竹内まりや「セプテンバー」の歌詞に浮かび上がる、季節と愛のうつろいドラマ 1979年 8月21日 竹内まりやのシングル「SEPTEMBER」がリリースされた日

松本隆が描く季節と愛のうつろい「SEPTEMBER」

さんさんと降り注ぐ陽射しのハレーションで色合いが飛んでいた夏の街。夕暮れが早くなったと思ったら、ずいぶん街の色合いが変わっていることを毎年夏の終わりにわたしは感じる。

東京の日の入り時刻は6月下旬から7月初めで19:01、8月21日では18:23、9月1日には18:08、9月21日になると17:40。日没がどんどん早くなり、陽が翳る時間もそれだけ早くに訪れる。

時間の経過というところでは、夏から秋という数か月も、変わっていくのに十分な時間だ。松本隆さんの『風街レジェンド2015』のパンフレット「KAZEMACHI SONG BOOK」、「三枚の写真」の項で松本隆さんは「20代後半だった僕は、人間はずっと同じではいられない、そんなことを実感していたんだと思う」と記している。

「SEPTEMBER」も、夏から秋という数か月での季節のうつろいを、3人の登場人物で描いたドラマだ。ドラマの中に登場する色や光と翳で綴られる、登場人物の心象風景を歌詞に沿って追ってみよう。

主人公は明るい原色が似合う、春から夏の象徴

物語の舞台は8月終わりから9月の街。

仲良くしていた彼の心変わりは、なんとなく感じていた。

追いかける彼は辛子色のシャツが目印。

彼と一緒にいた太陽の眩しい夏のある日、赤白青の鮮やかなトリコロールカラーの、海辺に映える服を着ていた主人公だが、9月になった今は違う装いで電車に飛び乗った。

辛子色のシャツを着た彼は、年上の人に会いに行くところ。車内で誰かを探しているのか、時々振り向くことがある。

会いに行く相手はどんな人だろう。主人公とは別の魅力のある人に違いない。きっと陽が落ちた後の暗い場所で、翳りのある雰囲気が魅力的な大人だろう、第三者のわたしはそう勝手に想像してみた。

辞書を貸し借りするような明るいキャンパスライフを一緒に過ごす若くて可愛い主人公は、昼の時間が長くなっていく春から夏の象徴。明るい場所で一緒に過ごし、何気ないことをお喋りする時間が楽しかった。だが、辛子色の彼は、明るい原色が似合う主人公にどこか物足りなさを感じるようになっていく。

秋の象徴、彼の前に現れた翳りのある年上の人

日が短くなりつつある夏のある日、辛子色の彼の前に現れたのは、秋の象徴ともいえる翳りのある年上の人だった。もちろん主人公はそんなことは知らない。

男女問わず、心変わりはするものだ。

心に翳がさしたのは彼の心? 主人公の心? 彼が求めたのは主人公が持っていない魅力、そしてそんな彼の心変わりに気づいて主人公の心に翳が差す。どうすればいい?

そんなある日、彼が年上の人に会う約束をしたことを知った。年上の相手に歯が立たないのはわかっている。ぎゅっと結んで解けないと思っていた結び目は、するするとほどけていく。

恋の終わりを考えているだけで涙がこぼれる。涙が木の葉になる。9月の木の葉はまだ色付く前。主人公もまだ色付く前。

直談判を考えるなんて、ずいぶん真っ直ぐというか、幼いというか。そんなところが辛子色の彼には物足りなかったのだろうか。ついこの間まではキャンパスで会って何気なく喋れたのに、共通の話題がなくなっていくのはつらく切ない。もう、彼と一緒にいることはできない。

みんな歳を重ねていく、そこに男女の違いはない

一日一日が過ぎ、日暮れが早くなっていく。生きる世界が変わっていく。

9月のある日、主人公は意を決して、辛子色の彼とさよならをすることにした。借りていた辞書も返そう。

主人公は辞書のLのページの真ん中へんの “Love” という言葉だけカッターナイフで切り抜いた。立派な器物破損だが、それくらい、彼の勝手な都合でこちらが身を引くんだからいいよね。そもそも “Love” なんて単語調べないし、こんど辞書を使ったときに気が付くこともないだろうし。でも、気が付いて、思い出してほしいと足跡を残した。

そして何事もなかったかのように、次の日笑顔で辞書を彼に返した。

「辞書、長く借りてたね、ありがとう。さようなら」

最後の言葉は彼に聞こえたかな。傷ついた主人公は少し大人になって、辛子色の彼と別れた。

もう、キャンパスで会っても、前みたいに親しくは話せない。

思い出すとつらくなるから、海辺に行ったときに着ていた鮮やかなトリコロールのお気に入りの服も、もう着ない。

日々が過ぎ、木々は色づき、みんな歳を重ねていく。そこに男女の違いはない。

オリジナルを歌う竹内まりやに共通する宮本浩次のカヴァー

「SEPTEMBER」は女子が男子に失恋する歌と考えがちだが、彼を彼女に置き換えることもできる関係性がある。今回あらためて歌詞を読み込みながら、わたしはいろいろなシチュエーションの3人を想像した。

2021年に宮本浩次さんがカヴァーしたヴァージョンは、宮本さんのソフトな声もあってどこかジェンダーレス。普遍性のある辛い物語を明るく歌うのは、オリジナルを歌う竹内まりやさんと共通する。

色使いの上級者、松本隆が綴る “色”

ところで、松本隆さんの綴る詞に登場する言葉で、“色” は「オリコンベスト10入りした曲で使った言葉ランク3位」だそうだ(出典:『BRUTUS』特集松本隆 2015/7/15)。「SEPTEMBER」に出てくる “辛子色”、“トリコロール” といった具体的な色だけでなく、“映画色”、“常夏色” といった架空の色も松本隆さんは詞に描いている。

辛子色といえば、『風街レジェンド2015』のコンサートパンフレット「KAZEMACHI SONG BOOK」で松本隆さん自身が、「辛子色のシャツは僕が高校生のときに好きだったコーディネートだった」と語っている。しかもそこにモスグリーンのコーデュロイのジャケットというから、難しいカラーコーディネートを軽々とこなす色使いの上級者だ。

ご自身では男子校でモテなかったと謙遜されているが、長身でシュッとして、バンドでドラムを叩き、詞を書く松本隆さんは目を惹く若者だったろうし、わたしが当時そんな男の子と会っていたら、きっと一目惚れしていただろう。

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カタリベ: 彩

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