【高校野球】元巨人で東海大相模の次期監督候補 勝つために選手の“DNA”にまでこだわる指導論

東海大静岡翔洋・原俊介監督【写真:間淳】

自ら打席に立って見本、1スイングで仕留められるのはなぜ?

今春のセンバツを制した東海大相模の門馬敬治監督が、この夏限りでユニホームを脱ぐことが明らかになった。後任が確実視されているのが、東海大相模のOBで元巨人の原俊介氏。現在は静岡市の東海大静岡翔洋で監督を務めている。その指導方針の1つは、現役時代の経験を活かした「個々の選手に合わせたフィジカル強化」。DNA検査を導入するほど徹底している。

東海大系列の野球部を象徴する縦縞。静岡市にある東海大静岡翔洋も、伝統と誇りを胸に甲子園を目指している。チームを指揮するのは原俊介監督。かつては縦縞の阪神がライバルだった巨人で捕手としてプレーしていた。

原監督は2006年に現役を引退し、早稲田大学で教員免許を取った。米国で設立され、国際的に最も信頼性が高いと言われているパーソナルトレーナーの認定資格も取得。2016年、東海大静岡翔洋の監督に就いた。

「イメージを持ってスイングしないと。バットの芯がどこにあって、投球に対してどの角度で当てればヒットになるのか。ただ強く振るだけでは打てるはずがない」

打撃練習では自ら打席に入って見本を示すこともある。1回のスイングでヒットを打つ課題に対してファウルや凡打に終わる正選手もいる中、原監督は簡単にヒットを放つ。

1人1人全く違う肉体、フル活用できる動かし方、鍛え方を

高校野球の監督は6年目を迎えた。貫いている指導方針がある。「体の使い方や体の発達を大事にするのはぶれていない」。高校生は成長期。その成長に合わせたトレーニングが最高のパフォーマンスを引き出し、怪我の防止につながる。もっと言えば、身体は1人として同じ選手はいない。だからこそ、原監督は選手が自分の体の特徴を知る必要があると説く。

「人は骨の太さも長さも筋肉の付着部も柔軟性も全てが違う。同じ動きをしようとしても、人によって動きが違うのは当然。自分の体をフル活用できる動かし方や鍛え方がある」

その一環で昨年から導入したのが遺伝子検査だ。専門家の知人が協力してくれたもので、項目は筋肉の質や疲労の溜まりやすさなど多岐に渡る。個人情報なので原監督は結果を目にしていないが、その専門家とそれぞれの選手が内容を共有している。他にも肩や股関節の可動域を測るテストなどでも、体を“解剖”している。

DNA検査で、エースの鈴木豪太投手は瞬発力に必要な筋肉が優れているという結果が出た。そのため、ランニングメニューは瞬発力を高めるダッシュを増やした。体の使い方では、原監督から「体重移動」の重要性を指導され、右足の内転筋をしっかり使うことや、左の股関節を引くように回転するようアドバイスを受けた。

そうした成果もあり、球速はどんどん伸びている。身長173センチと決して大柄ではない鈴木。入学時に120キロを超えるのがやっとだったストレートは2年の夏で135キロに到達し、3年になる頃に初めて140キロを計測。現在は144キロまで上がり「軽く投げてもスピードやキレのあるボールを投げられるようになった。体の使い方でパフォーマンスが変わると実感している」と効果を口にする。

「体の使い方や意識を変えると、今まで動かなかった体が動く」

原監督が体の使い方にこだわる原点は巨人時代にある。2004年に単身で渡米し、INGアカデミーでトレーニングする機会があった。

ここでのトレーニングは、体の使い方を重視したメニューが多かったという。「1人でトレーニングに行ったので、学んだことを振り返る時間があって定着につながった。体の使い方や意識を変えると、今まで動かなかった体の部分が動くようになる。技術の習得やパフォーマンスアップにつながるのは明らか」。特に右足の股関節の動かし方を掴んだことで、右方向への打球が失速せずに伸びる感覚を得た。

「子どもたち1人1人が自分の体に合った本来の動きをすること、動けるような体づくりをしていくことが私のテーマ。2年半という限られた高校野球の期間に難しさを感じるが、個々のベストパフォーマンスを引き出せるように、できる限りのことをやっていく」と原監督。経験と理論に基づく指導は、選手の骨、筋肉、DNAに至るまで妥協がない。(間淳 / Jun Aida)

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