盤石の右腕と覚醒した右の大砲が好成績 セイバー指標で選ぶパ月間MVPは?

オリックス・杉本裕太郎【写真:荒川祐史】

オリックスは12の貯金、王者・鷹は6球団ワーストの借金5

6月末日時点で4.5ゲーム差の中に上位5球団がひしめき、混迷の様相を呈しているパ・リーグ。そんな混戦のパ・リーグで6月に活躍した選手をデータで探り出し、セイバーメトリクスの指標で「月間MVP」を選出してみる。

選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。

7日に発表された「大樹生命月間MVP賞」でパ・リーグは山本由伸投手と杉本裕太郎外野手のオリックス勢がダブル受賞した。では、セイバーメトリクスの指標ではどうか? 6月のパ・リーグ月間成績を振り返る。

〇オリックス:16勝4敗3分
打率.267、OPS.722、本塁打17、援護率4.40
先発防御率2.33、QS率52.2%、救援防御率1.86

〇楽天:11勝10敗1分
打率.265、OPS.712、本塁打15、援護率3.61
先発防御率4.17、QS率40.9%、救援防御率2.64

〇西武:10勝9敗5分
打率.251、OPS.731、本塁打26、援護率4.13
先発防御率4.72、QS率37.5%、救援防御率3.54

〇日本ハム:8勝11敗3分
打率.238、OPS.655、本塁打14、援護率2.96
先発防御率3.57、QS率40.9%、救援防御率2.91

〇ロッテ:7勝11敗4分
打率.243、OPS.689、本塁打15、援護率3.56
先発防御率5.32、QS率45.5%、救援防御率2.30

〇ソフトバンク:6勝11敗6分
打率.216、OPS.653、本塁打23、援護率3.62
先発防御率3.06、QS率69.6%、救援防御率2.84

オリックスは打撃陣が好調を維持し、投手陣も6月は絶好調だった。先発防御率2点台、救援防御率1点台は群を抜いていた。援護率もリーグ1位で、6月だけで12の貯金を積み上げた。6月6日から1分けを挟み11連勝を達成。同21日には7年ぶりに単独首位に立った。

対照的にソフトバンクの低迷ぶりも目立った。特に打撃陣の不振は深刻で、打率.216、OPS.653はリーグ最下位だった。

ここでは、セイバーメトリクスの指標による6月の月間MVP選出を試みる。

オリ杉本は打率、OPS、長打率などでリーグトップ

【打者部門】

打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりも、どれだけその選手が得点を増やしたかを示す「wRAA」を用いる。

各球団のwRAA上位3人は以下の通り。

〇オリックス:杉本裕太郎11.88、福田周平6.03、吉田正尚5.47
〇ソフトバンク:柳田悠岐4.46、三森大貴3.36、長谷川勇也1.49
〇ロッテ:レアード8.56、マーティン4.25、荻野貴司1.41
〇楽天:小深田大翔5.39、島内宏明4.92、岡島豪郎4.59
〇西武:森友哉8.56、山川穂高5.51、スパンジェンバーグ2.48
〇日本ハム:近藤健介6.30、浅間大基5.46、高浜祐仁2.58

6月の打撃による貢献が最も大きい打者は、オリックスの杉本裕太郎である。打率.375、打点19はリーグ1位。本塁打5もリーグ3位タイと主要打撃部門で優秀な成績を収めている。公式な月間MVPにも選ばれた杉本は、セイバーメトリクスの指標による評価でも月間MVPに推挙すべき選手である。

杉本裕太郎:wRAA11.88、打率.375、OPS1.113、長打率.675(いずれもリーグ1位)、本塁打5、出塁率.438(ともにリーグ3位)

オリックス・山本由伸【写真:荒川祐史】

6月の山本由伸はQS率100%、防御率や奪三振率などでリーグ1位

【投手部門】

投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す「RSAA」を用いる。ここでのRSAAは「tRA」ベースで算出。tRAとは、被本塁打、与四死球、奪三振に加え、投手が打たれたゴロ、ライナー、内野フライ、外野フライの本数も集計しており、チームの守備能力と切り離した投手個人の失点率を推定する指標となっている。

各球団のRSAA上位3人は以下の通り。

〇オリックス:山本由伸8.70、宮城大弥5.04、田嶋大樹3.65
〇ソフトバンク:津森宥紀3.24、武田翔太3.23、東浜巨2.51
〇ロッテ:益田直也2.02、東妻勇輔1.80、佐々木千隼1.38
〇楽天:松井裕樹3.31、則本昴大2.60、宋家豪1.71
〇西武:平良海馬2.77、松本航1.41、十亀剣1.31
〇日本ハム上沢直之5.18、伊藤大海2.53、河野竜生2.25

6月を席巻したのは、やはり好調オリックス投手陣と言えよう。山本、宮城、田嶋の3投手がリーグの中でもRSAA1、2、4位だった。他にも平野佳寿3.53、山岡泰輔2.74、ヒギンス2.54と、RSAA上位の投手が目白押し。特に平野佳の復調は救援陣の安定に大きく貢献している。

先発投手で特筆すべきはハイクオリティスタート(HQS)率の高さである。34.8%のHQS率はリーグ1位。中でも山本のHQS率は6月だけで75%、今季通算で73.3%(7月2日時点)である。6月のセイバーメトリクスの指標による月間MVPには、公式の月間MVPも受賞した山本が推挙すべき選手となる。

山本由伸:RSAA8.70、防御率0.64、WHIP0.68、QS率100%、HQS率75%、奪三振率12.54、被打率.137、被OPS.399(すべてリーグ1位)鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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