レース前から感じていたチャンス。4度目のインディ500制覇は「最高の瞬間」/エリオ・カストロネベスインタビュー

 今年のインディ500のレース終盤、エリオ・カストロネベス(マイヤー・シャンク・レーシング)が見る者を興奮に陥れる、抜きつ抜かれつのバトルをアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング)と繰り広げた。

 エリオは外側のラインを使う、攻めの走り。最終的にエリオが0.5秒早くフィニッシュラインを横切り、伝統のレースで4勝を挙げた伝説的なウイナーたち、A.J.フォイト、アル・アンサー、リック・メアーズとともに、インディ500の神殿に並ぶこととなった。

 エリオのこれまでのインディ500での勝利、つまり2001年、2002年、2009年のそれはチーム・ペンスキーからの出場によるものだった。しかし、46歳のブラジル人は2020年限りでペンスキーから放出されることに。

 そして今年は、マイケル・シャンクとジム・メイヤーの新興チーム『マイヤー・シャンク・レーシング』からインディ500を含む6戦に出場することになった。ホンダエンジン搭載のマシンでシリーズにフル出場。過去2シーズン、ドライバーのジャック・ハーベイが好走を見せてきているというチームだ。

「最高の瞬間だった」とエリオは笑顔を見せた。

「アル・アンサー、A.J.フォイト、そして私のヒーローであるリック・メアーズに続き、このグループに加わることができるなんて、本当にすごいこと。しかし、もっと大切なのは素晴らしい人たちに囲まれ続けることだ。それが私はうれしい。(ロジャー)ペンスキーと一緒にいた時間は素晴らしいものだった」

「そしていま、私は新しい友人であるマイケル・シャンクやジム・メイヤーと一緒にいて、本当に楽しむことができている。彼らは私に新しいチャンスをくれた。チームは彼らが実際にレースで見せてきているとおりに強力だ。(インディ500のひとつ前のロード戦である)インディGPでチームはハーベイとともに勝てる位置につけていた。そして、インディ500は私とともに勝った。優秀な人材の集合体だ」

 エリオは自分のマシンがインディ500を制する可能性のあるものだと確信していた。

「予選を終えたとき、自分のマシンがとてもいいと感じていて、レース前からチャンスがあると分かっていた。マシンのフィーリングは非常によかった。だから、マイケルに『マシンは本当にいいから、もう触らないでくれ』と言ったんだ」

エリオ・カストロネベス(マイヤー・シャンク・レーシング)

 エリオが考えていたとおり、彼はレースを通して非常に高い競争力を発揮。パロウとの激しいバトルを楽しんだ。

「マシンの調子がとても良かったので、最後の勝負のときまで上位のポジションをキープするよう努めていた。最後のピットストップを行うと、私はパロウの後ろの2番手で、(パト)オワードがそこに少しだけ絡んできた。自分が何をすべきかは分かっていた。インディアナポリスで何度も勝ち損ねてきているから、私は自分自身に、“今回はそんな日にはさせない”と言い聞かせていたんだ」

「パロウはとてもよかったし、とても速かった。チップ・ガナッシ・レーシングもいい仕事をしていたということだ。彼らのマシンは単独走行で非常に強力だった。彼らは221mphに近い、驚異的なラップを出すことが可能だった。自分も先頭に出たとき、試してみたが、それはできなかった。だから、絶好の機会が訪れるのを待つことにした」

「前を走ること、後ろにつけること、どちらのメリットも理解していた。ターン2やターン4でパスできると分かっている限り、勝てるチャンスはすごく大きなものがあると考えながらね。2回ほど、先にフィニッシュラインを横切れるかどうかの確認をしており、そのとおりになった。自分とパロウの前にトラフィックが近づいてきているのを見たとき、“あれが自分の助けになるはず。うまくやらないと”と思った」

「プラクティスで5~6台が一列になって走り、誰もお互いをパスできないでいたときと同じだった。25周も走ったタイヤでは、彼も私を追い越すことはできないだろうと考えていたが、それは正解。大きなトラフィックが見えたとき、“これだ!”と。トラフィックに引っ張ってもらう必要があった。そうすれば、パロウと同じスピードを出せる。もう待つことはしなかった。楽しかった。パロウが無理に突っ込んでこれないようにする必要もあった」

「レースの最後では少し振動が出てきたけど、気にならなかったね。ただ走り続け、コクピット内のツールを使ってマシンを少しだけ変えた。パーフェクトだった。それでも、フィニッシュラインを横切ったとき、“信じられるか? 信じられない。信じられるか?”とひとりごとを言っていた。本当に楽しかったね」

※このインタビューは本誌『オートスポーツ』No.1556(2021年7月2日発売号)からの転載です。

フィニッシュラインを横切るカストロネベスのマシン
金網をよじ登るおなじみの“スパイダーマン”パフォーマンスを見せるエリオ・カストロネベス
“スパイダーマン”を決めた後、襲い来る感傷をこらえきれなくなったのか、エリオはマイケル・シャンクの肩で咽んだ
auto sport No.1556(2021年7月2日発売号)の詳細はこちら

© 株式会社三栄