コロナ禍に打ち勝つ映画「クワイエット・プレイスー」で見えた“共感” 大阪なおみのことが頭に

コロナ禍のハリウッド事情

新型コロナウイルスが猛威をふるい、パンデミックが起こった現代。ロックダウンとなった都市も世界的に多く、ハリウッドも漏れなくそれに伴い映画館休館。早くにワクチン開発をし、急速に接種が始まったアメリカでは、3月15日からロサンゼルスの映画館が営業再開となりました。

映画大国にとっては大きな痛手であり、配信サービスを持つディズニーは、実写『ムーラン』ではアメリカを含む一部の国での劇場公開を断念、『ソウルフル・ワールド』(本年度アカデミー賞長編アニメーション賞受賞)『ラーヤと龍の王国』などは早い段階で劇場公開を諦め、配信に切り替えるなどの策を取りましたが、その他のスタジオを考えるとやはりワクチン接種が現時点で産業をつぶさない要になる気がします。

コロナ禍で大ヒットしたサバイバル映画とは

そんな本国アメリカで5月28日に公開され、早くもコロナ禍史上、最大のヒットを飛ばした映画『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』が日本では6月18日公開。待ってましたよ、ハリウッドメジャーの劇場公開を!前作『クワイエット・プレイス』は2018年に公開され、世界的に大ヒットを記録、すぐにシリーズ化決定となった作品です。では何故、そこまでヒットしたのか?

まずは前作の日本版ポスターも素晴らしく、興味をそそるものでした。「音を立てたら、即死。」というキャッチコピーも絶妙です。更に見たいと思わせる物語設定なのです。だって、ある日突然、世界に得体の知れない“何か”がやってきて、ソレは音に超敏感で、気づかれたら高速で殺される、というお話なのですから。

パート2は、前作の母親と、聴覚障害の長女、ちょっと臆病な弟、そして赤ちゃんというエヴリン一家が引き続き登場。パート1同様、すぐ泣く赤ちゃんをどうやって泣かせないようにするのか、耳の聞こえない長女はどうやって音を立てずに生きていくのか、怖がりの弟は動揺せずに危機を乗り越えられるのか、といった緊張感を味わいつつ、子供たちの成長を見守り、“何か”が初めて地球にやってきた日も描かれているので謎が解けて気分はスッキリ。

“共感”が多くの人に希望をもたらす

そして改めて気づかされたヒットの理由のもう一つが、“共感”というストーリーラインでした。映画やドラマがヒットする要因には、登場人物に“共感”することも影響を及ぼすと言われていますが、『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』は、自分たちが投影しやすい家族が主人公であり、それぞれの感情や行動が自分ごとのように見えてくるのです。それは前作に続き、監督、脚本、制作のジョン・クラシンスキーが家庭を持っていることと、妻が主演女優のエミリー・ブラント本人であることが最大の力となって、父親ならばどう乗り越えようとするのか、母親ならばどう対応しようとするのか、子供は“やってはいけないと言われるとやってしまう生き物”ということも理解した上で、脚本を組み立ててリアルな演技で鬼気迫る状況を作り出しているのです。

子供は親の背中を見て育つ、を体現した映画であり、だからこそ大人は子供に誇れる行動をとることが大事、と伝えてくるサバイバル術。コロナ禍の今、学ぶことが多く、困難を乗り越える希望の物語でした。

更にもう一つ、映画から素晴らしいメッセージをもらいました。「勇敢な人間こそ守り救うべき存在」という考え。弱き者を救うのは勇敢な人であり、道を切り開いていくのも勇敢な人、だからこそ彼ら彼女らを援護する(守る)必要がある。そんな思いを巡らせていたら、ふと、大坂なおみ選手のことが頭に浮かんだのでした。守るべき存在、そう思いませんか?

(映画コメンテイター・伊藤さとり)

© 株式会社神戸新聞社