後はお馴染み、館内併設のミュージアムショップへ。岡田美術館オリジナルのチョコレートや若冲の手拭いなどを気にしつつ、「スゴいのがありましたね」と片桐が手に取ったのは壺と土偶と埴輪のステッカー。「どんなときに貼るんですかね」と笑顔で話していました。

※開館状況は、岡田美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週土曜 11:30~11:55<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

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