F1 Topic:白線を2度カットした角田。すぐにペナルティを知らされず、最初のミスを認識していなかったことも一因か

「おそらく、(角田は小さいから)シートから白線が見えなかったのだろう。これからはもう少し、シートを高くしないといけないな(笑)」

 2021年F1第9戦オーストリアGPのレース後、レッドブルのヘルムート・マルコの囲み会見で、角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)がレース中に2度も白線をまたいでピットインして、2度ともペナルティを取られた件について筆者が尋ねると、そう言って笑い、それ以上はコメントしなかった。それはマルコがこの問題はそんなに大きなことではないと考えているのか、それとも振り返るのも馬鹿馬鹿しいほど愚かなミスだと思っているのかはわからないまま、別の記者の質問に移ってしまった。

ヘルムート・マルコ(レッドブル モータースポーツアドバイザー)

 なぜ、角田は2度も白線をまたいだのか。

 まず、状況を整理しよう。レッドブルリンクには、ピットエントリー手前の9コーナーから白線が引かれており、それはピットエントリーまで続いている。これはピットインせずに走行ラインを走るドライバーが、ピットインしようとして減速するドライバーに追突しないための安全措置だ。レッドブルリンクの9コーナー前後には起伏があって、見通しが悪いのだ。

レッドブルリンクのターン9
ピットエントリー
白線の内側を走行してピットに向かうマシン
ピットインせずに走行を続けるマシン

 その白線の外から、角田は白線をまたぐようにして、ピットエントリーへ向かってしまった。

 レース直後、ミックスゾーンに現れた角田に、筆者はその件について尋ねている。その最初のやりとりが、レース後の『角田裕毅F1第9戦密着』でも書いた次のコメントだ。

「白線を切った件についてですけど、先週も今週のフリー走行でも僕は同じようにピットインしていたのに、急になんでという感じです」

 もう少し、踏み込みたかったが、角田が次のようにコメントを続けたため、それができなかった。

「そもそも5秒ペナルティがなくてもポイントは獲れていませんでしたし、ペースが悪すぎたので、それがなぜなのか分析します」

 そこで、角田を取材した後、レースディレクターのマイケル・マシが会見を開くというので、参加した。多くの記者がランド・ノリス(マクラーレン)へのペナルティの件と、予選でのスロー走行に関する質問をしていたので、こちらもなかなか時間を割くことができなかったが、角田が言う「フリー走行で何も言われなかったのに、レースで急に」という件について尋ねると、マシはこう回答した。

「これは2年前に改訂されたことだが、白線をまたいでピットインしても、フリー走行ではペナルティを取らず、警告にとどめている。それは、このグランプリだけでなく、ずっと同じ。もちろん、先週もそうだった。そして、先週も今週もそれは角田には出していない。私がこの件で警告したのは、(ニコラス・)ラティフィだけだ」

 つまり、角田はフリー走行と同じようにピットインしているつもりだったようだが、実際には白線をまたいだのはオーストリアGPのレースだけだったようだ。

2021年F1第9戦オーストリアGP金曜フリー走行 ピットに向かう角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

 何よりも気になるのは、白線をまたぐという初歩的なミスを2度も犯したことだ。

 筆者はマシに「チームからの問い合わせはなかったのか?」と尋ねると、マシは「アルファタウリからはなかった。今回のレースであったのは、スタート直後の事故の後にアルピーヌからと、再スタート直後の(セルジオ・)ペレスとノリスの事故でレッドブルからと、そしてペレスと(シャルル・)ルクレールの事故でフェラーリからの3件だけだった」

 そして、こう続けた。

「なぜ、チームは1回目のペナルティを受けた後、そのことをドライバーに説明し、2度目の違反を防ごうとしなかったのか……」

 それは、筆者も感じていたことで、角田とのやりとりでも、次のように質問している。

「1回目のペナルティの後、2回目のピットストップに向けて、チームと何かやりとりしたとか、チームから『気をつけるように』などの指示はなかったのですか?」

 すると角田はこう答えた。

「ありましたけど、本当にピットエントリーの寸前でした」

 そこで角田の車載映像とその無線を確認すると、じつは角田がチームからペナルティを受けていることを知らされたのは、2回目のピットインの際で、しかもピットレーンに入ってからのことだった。つまり、角田はそもそも1回目のピットインの際にペナルティを受けていたことを知らずに、2回目のピットインまでレースを続けていたことになる。

 ピットインの指示が急だったために、慌てて走行ラインからピットインして白線をまたいだのかとも思ったが、映像と無線では8コーナー立ち上がりで「BOX」の指示が出ていて、角田も9コーナーの手前ですでにラインをイン側に変えているから、ピットインの指示のタイミングが遅すぎたということは考えにくい。

 むしろ、マシが指摘するように、チームからマシに問い合わせがなかったということは、チームは角田が白線をまたいでペナルティを科せられたことに関して疑問はなく、十分理解していたと考えるのが自然だ。

 さらにこの日のレースは2ストップ作戦だったから、もう一度、角田をピットインさせることもわかっていた。そうだとしたら、なおさら、2回目のピットインの前に、チームは角田に「1回目のピットストップの際に白線をまたいで5秒ペナルティを受けているから気をつけろ」という注意をしなかったのかが不思議だ。

 そこで考えられるのは、チームが角田の精神状態を考え、あえてその件を伏せていたのではないかということだ。

 角田にペナルティが科せられたのは、21周目。ピットアウトして前を追う角田の前には、1ストップでやや遅いペースでレースをしていたマシンが続々と現れていたときだった。チームは角田がカッとなりやすい性格だということを知っている。そんなときに、ペナルティの件を伝えたら、レースに集中できなくなったり、あるいは5秒を挽回して、無用なリスクを犯すのではと考えたのではないか。

 実際、無線を聞いていても、ピットインした角田に「5秒ペナルティ」としか告げていない。これは、ピットインしても、最初の5秒間はなにもしないで静止しているだけだ、ということを知らせるものであって、白線をまたがないよう注意しろというもので伝えられたのではない。

 その後、ピットレーンを走行する角田が「なんで?」と問うと、チームは「白線をまたいだからだ」と告げている。したがって、角田はペナルティを受けたことを知らないまま、1回目と同じように2回目のピットインを行ったため、同じミスを繰り返したのではないかと考えられる。

 レース後、角田と筆者のやりとりでも、角田はこう語っていた。

筆者:白線をまたいでいたことはわかっていましたか?
角田:わかっていなかったです

 ただし、たとえチームにコミュニケーションという点で問題があったとしても、1回目の白線をまたいだペナルティはドライバー、つまり角田が負うべきペナルティである。というのも、白線をまたいではならないことは、注意されなくともドライバーが自覚していなければならない最低限のルールだからだ。

 今回のレース後のインタビューは、筆者との日本語だけでなく、その後の英語も、これまでで最も短いやりとりに終わっており、海外の記者も「こんなに落胆した角田を見たのは初めてだ」というほどだった。確かに、今回のミスはトップドライバーを目指すのなら、やってはいけないケアレスミス。ただし、気をつければ防げる類のもので、それほど心配はいらないと海外の記者たちも口にしているほど、深刻なものではないことも事実。反省すべきことは反省し、気持ちを切り替えて、次戦イギリスGPに臨んでほしい。

2021年F1第8戦シュタイアーマルクGP木曜日 サーキットウォークでチームスタッフとともにターン9を歩く角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

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