2021年上半期(1-6月)『後継者難』の倒産状況調査

 2021年上半期(1-6月)の『後継者難』の倒産は188件(前年同期比3.5%減)で、2年ぶりに前年同期を下回った。ただ、全倒産に占める構成比は6.1%(前年同期4.8%)で、前年同期より1.3ポイント上昇した。調査を開始した2013年以降、上半期の構成比では最高を記録し、中小企業の深刻な後継者不足が顕在化している。
 産業別では、最多がサービス業他の40件(前年同期比17.6%増)。次いで、建設業38件(同19.1%減)、製造業32件(同8.5%減)と続く。
 資本金別では、1億円以上は上半期では3年連続で発生がなかった。ただ、1千万円未満(個人企業他を含む)は100件(構成比53.1%)で、5割を超えた。
 負債額別では、1億円未満が127件(同67.5%)と6割を占めた。業歴別では、1980年代以前の設立(創業)が102件(同54.2%)と半数を超え、業歴が長い小・零細企業ほど事業承継が深刻なことを示している。
 『後継者難』倒産188件のうち、「死亡」が95件(構成比50.5%)で、過去最高を記録した。次いで、「体調不良」が57件(同30.3%)で、この2要因で『後継者難』倒産の8割(構成比80.8%)に達した。中小企業の多くは、経営全般を担う代表者の死亡や体調不良などの不測の事態に直面すると、たちまち事業継続が困難になりやすい。長引くコロナ禍で業績回復が遅れ、後継者の育成も進まない企業は、さらに経営基盤の不安定さが増すことが懸念される。

  • ※本調査は「人手不足」関連倒産(後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰)から、2021年上半期(1-6月)の「後継者難」倒産を抽出し、分析した。

倒産件数188件、倒産全体の6.1%に上昇

 2021年上半期の『後継者難』倒産は188件(前年同期比3.5%減、前年同期195件)で、2年ぶりに前年同期を下回った。倒産全体(2021年上半期3,044件)がコロナ禍の資金繰り支援策に下支えされ低水準で推移するなかで、『後継者難』倒産は全体の6.1%(前年同期4.8%)と構成比が上昇した。
 後継者の有無は、金融機関の貸出時の審査にも関わる。これまで金融機関の審査は、財務内容に基づくスコアリングが中心だったが、事業性や成長性など「事業性評価」への取り組みが浸透し、審査では重要な判断材料の一つとなっている。
 多くの中小企業は、代表者が経理や営業、人事など経営全般を担い、それだけに後継者の育成は遅れがちだ。代表者の高齢化が進むなか、代表者の死亡や病気、体調不良など、突然の出来事が事業継続に支障を来すリスクは高まっている。
 中小企業の後継者不足は、企業の努力だけでは解決できない側面もあり、ステークホルダーの支援も欠かせなくなっている。

後継者難

【要因別】「死亡」と「体調不良」で8割

 『後継者難』倒産の要因別では、代表者などの「死亡」が95件(前年同期比18.7%増、前年同期80件)で最多だった。調査を開始した2013年以降、上半期では2015年同期の81件を上回り、過去最多を記録した。『後継者難』倒産に占める構成比は50.5%(前年同期41.0%)で、前年同期より9.5ポイント上昇した。
 また、「体調不良」は57件(前年同期比17.3%減、構成比30.3%)で、2年ぶりに前年同期を下回った。ただ、前年同期(69件)に次いで、調査を開始以来、2番目に多かった。
 「高齢」が18件(前年同期比30.7%減、構成比9.5%)で、3年ぶりに前年同期を下回った。
 代表者などの「死亡」と「体調不良」は合計152件(前年同期比2.0%増、前年同期149件)で、2年連続で前年同期を上回った。『後継者難』倒産に占める構成比は80.8%(前年同期76.4%)と、前年同期より4.4ポイント上昇した。
 代表者の高齢化が進むなか、中小企業では事業承継や後継者の育成なども、重要な経営課題の一つとなっている。

後継者難

【産業別】10産業のうち、4産業で増加

 産業別では、10産業のうち、増加が4産業、減少は4産業、2産業が前年同期を同数だった。
 増加では、サービス業他が40件(前年同期比17.6%増、構成比21.2%)で、2019年同期より3年連続で増加し、初めて40件台に乗せた。
 サービス業他では、広告業(ゼロ→4件)や建築設計業(1→4件)などを含む「学術研究,専門・技術サービス業」(2→11件)、美容業や結婚式場業などを含む「生活関連サービス業,娯楽業」(2→5件)、「物品賃貸業」(ゼロ→3件)などで増加した。
 そのほか、農・林・漁・鉱業2件(前年同期1件)が2年連続、金融・保険業1件(同ゼロ)と不動産14件(前年同期比7.4%増)が2年ぶりに、それぞれ前年同期を上回った。
 一方、減少では、小売業21件(同16.0%減)が3年ぶり、建設業38件(同19.1%減)と製造業32件(同8.5%減)、情報通信業2件(前年同期6件)が2年ぶりにそれぞれ減少した。
 卸売業と運輸業が前年同期と同件数だった。

後継者難

【形態別】消滅型倒産の構成比が過去最高の96.8%

 形態別では、最多が「破産」の170件(前年同期比0.5%増、前年同期169件)で、『後継者難』倒産に占める構成比は90.4%(前年同期86.6%)と、前年同期より3.8ポイント上昇した。
 また、「特別清算」が12件(前年同期比200.0%増、前年同期4件)で、初めて10件を超えた。
 「破産」と「特別清算」は合計182件(前年同期比5.2%増)で、構成比は96.8%(前年同期88.7%)に達し、『後継者難』倒産のほとんどが消滅型の倒産だった。
 一方、再建型の民事再生法は前年同期と同件数の1件、会社更生法はゼロだった。

【資本金別】1千万円未満が5割以上

 資本金別では、1千万円未満(個人企業他を含む)が100件(前年同期比6.5%減、前年同期107件)。『後継者難』倒産に占める構成比は53.1%(前年同期54.8%)と、5割を超えた。
 一方、1億円以上は2019年同期以降、3年連続で発生していない。

【負債額別】1億円未満が約7割

 負債額別では、1億円未満が127件(前年同期比12.4%減、前年同期145件)。『後継者難』倒産に占める構成比は67.5%(前年同期74.3%)で、引き続き小規模倒産が主体となっている。
 ただ、1億円以上5億円未満が52件(前年同期比23.8%増、前年同期42件)、5億円以上10億円未満が7件(同75.0%増、同4件)と、それぞれ2年連続で増加しており、中堅企業でも事業承継が問題となってきている。

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