「楽しかった」と言えるために 元燕・由規が高校球児に伝える「悔いのない終わり方」

BC埼玉武蔵・由規【写真:新保友映】

ヤクルト、楽天を経て今年はルートインBCリーグ・埼玉武蔵でプレー

ヤクルト、楽天で通算32勝を挙げた、現在ルートインBCリーグ・埼玉武蔵でプレーする由規投手がNPB復帰という目標に向かっている。今季、開幕から無傷の8連勝を記録し、好調をキープしている。まもなく夏の高校野球シーズンが到来する。球児に向けて、勝敗だけではない大事なことを説いた。【構成・新保友映】

高校球児、特に3年生にとっては集大成の夏がやってきました。悔いを残さないようにと言いますが、なかなかそれは難しいこと。では、どうすればいいか考えてみました。一言で言うならば、自分が納得したか、していないか――。それに尽きるのかなと思います。

昨年、夏の甲子園大会が中止となりました。夢が途絶えてしまった球児にとって、ショックは大きかったはずだし、自分が同じ立場だったら悔いが残ったと思います。

勝負の世界なので、必ず、勝ち負けは出てくるけれど、甲子園に行くだけが高校野球じゃない。一番、大事なことは3年間の中で、自分がやり切ったかどうかだと思います。

高校野球は最後の結果だけでなく、きつい練習をしたという達成感や3年間をトータルで見て「あんなことがあった」「こんなことがあった」といろんなことが凝縮される期間です。3年生の夏を終え、本当に楽しかったと言えるかどうか。甲子園に行ったか、行ってないか、試合に勝ったか、負けたかというものは、結果としてついてくるだけで、大事なのはそこまでのプロセス。3年間、やり切るまでの過程が一番、今後に活きてきます。

苦しいことの方がきっと多い。けれど、大人になった時にそれが面白い会話につながったりすることがあります。経験者ならわかっていただけると思います。それって甲子園に行く、行かないは関係なく、そういう思い出話って、顔を合わせるたびに出てくるんですよね。そういう話ができることが財産だと思います。

ご褒美をもらった時のようにもう1度、あのマウンドへ

僕も小さい頃から野球をやってきて、目標はいつも隣にありました。なんとなくやっているときって「なんで、こんなことやっているんだろう」というところに差し掛かる。

小学生の時は、上の学年が優勝し、間近に見ていて「僕らも優勝したい」「優勝したら次も」と、どんどん膨らんでいった。そんな気持ちでやっていて、気付いたら、ここまで来たか、という状況になっていた。最終的には周りの皆さんのおかげで少年野球で世界大会まで行けたんです。小さなところから全国大会、アジア大会まで行って、世界大会の決勝まで行くことができた。まるで漫画みたいな感じなんですけど……。

中学時代は、全国大会に行ったけど、負けてしまいました。高校ではもっと高いところまで行くぞという意識に変わりました。上手くいくことばかりではありません。特にリハビリの時はすごく思っていました。人によって感じ方は違うと思うけど、苦しいことの先にご褒美、大きいものがきっと返ってくると思って、その壁を乗り越えるようにやっていました。僕にとっては復帰できたことがご褒美だったのかな。

目標設定することでやる気も出るし、あえて、それを口に出していたような気がします。リハビリをしているときは「1試合でも1球でも神宮球場で投げるんだ」という気持ちだった。

今は、ただ野球がやりたいから、BCリーグに入ったわけではありません。もちろん、根本には野球が好きだからというのはあるから、続けていますが、NPBに戻りたいという“目標”がある。

また、ご褒美をもらった時のように、同じ気分を味わいたいから、次へと進む。今も「なぜNPBを目指すのか?」というとあの世界で野球をやれていることが最高の気分だからこそ、もう1回やりたいという思いでやっています。(新保友映 / Tomoe Shinbo)

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