育成期から肩肘の故障予防は不可欠… 中学硬式野球でも整備進む“球数制限”の実情

中学硬式野球でも整備が進む“球数制限”、故障を防ぐための指導者の責務とは

日本中学硬式野球協議会が今年1月に「統一ガイドライン」を改訂

8月9日に開幕予定の「第103回全国高等学校野球選手権大会」の出場を目指し、現在、日本各地で地方大会が始まっている。夏の甲子園といえば、必ず話題となるのが「球数」だ。日本高校野球連盟(高野連)では2019年に投球制限を決め、大会期間中は1人の投手が投げられる投球数は1週間で500球と設定。今大会でもこのルールが適用されるが、その数の多い少ないについては議論がやまない。

練習や試合でかかる過度な負荷が、高校球児が肩肘の故障を引き起こす一因であることは明らかだ。だが、日本におけるトミー・ジョン手術(肘内側側副靱帯再建術)の権威、慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師がかねてから指摘している通り、高校生で肩肘の故障を発症する選手の多くは、小中学生時代に既往歴を持つ。つまり、高校入学以前の対策も重要なポイントとなる。

では、中学野球に関わる各団体ではどのような対策を講じているのだろうか。

全日本軟式野球連盟では中学生(少年部)の投球数制限について2020年2月に改訂し、3月より導入。それまで「1日7イニングまで」と投球回数で定めていたものを「大会中の1日の投球数は100球、1週間の投球数は350球」と具体的な投球数に置き換えた。

日本少年野球連盟(ボーイズリーグ)、日本リトルシニア中学硬式野球協会、日本ポニーベースボール協会、全日本少年硬式野球連盟(ヤングリーグ)、九州硬式少年野球協会(フレッシュリーグ)の5団体が加盟する日本中学硬式野球協議会では、2015年から完全適用している「中学生投手の投球制限統一ガイドライン」を今年1月に改訂。こちらでも、これまで試合では「1日7イニング以内、連続する2日間で10イニング以内とする」など投球回数で定めていた投球制限を「1日最大80球以内、連続する2日間で120球以内とする」という投球数に変更した。以下が具体的なルールとなる。

【試合での登板について】
1.1日最大80球以内とし、連続する2日間で120球以内とする。連続する2日間で80球を超えた場合、3日目は投球を禁止する。
2.3連投(連続する3日間で3試合)する場合は、1日の投球制限を40球以内とする。4連投(連続する4日間で4試合)は禁止する。
3.大会中は1日80球投球後、翌日投球を休めば3日目は80球の投球を可とする。
4.1~3を基本原則とするが、打席の途中で制限数がきた場合は当該打者の打席終了までは投球を認める。制限数を超過した球数は投球数にカウントしない。
5.連続する2日間で80球を超える投球をした投手ならびに3連投した投手は、登板最終日ならびに翌日は捕手としても出場できない。
6.ボークは投球数としない。
7.雨などでノーゲームになった試合は投球数にカウントする。

「中学生選手の障害予防のための指導者の責務」が示す基本的な心掛けとは

また、前回から引き続き、練習の中での全力投球についても「1日70球以内、週350球以内とする。また、週1日以上、全力による投球練習をしない日を設けること」と定めている。

改訂された統一ガイドラインは2021年度を周知期間とし、2022年度からすべての団体で完全適用が予定されている。ボーイズリーグは今年5月に上記を踏まえた独自のガイドラインを発表。レギュラーの部(3年生以下の大会)では日本中学硬式野球協議会のものと変わらないが、ジュニアの部(2年生以下の大会)では「1日最大70球、連続する2日間で105球。3連投の場合は1日35球以内」と、さらに少ない投球数を設定した。

2019年に独自の「投球限度」を定めたポニーリーグでは、中学3年生は1試合85球、2年生は75球、1年生は60球とし、同日の連投および投手捕手の兼任と3連投を禁止。1日50球以上投球を行った場合は、投手として休養日を1日挟まないといけないルールとなっている。統一ガイドラインの改定を受け、年内にも現場の声を聞きながら、具体的に来年度のルールを決めていくという。

日本中学硬式野球協議会の改訂統一ガイドラインには「中学生選手の障害予防のための指導者の責務」として6項目が明記されている。改訂前のものにも「指導者の義務」として5項目が記載されていたが、最後に1項目が付け加えられた。

1.複数の投手と捕手を育成すること
2.選手の投球時の肩や肘の痛み(自覚症状)と動き(フォーム)に注意を払うこと
3.選手の故障歴を把握し、肘や肩の痛み(自覚症状)がある選手には適切な治療を受けさせること。またウォームアップとクールダウンに対する選手自身の意識を高めること
4.選手の体力づくりに務めること
5.運動障害に対する指導者自身の知識を高めること
6.練習や試合・大会への参加・出場については健康チェックを十分行うこと。また、大会終了後には十分な休養をとること

指導者が持つべき基本的な心掛けではあるが、改めて明記しなければならないということはつまり、残念ながら実践できていない指導者がいるということだろう。統一ガイドラインでは投球数として具体的な数字が示されているが、実は上記の「指導者の責務」が果たせていれば自然と選手の健康は守られ、具体的な数値を定める必要はなくなるのかもしれない。これは中学野球に限ったことではなく、高校野球も然り。投球数制限の多少を議論する際には、それ以上に指導者の責務について議論してもよさそうだ。(Full-Count編集部)

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