新星のリチウム生成量には多様性がある? すばる望遠鏡による観測成果

【▲ 新星においてリチウムが生成される様子を描いたイメージ図(Credit: 京都産業大学)】

元素の周期表を覚える方法のひとつに「水兵リーベ僕の船……」で始まる語呂合わせがあります。リーベの「リ」にあたる元素のリチウム(Li)は、身近なところではスマートフォンなどで使われるバッテリーの原料として利用されており、現代社会に欠かせない元素のひとつと言えます。

京都産業大学・神山(こうやま)天文台の新井彰氏らの研究グループは、白色矮星と恒星からなる連星で起きる爆発現象「新星」のひとつを観測したところ、生成されるリチウムの量が他の新星と比べて少なかったとする研究成果を発表しました。

新星とは、恒星から白色矮星へとガスが降り積もり続けた結果、白色矮星の表面で水素の暴走的な核融合反応が起きるとされる現象です。星全体が吹き飛ぶ超新星とは違い、新星は短い場合は数十年ごとに繰り返し出現することもあります。研究グループは今回の成果について、新星の爆発メカニズムと宇宙における物質進化の双方を理解する上で重要なものだとしています。

■生成されるリチウムの量は新星によって大きな差がある可能性

初期の宇宙に存在していた元素の大半は水素ヘリウムで、重元素(水素やヘリウムよりも重い元素)は恒星内部の核融合や宇宙線の作用、あるいは新星や超新星のような激しい現象によって生成されてきたと考えられています。私たち人間をはじめとした地球の生命を形作る炭素、酸素、窒素といった元素も、もとをたどれば星によって生み出されたものなのです。

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いっぽう、重元素のなかでも一番軽いリチウムの場合、一部は水素やヘリウムとともにビッグバンで合成されたとみられるものの、大部分(リチウム全体のおよそ9割)は恒星の核融合反応や新星・超新星などによってビッグバン後に生成されたものだと考えられています。

このうち新星については、2013年8月に出現した新星「いるか座V339」(V339 Del)の観測において、国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」の観測装置「高分散分光器(HDS)」によってリチウムのもとになるベリリウム7(Be)が検出されました。ベリリウム7はベリリウムの同位体(半減期は約53日)で、電子捕獲によってリチウム7(Li)に変化します。すばる望遠鏡によって初めて観測的な証拠が得られたことで、新星はリチウムの供給源として有力視されてきました。

研究グループは今回、2015年9月に出現した新星「いて座V5669」(V5669 Sgr)をすばる望遠鏡で観測し、この新星でベリリウムを介してリチウムが生成される様子を調べました。新星でのリチウム生成が観測されたのはこれが史上8例目で、そのうち4例はすばる望遠鏡による成果とされています。観測の結果、いて座V5669で推定されるリチウムの生成量は過去に観測された新星と比べて数パーセントと少なく、新星によって生成されるリチウムの量には100倍ほどの幅があることが明らかになりました。

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研究グループによると、従来の観測結果からは天の川銀河に存在するリチウムの大部分が新星によって生成されたことを説明できていたものの、今回の観測結果は新星によるリチウムの生成量が少ない場合もあることを示しており、ビッグバン後のリチウム生成には新星以外にも超新星などが寄与している可能性が示唆されるといいます。

研究グループでは今後、新星が起きた連星の物理的性質を詳しく調べることで、リチウムの生成量に多様性が生じる理由を解き明かし、天の川銀河における元素組成の進化について理解が進むことに期待しています。

Image Credit: 京都産業大学
Source: 京都産業大学 / 国立天文台
文/松村武宏

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