エンケラドゥスのメタンはどうやって生成されたのか? プロセスを検討した研究成果

【▲ 土星探査機「カッシーニ」が撮影したエンケラドゥスのプルーム(Credit: NASA/JPL/Space Science Institute)】

パリ高等師範学校のAntonin Affholder氏、アリゾナ大学のRégis Ferrière氏らの研究グループは、土星の衛星エンケラドゥスプルーム(水柱、間欠泉)から検出されたメタンに関する研究成果を発表しました。研究グループは、エンケラドゥスのメタンが生物によって生成されている可能性は否定できないものの、生物が関与しない非生物的な生成プロセスに関するさらなる研究に期待を寄せています。

■研究グループは非生物的なメタンの生成プロセス解明に期待

エンケラドゥスの南極域からは水を主成分としたプルームが噴出していることが知られていて、氷の外殻の下にある広大な内部海の水が外殻の割れ目を通して噴き出していると考えられています。2017年9月にミッションを終えた土星探査機「カッシーニ」は、エンケラドゥスのプルームを何度か通過して観測を行いました。

カッシーニの観測データはプルームに水素分子(H)、二酸化炭素(CO)、メタン(CH)が含まれていることを示していて、これらの分子は内部海の海底における熱水活動に関係するとみられています。このことから、エンケラドゥスの海底には地球で見つかっているような高温の水を噴き出す熱水噴出孔が存在しており、その周辺には化学エネルギーを利用する生物が生息している可能性があるとして注目されています。

研究グループは今回、予想外に多いというカッシーニが検出したメタンの量に注目しました。地球の場合、海底の熱水活動に関連して生成されるメタンの多くは微生物の活動に由来するもので、非生物的なプロセスではゆっくりとしか生成されないといいます。そこで、研究グループは地球化学と微生物生態学を組み合わせた数理モデルを構築し、カッシーニの観測データをうまく説明できるメタンの生成プロセスを検討しました。

その結果、地球の海底の熱水活動における既知の非生物的なメタンの生成プロセスでは、カッシーニの観測データを十分に説明できなかったといいます。いっぽう、熱水噴出孔の微生物による生物的な生成プロセスであれば、観測データと一致する量のメタンを生成できる可能性が示されたとしています。

ただし、今回の研究は「エンケラドゥスに生物が存在する可能性」を示したものではなく、あくまでも「観測されたメタンの量を説明できる既知の生成プロセス」を検討した結果として「生物の関与が否定できない」ことを示したにすぎません。研究グループは、カッシーニの観測データをより良く理解するためにも、まだ知られていない非生物的なメタンの生成プロセスを解明するための研究に今回の成果がつながることを期待しています。

なお、研究グループは仮説の一つとして、メタンがエンケラドゥスの岩石でできたコア(核)に含まれている有機物から生じた可能性に言及。エンケラドゥスの形成時には彗星などによって有機物に富む物質がもたらされた可能性があり、この有機物から熱水活動を介して水素分子、二酸化炭素、そしてメタンが生じる可能性が考えられるとしています。

【▲ エンケラドゥス内部の模式図。氷の外殻と岩石でできたコアの間に内部海が存在すると考えられている(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

関連:エンケラドゥスの地下海では赤道と極域の間で循環が生じている可能性

Image Credit: NASA/JPL/Space Science Institute
Source: アリゾナ大学
文/松村武宏

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