司法書士や税理士…各界プロが運営に参加 滋賀・東近江市発「オトナ女子の本気野球」

滋賀県東近江市に拠点を置く「東近江バイオレッツ」【写真提供:東近江バイオレッツ】

滋賀県東近江市を本拠地に独自の運営スタイル定着

西武ライオンズ・レディースに続いて阪神タイガースWomenが誕生するなど女子野球界が活況だ。全国各地に散らばるクラブチームがそれぞれ知恵を絞って運営する中、滋賀県東近江市に拠点を置く「東近江バイオレッツ」は、地域密着という独自のスタイルで日本一を目指している。

チームを運営しているのは、地元の中小事業主や市職員、女子学童軟式野球チーム代表などからなる「運営部」のメンバーだ。司法書士や税理士、社会保険労務士らもプロボノ(専門知識や技術を生かしたボランティア)として参加、経済団体役員らを含めて総勢25人ほどになる。主要メンバー10人は広報部、運営部、総務部に分かれ、本業の合間を縫って、情報発信や遠征計画、各種補助金申請や、NPO法人化に向けた取り組みなどを行なっている。

建設会社を経営しながらチームの広報部を担当する嶋澤徹也さんは、構想段階から積極的に関わってきた。「難しいことは分かっていましたが、東近江市でなら中小の事業主だけでできる活路があるんじゃないかと漠然と感じていました」と振り返る。

ポイントは「野球」に加えて「女性」というキーワード。「野球はメジャースポーツなので興味のある事業主さんが多いです。さらに女性の方が雇用面でもチャレンジしやすい部分があったのかなと思います。仕事と野球を両立するのは女性の方がうまいんじゃないかという期待もありました。実際、勤め先の事業所さんからも就業態度が非常に良いとお褒めの言葉をいただくことも多いです」と嶋澤さんは語る。

選手は午前練習、午後仕事 小さな街の起爆剤に

チームが産声を上げたのは2018年春。その数年前から京都両洋高の上田玲監督は教え子の将来的な受け皿づくりを模索していた。選手の雇用や生活基盤、練習場所とクリアすべきことは多いが、教え子である中嶋優菜捕手の父・輝さんに相談すると「東近江だったらできるよ」と即答をもらった。

2015年に市政10周年を迎えた東近江市では、ちょうど若手経営者たちがまちの将来について真剣に議論していた。人口11万人の東近江市で小さな会社を営む中嶋さんもその一人。女子野球の魅力を語り、まちづくりの起爆剤になると夢を語り、仲間を増やしていった。

設立4年目の今年は選手15人が在籍。京都両洋高出身者7人のほか、北海道や沖縄など全国各地から選手が集まった。平日練習は午前8時30分~11時30分となっており、選手が午後から就労できる勤務先を市のしごとづくり応援センターがマッチングする。

空き家を改修したシェアハウスで自炊生活する選手たちの元には、農場経営する運営部の小森幸三代表から年間通して米飯が提供され、支援者から近江牛や季節の農産物なども届く。広報部の嶋澤さんは「野球をしていなかったら東近江市なんて知らない選手たちばかりなのに、バイオレッツのおかげで、知っていただき、住んでいただき、訪れてくれる場所になりました。退団してもここに残って就業したり、第2の故郷のように訪れてくれる選手もいて、そのこと自体がうれしいです」と地元の思いを代弁する。

昨年まで主将を務めた横山彩実【写真提供:東近江バイオレッツ】

昨年は西日本大会で優勝、侍ジャパン代表も輩出

運営部メンバーの熱意と行動力は年々パワーアップ。今年5月には、サプライズで25人乗りバスをプレゼントした。中古購入して、チームロゴなどをラッピング。デザイン、タイヤ交換など協力企業数社が力を合わせ、3カ月かけて完成させた。「地方だからできたんじゃないかと思います。地域で彼女たちをもりあげたいという思いが実った結果」と嶋澤さんは豪快に笑う。

愛情たっぷりのバスを目の当たりにした選手たちは歓声を上げた。選手5人でスタートした1年目から昨年まで主将を務めた横山彩実内野手は「びっくりしました。スポンサー探しから何から何まで運営部の方がやってくださって、本当にありがたいです。結果で恩返ししたいです」と力を込める。試合結果だけではなく、ボランティア活動にも精を出し、昨年はコロナ禍で弁当配達も買って出た。

上田監督の思いと運営部の実行力で出来上がった独自の地域密着スタイル。「最初は企業チームをイメージしていましたが、今となってはこの形はすごいと思います」。そう語る上田監督自身も午前中は東近江バイオレッツ、午後は京都両洋高を指導と片道1時間以上かけて二足のワラジを履き、奮闘している。

地元の新聞やケーブルテレビ、コミュニティーFMで選手紹介やチーム活動を取り上げてもらい、知名度も少しずつ上がっている。昨年は、西日本大会で初優勝し、今年1月には侍ジャパン女子代表に横山内野手が初選出された。

力強い後押しを受けて、目指すのは日本一だ。「オトナ女子の本気野球」をコンセプトに掲げる上田監督は「1年目は選手5人からのスタート。その5人が一生懸命頑張ってくれなかったら今はないと思います。年々チームらしくなり、目指す野球に近づいている実感があります」と手応えを口にする。地域活性化を担いながら関西全日本女子硬式野球選手権と全日本女子硬式野球クラブ選手権制覇へ。挑戦は始まったばかりだ。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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