【高校野球】プロ注目の“岐阜の二刀流” 最後の夏にかける思いと憧れる大谷翔平との「縁」

岐阜第一・阪口楽(さかぐち・うた)【写真:間淳】

岐阜第一・阪口は昨夏の独自大会準々決勝で2本塁打を放ち注目の存在に

全国高校野球選手権岐阜大会は10日に開幕する。投打でプロ注目の岐阜第一・阪口楽(さかぐち・うた)投手にとっても甲子園を目指す戦いが始まる。阪口の日課の1つがエンゼルス大谷翔平投手の本塁打を動画で見ること。二刀流の象徴ともいえる憧れの大谷とは意外な縁もあった。【間淳】

岐阜第一の選手は、ほとんどの打撃練習で木製バットを使う。「1球1球に集中して芯でとらえる感覚をつけるため。それから、金属バットの音で近所迷惑にならないようにですね」。田所孝二監督が笑顔で意図を説明する。

ナインが快音を響かせる中、打球速度の頭抜けた左打者がいる。プロも注目する阪口楽だ。身長187センチ、体重88キロ。恵まれた体格から鋭い打球を飛ばす。特徴はクセのない柔らかい打撃フォーム。そして、すり足での踏み込みと大きなフォロースルーが大谷翔平に重なる。打ち方が似ていると言われることもあるが「レベルが違いすぎて、参考にできないです」と控えめだ。

大谷を真似ることはない。ただ、阪口にとっては憧れの存在であり、海の向こうでの活躍をファンの1人として楽しみにしている。野球のニュースや動画をスマートフォンで見るのが日課の1つで、中でも大谷の本塁打動画を欠かさない。「ただただ、すごい。動画を見るのが楽しいですね。どうやって打っているのかなと見るのですが、レベルが違いすぎて」。今はひたすらバットを振って、自分の打撃を磨くことに集中している。

京都府出身の阪口は小学5年生で野球を始めた。中学校では、そこまでの有名選手ではなかった。その名が全国区になったのは、昨夏開催された岐阜独自大会の準々決勝・帝京大可児戦だった。1回に左中間の一番深いところへ先制2ランを放つと、9回には現在中日でプレーする加藤翼が投じた149キロの直球を右翼スタンドへ運んだ。

現在、高校通算27本塁打。新型コロナウイルス感染拡大の影響で対外試合が激減していることを考えれば、プロ注目にふさわしい。実際、その実績と潜在能力の高さにプロも注目し、試合には多くのスカウトが集まる。

岐阜第一・阪口楽(左から2番目)【写真:間淳】

2011年夏の甲子園、大谷が出場した試合をスタンドから観戦した

阪口は高校野球では珍しくない、主砲でエースの二刀流だ。投手では最速143キロ。本人の評価は「自分くらいのレベルはたくさんいる」と辛口だが、田所監督は「大きく崩れることがなくなって、安心して見ていられるようになった」と成長に目を細める。

直球でも変化球でもストライクを取れるようになり、与四球が減って奪三振は増えた。力のある直球と組み合わせる変化球の1つがナックルカーブ。縦に大きく割れ、打者の目線をずらす効果がある。負荷がかかって割れやすい爪をマニキュアで手入れしながら、最後の夏に備えている。

目標は甲子園出場。その場所には鮮明な記憶がある。小学生だった2011年の夏、阪口は父と弟と初めて甲子園に行った。偶然見たのが、大谷翔平擁する花巻東と帝京の一戦だった。試合は互いに点を取られたら取り返す大接戦。当時2年生の大谷は3番に座って適時打を放ち、投手では2番手で自責点1と好投したが、7-8で帝京に敗れた。

阪口は白熱する試合展開に興奮し、広い球場と大歓声に胸を躍らせた。そして、「ここでプレーしてみたい」と憧れを抱いた。その1年2か月後。プロ野球ドラフト会議で日本ハムから大谷が1位指名を受けると「あの時の選手だ」と、聖地で見た姿が重なった。

大谷がメジャーで歴史に名を刻む活躍を見せ、二刀流の注目は高まっている。「比較されるレベルの選手ではない」と自覚していても、阪口の耳や目には「大谷2世」の言葉が入ってくる。「投手と野手どちらか1つでも極めるのは難しい。自分は二刀流をできるとは思っていません。プロに行けたら打者で勝負して、ホームランバッターになりたい。打撃は、まだまだできると思っています」。大谷に憧れていても、自分を見失うことも過信することもない。この夏、大谷2世ではなく、阪口楽の名を響かせる。(間淳 / Jun Aida)

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