【〈ダイジェスト後編〉高齢期の住替えを考える】要介護者が自立型の高齢者向け賃貸住宅で暮せるワケ

当サイトの連載記事『シリーズ 高齢期の住替えを考える』(全10回)。
今号は、本シリーズのダイジェスト版・後編(第6回~10回)をお届けします。

あまり知られていませんが、最近はひと昔前とは違い、高齢者向けのさまざまな住まいや施設が整備されています。
今では、ご自身に合った住み替え先を自由に選ぶことができる時代になったのです。

この連載記事を参考に、ぜひ読者の皆様が「自分らしい老後の暮らし方」を選択し、充実したセカンドライフを送っていただけるよう願っています。

【目次】
第6回『早めに高齢者向け賃貸へ住替えませんか?』
第7回『なぜ知名度低い?自立型の高齢者賃貸住宅』
第8回『要介護者が自立型の高齢者賃貸で暮すコツ』
第9回『コロナ禍で孤立する要介護の高齢者を救え』
第10回『コロナが奪った高齢者の笑顔は取戻せるか』

第6回『早めに高齢者向け賃貸へ住替えませんか?』

サ高住『グランドマスト勝どき』外観

【今回のキーワード】
自宅に住み続けていると、段差で転倒して要介護になる等のリスクもありますが、高齢者向け賃貸住宅なら、自宅のように自由に生活できるところがメリットです。

今回は、「60~70代で早めに高齢者住宅(自立者向け)へ住み替えるパターン」を詳しく見ていきましょう。

一般的に住み替える先は、バリアフリー設計で24時間駆けつけサービスや相談窓口があるなど、最低限の安心安全が確保されている「高齢者向け賃貸住宅」です。

自宅に住み続けていると、段差で転倒して要介護になるリスク、一人暮らしだと老化が進むといった問題がありますが、「高齢者向け賃貸住宅」ならルールにしばられず、自宅と同じように自由に生活できるところがメリットです。

そして、早めに住み替えているのは、次のような方々が比較的多いと思います(あくまで傾向です)。

子どものいない方や単身女性は早期に決断

【早めに住み替えるご高齢者の特徴】

〇自立して生活できる元気な方
〇子どもがいない方(将来の介護に備え、先々のアンテナを張っている方)
〇一人暮らしの女性
〇残りの人生をできる限り健康でいたい方(介護施設に入りたくないため)
〇食堂(食事サービス)を目当てに入居する自立者の方

最後の「食堂付きの施設」については、自炊が大変だからという一人暮らしの男性から好まれますが、実は意外にもニーズが高いのが一人暮らしの女性です。
「家族のために長年料理を作ってきたけれど、もう自分のためには作りたくない」という声をよくお聞きします。

第7回『なぜ知名度低い?自立型の高齢者賃貸住宅』

【今回のキーワード】
「自立型の高齢者向け賃貸住宅というタイプがあることは知らなかったので、驚きました」

横浜市内の戸建てで一人暮らしだったNさんは自宅で転倒して骨折し、入院を余儀なくされました。

幸いにもリハビリは順調で、3ヵ月後に退院できることになったのですが、主治医からこう告げられたといいます。

「要介護認定を受けた結果、判定は要介護3でした。このまま自宅に戻って一人で暮らすのは難しいですね」

そこで、Nさんは自宅をあきらめ、介護付有料老人ホームへ入居することにしました。

入居後は身体能力の快復も早く、ほどなくして最も軽い介護度の要支援1へと改善したそうです。

要支援1へ改善後、介護施設で気を病む

そうなると次第に気になってきたのが、介護施設で一緒に生活している入居者の皆さんの様子でした。

介護度の重い人が多いことから、認知症の男性が館内を徘徊していたり、食堂でも隣りは介助を受けながら食事する女性だったり。
やがてNさんは、少々気を病んでしまったそうです。

Nさんから私にご相談があったのは、そんな状況のときでした。

私が「“自立型の高齢者向け賃貸住宅”のことはご存じですか?」とお話しし、物件までご案内したところ、「こういうタイプの住まいがあることは知らなかった」と驚いていらっしゃいました。

Nさんは2020年7月、地元にある「自立型のサービス付き高齢者向け住宅」へと転居され、今は落ち着いた毎日を送っています。

第8回『要介護者が自立型の高齢者賃貸で暮すコツ』

【今回のキーワード】
ヘルパーさんに居室へ来てもらうなど外部から介護サービスの提供を受ければ、要介護者でも十分に「自立型の高齢者向け賃貸住宅」で生活を営むことができます。

自立型の高齢者向け賃貸住宅と介護施設では、特に次の点で違いが際立っています。

❑自立型の高齢者向け賃貸住宅
・生活面は自由度が高い
・介護サービスは自由に選択できる

❑介護施設
・生活面はルールが多い
・介護サービスはスタッフが常駐し手厚い

要約すると、介護施設ではルールにしばられる代わりに「安心安全」の度合いは高くなり、高齢者住宅では自由度が高い反面、「安心安全」の度合いは低くなります。

自分なりにカスタマイズできる高齢者賃貸

しかし、高齢者住宅の場合は、安心安全の低いところを補うことができるという点が見逃せません。

というのも、訪問介護や通所介護のサービスが充実してきた現在、ヘルパーさんに居室へ来てもらうなど外部から介護サービスの提供を受ければ、要介護者でも十分に「自立型の高齢者向け賃貸住宅」で生活を営むことができます。

つまり自分の要介護度に合わせて、いま必要な介護サービスだけを選んで利用し、自分なりにカスタマイズができるわけです(完全介護の施設では自由に選択できない)。

そうした住まい方が理解されるなか、要介護の方が「自立型の高齢者向け賃貸住宅」に入居するケースも増えてきました。

先日、お一人では廊下にも出られない要介護の方でしたが、自由な暮らしを望んで「自立型」に入居。
デイサービスに週3回通っていますが、「お風呂に入れてもらえるのが楽しいですね」と話していました。

第9回『コロナ禍で孤立する要介護の高齢者を救え』

【今回のキーワード】
「自分にとって最適な住まいとは何か」早めにしっかりと考えておくことが大切。コロナ禍を機に、その重要性が一層明確になったのではないでしょうか。

2020年7月、自宅で要介護4のSさん(85歳女性)を介護していた娘さん(52歳)が、新型コロナウイルスに感染していることがわかりました(PCR検査で陽性)。
そのため、娘さんは高齢の母親と2人暮らしの自宅には戻れなくなったのです。

このとき、母親Sさんの弟さんからこんなご相談がありました。

「介護者がいないと、姉のSは1人では生活できません。すぐに入居できる介護施設を紹介してほしいんです」

そこで、空き室のある介護施設に問い合わせたところ、すべての施設から入居を断られました。
感染者と同居していたSさんは、現状では濃厚接触者に当たるという理由からです。

「早めに住み替えておくべきだった」

困り果てた弟さんは行政に相談しましたが、濃厚接触者というだけで(PCR検査を行う前に)、入院などの措置はとれないとのこと。
とりあえずは行政の用意したホテルの一室で一時的に滞在し、しばらく様子をみてくれることになったのです。

弟さんはこう後悔されていました。

「介護をしていた一人娘は会社勤めもしていたので、“自宅での介護はもう限界です”とずっと話していたんです。数年前から高齢者向け住宅や介護施設をあちこち見学していましたが、こうなる前に早めに入居しておくべきだったと思います」

このように在宅の要介護者が孤立してしまい、行き場さえもないという事例が今、数多く報告されています。
いまだウイルスの終息が見通せない中、誰もが難しい判断を迫られ、どう対応していいか苦しんでいるのが実情です。

まずは「自分にとって最適な住まいとは何か」について、早めにしっかりと考えておくことが大切だと思います。

昨今のコロナ禍をきっかけに、その重要性がより一層明確になったのではないでしょうか。

第10回『コロナが奪った高齢者の笑顔は取戻せるか』

【今回のキーワード】
感染を抑え込んだ成果と引き換えに、失われていくものもある。人との接触を避ける厳しい措置が、入居者の孤立を招いているという専門家の指摘も耳にしました。

いま高齢者向けの介護施設では感染予防対策のため、厳戒態勢を敷いている施設が大半です。
館内の衛生管理の徹底にとどまらず、来訪者との面会や外出、外泊なども一切禁止されています。

その結果、介護施設での感染は最小限に抑え込まれていると評価する声が上がっています。

重症化しやすい高齢の入居者の命を守るため、最前線で奮闘する職員の皆様には感謝と敬意を表したいと思います。

「家族にも会えなくなったことが一番苦しい」

一方ではそうした大きな成果と引き換えに、失われていくものもあるようです。
人との接触を避ける厳しい措置が、入居者の孤立を招いているという専門家からの指摘も耳にします。

2020年夏、神奈川県の有料老人ホームに入居中の女性(82歳)からこんなご相談がありました。

「私は日頃から許可をもらって外出し、子どもや孫、友人たちとよく会っていました。
最近は、家族にもまったく会えなくなったことが一番苦しいです。
どこか他の施設に移れないものでしょうか
少し涙ぐんでいらっしゃいました。

面会等を制限しない高齢者向け賃貸住宅

このように比較的お元気なご相談者には、外出や面会などを制限しない「自立型の高齢者向け賃貸住宅」のことをお話ししています。

「しかし、高齢者向け住宅はルールのしばりがない代わりに、感染のリスクが高いのではないですか?」
そう心配をする方には、このようにお伝えしています。

「ご紹介する自立型の高齢者向け賃貸ではマスクの着用、館内の消毒、食堂で間隔をあけて座るといった感染予防対策はしっかりと行われ、一般よりも高いレベルで実施されています」

© 株式会社イチイ