伝説の美人女優・夏目雅子さんが演じた「西遊記」三蔵法師の霊骨がなんと『埼玉』にあった

伝説の美人女優、夏目雅子を知っていますか。映画『瀬戸内少年野球団』や、劇中のせりふ「なめたらいかんぜよ!」が流行語にもなった映画『鬼龍院花子の生涯』に出演した昭和を代表する女優です。

1985年9月に急性骨髄性白血病のため27歳の若さでこの世を去りました。彼女をスターダムに押し上げたのは、1978年に日本テレビ開局25周年記念として企画、制作されたテレビドラマ『西遊記』の三蔵法師(玄奘三蔵)役でした。『西遊記』は有名な古典伝奇小説で、石から生まれた猿・孫悟空が、三蔵法師、沙悟浄、猪八戒との出会いを経て、天竺(てんじく)への旅が描かれています。

本来、三蔵法師は、仏教の経蔵・律蔵・論蔵の三蔵に精通した僧侶(法師)のことで固有名詞ではありません。『西遊記』に出てくる玄奘三蔵は、数いる三蔵法師のひとりですが、大抵の場合、三蔵法師といえば有名な『大唐西域記』を書いた、この玄奘三蔵を指します。もちろん男性です。

ところが、テレビ番組では女優の夏目雅子が演じました。その愛らしいルックスもあって番組はNHK大河ドラマの裏ながら平均視聴率19・5パーセントを記録し、翌年には『西遊記2』も放送されました。また、イギリスBBCでは英語吹き替え版が放送され、その後、英語版はオーストラリア、ニュージーランド、香港でも放送されたほどです。

その夏目が演じた三蔵法師の霊骨(遺骨)が、埼玉県さいたま市岩槻区にあるというから驚きではありませんか。霊骨が安置されているのは「玄奘三蔵霊骨塔」で、東武アーバンパークライン・豊春駅から徒歩20分ほどの畑の中にあります。824年に慈覚大師によって開かれた天台宗の古刹(こさつ)・慈恩寺が管理する飛び地です。私が訪れた日は人けもなくひっそりとしていましたが、十三重で高さは約15メートルの「玄奘三蔵霊骨塔」は荘厳な感じがするものでした。

霊骨は宋の時代に長安(現西安)から南京に移動したようですが、1851年の太平天国の乱で行方不明になりました。ところが、第2次大戦中の1942年に南京を占領していた日本軍が、偶然にも土木作業中に三蔵法師の頭骨を納めた石箱を発見。当時の南京政府に返還されましたが、1944年に南京玄武山に「玄奘塔」が建立され奉安された際、日本へも分骨されたという話です。

日本へ渡った骨は、当初芝増上寺に安置されましたが、東京は空襲の被害が広がり、一時埼玉県蕨市の三学院に移されました。その後、三蔵法師がインドから持ち帰った仏典を漢語訳するため建立した大慈恩寺にちなんで命名された慈恩寺に疎開。第2次大戦後、三蔵法師と縁の深い慈恩寺が奉安に最適の地とされ、1950年に十三重の花こう岩の石組みによって塔が築かれたのです。ちなみに奈良・薬師寺の「玄奘三蔵院伽藍」に安置された霊骨は慈恩寺から分骨されたものです。

鎌倉に住んでいた夏目雅子が、この地を訪れたのかは分かりません。ですが、『西遊記』を見ていた私には、この塔の前で彼女が何かインスピレーションを得たとしか思えてなりません。

(デイリースポーツ・今野 良彦)

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